- まえがき
- T 改訂のねらいと基本方針
- 1 改訂のねらい
- 2 基本方針について
- U 改訂構想のビジュアル解説
- §1 全体構造図
- 1 改訂の基本的な考え方
- 2 知識や技能の活用と思考力・表現力・判断力等の育成
- 3 教育課程の見取り図
- 4 共通性と多様性のバランス
- 5 中学校と高等学校の円滑な接続
- §2 新旧対比と解説
- 1 「学力」に関する内容
- 2 「豊かな心」に関する内容
- 3 「健やかな体」に関する内容
- V 総則の改訂事項の解説
- §1 「教育課程編成の一般方針」の解説
- §2 「各教科・科目及び単位数」の解説
- 1 各教科・科目及び単位数に関わる法的根拠と考え方
- 2 各学科に共通する各教科・科目及び総合的な学習の時間並びに標準単位数
- 3 主として専門学科において開設される各教科・科目についての単位数の考え方
- 4 学校設定科目
- 5 学校設定教科
- §3 「各教科・科目の履修等」の解説
- 1 各学科に共通する必履修教科・科目及び総合的な学習の時間について
- 2 専門学科における各教科・科目の履修について
- 3 総合学科における各教科・科目の履修等について
- 4 解説のまとめ
- §4 「総合的な学習の時間」の解説
- 1 改訂の趣旨
- 2 教育課程上必置へ
- 3 「授業時間数」から「単位数」へ
- 4 単位の修得の認定
- 5 職業教育を主とする専門学科における履修の代替
- 6 2単位にできる「特に必要のある場合」
- 7 「学校行事」の実施
- §5 「各教科・科目,総合的な学習の時間及び特別活動の授業時数等」の解説
- §6 「教育課程の編成・実施に当たって配慮すべき事項」の解説
- 1 選択履修の趣旨を生かした適切な教育課程編成
- 2 各教科・科目等の内容等の取扱い
- 3 指導計画の作成に当たって配慮すべき事項
- 4 職業教育に関して配慮すべき事項
- 5 教育課程の実施等に当たって配慮すべき事項
- §7 「単位の修得及び卒業の認定」の解説
- 1 単位修得の認定
- 2 卒業までに修得させる単位数
- 3 各学年の課程の修了の認定
- 4 学校外における学修等の単位認定
- §8 「通信制の課程における教育課程の特例」の解説
- 1 総則の適用について
- 2 総則の適用の除外と第5款44について
- 3 第5款44,ウ「職業における実務等」の適用
- 4 通信課程の特例
- W 総則具体化の課題と展開
- §1 基本方針の解説と具体化
- §2 単位数の考え方と取扱い
- 1 単位数の考え方と取扱いに関する基本的な考え方
- 2 卒業までに履修させる単位数等について
- 3 学校設定科目,学校設定教科及び当該教科に関する科目の単位数
- 4 学校外の学修の単位
- §3 各教科・科目の履修についての考え方と取扱い
- 1 生徒の「教育要求」をくみ上げる履修のさせ方について
- 2 生徒の理解度と到達水準を調べる
- 3 履修計画とシラバスの到達目標
- 4 必履修教科・科目のカリキュラム・マネジメント
- 5 CAPDによる必履修教科・科目の評価と改善
- §4 学校設定科目・教科の考え方と取扱い
- 1 主題についての考え方
- 2 特色ある教育課程の編成
- 3 学校設定科目・学校設定教科の設置に当たって
- 4 「産業社会と人間」
- 5 学校設定科目・学校設定教科を設置する際の留意点
- §5 総合的な学習の時間のねらいと展開の方法
- 1 総合的な学習の時間の「目標」
- 2 「横断的・総合的な学習や探究的な学習」
- 3 「自己の在り方生き方」
- 4 「体験,協同,言語」
- 5 「教師の適切な指導」
- 6 推進のための指導体制の整備
- §6 専門学科の考え方と職業教育に関する配慮事項
- 1 専門学科・高校職業教育の目標
- 2 専門学科における各教科・科目の履修
- 3 職業教育に関して配慮すべき事項
- §7 教育課程編成・実施についての考え方と配慮事項
- 1 教育課程編成の考え方
- 2 体験活動の充実
- 3 選択履修の趣旨を生かす
- 4 内容等の弾力的な扱い
- 5 指導計画の作成
- 6 学科の別を超えて必要な職業教育
- 7 キャリア教育の推進
- 8 言語活動の充実
- 9 ガイダンス機能の充実
- 10 特別支援教育
- 11 学校と地域との連携
- §8 単位の修得・認定の考え方と配慮事項
- 1 履修の条件について
- 2 履修単位数と修得単位数
- 3 性行不良と卒業・進級認定
- 4 原級留置と再履修
- 5 授業料未納と卒業認定
- 6 高等学校卒業程度認定試験の合格科目にかかる学修の単位認定
- §9 通信制の特例の考え方と配慮事項
- 1 総則の適用の除外について
- 2 通信制課程の特例1から5について
- §10 教育課程の編成と評価
- 1 教育課程の編成の手順
- 2 評価の意義と教育課程の評価
- 3 教育課程の評価の法的整備と実際
- §11 中高一貫教育に係わる教育課程の基準
- はじめに
- 1 中高一貫校に共通する基準の部分
- 2 連携型,併設型,一貫型(中等教育学校)に伴う基準の固有の部分
- おわりに
- X 変遷から見た今次総則改訂の特色
- (1) 1949(昭和24)年度 高等学校学習指導要領(試案)
- (2) 1951(昭和26)年度 高等学校学習指導要領(試案)
- (3) 1956(昭和31)年度 高等学校学習指導要領
- (4) 1960(昭和35)年告示 高等学校学習指導要領(昭和38年度実施)
- (5) 1970(昭和45)年告示 高等学校学習指導要領(昭和48年度実施)
- (6) 1978(昭和53)年告示 高等学校学習指導要領(昭和57年度実施)
- (7) 1989(平成元)年告示 高等学校学習指導要領(平成6年度実施)
- (8) 1999(平成11)年告示 高等学校学習指導要領(平成15年度実施)
- (9) 2003(平成15)年告示 高等学校学習指導要領(平成15年度実施)
- (10) 2009(平成21)年告示 高等学校学習指導要領(平成23年度実施)
- 付録 高等学校学習指導要領「総則」
まえがき
2009(平成21)年3月,高等学校(以下,高校と略称)の学習指導要領がやっと公示された。小学校,中学校の公示からすでに丸一年が経っている。当初は,もう少し早く公示されるのではないかと取り沙汰されたので,意外に遅かったのには何か理由があるのではないか,と疑う人も多かった。しかし,基本的は,文部科学省(以下,文科省と略称)は,高校についてはあわてる必要はない,実施に入るのは2013(平成25)年4月からであり,十分時間をかけたいということだったようである。
今回の改訂は,高校の場合も,教育基本法の改正を始めとする教育関連の重要な法律(略称で,学校教育法,教育職員免許法,地方教育行政法及び教育公務員特例法など)が,2006(平成18)年12月から半年のうちに一気に新たになり,法制度上の変更を受けての全面改正であったことを,決して見落としてはならない。このことは,国民の間では大した議論もなく,また国会でさえ十分中身のある議論を行ったわけでもないのに,一連の法改正が容易に行われたことと関連する。多くの国民は,別にこれまでとそれほど変わった高校教育が行われるとは思っていないようであるが,そう見えることには理由がある。それを学習指導要領の改訂に関わって,述べておこう。
一部には,「ゆとり教育」からの脱却などという皮相な見方で,文科省の方針転換を印象づけようとする動きもあるが,全体としては「種々の面でバランスを重視」し,現行の教育方針を質の高いレベルで実現しようとするものと言ってよく,むしろもう反対の極には振れない,という性格のものになっている。この点は義務教育学校以上に,多くの点でその傾向が見てとれよう。高校現場が,あまりに現実的に「子ども」の「個性」や「選択」を認めすぎたことへの反省も込められているのである。
まず,今回の高校学習指導要領の改訂も,小学校,中学校と同じく,2008(平成20)年1月の中央教育審議会(以下,中教審と略称)の答申をそのまま受けて行われたもので,これまで以上に,その「義務教育」の延長上に位置づける方向が採られたと言ってよい。その表われは「言語活動の充実」ということで,高校の種別に関係なく,「国語」「数学」「外国語」の3教科について,「必履修科目」を設けたことである。これは,他方で,単位数の面では学校現場の裁量の余地を認めて,ある程度削減することも可能となっており,国の基準と各学校の裁量との間にバランスを取っている。
また,「各教科等」と「総合的な学習の時間」とのバランスも考慮されている。現行では後者は時数のみ示し,説明も「総則」の中で行うだけで済まされているが,今次改訂により,義務教育学校と同様,新たに章立てを行い,より丁寧で重みのある扱いとなっている。これは,基本的に,高校が現行までは「総合的な学習」を軽く見ていた傾向にあった,という点の改善を図ったものである。今後は,教科学習と総合的な学習が,より一層強い相互補強の関係で,最終的なねらいである「思考力等」の育成に,協働して貢献してくれることを願っているのである。
さらに,高校生の発達段階から見て,共通性と多様性,「基礎・基本」と「個性・適性」の両方に対応する必要があるとして,教育課程上,両者のバランスを取ったという面もある。この時期の生徒は,一方でみんなと同じでありたいという欲求と,他方で自分の個性をみんなに示したいという欲求とを同時に持っており,それら両方をともに満たしたいという欲求を持っているのである。それを,これまでやや「個性」に応ずる教育に偏して,「選択」重視の方向で満たそうとしてきた結果,生徒たちは易きにつく学習に流れ,学校もそのような生徒に合わせることでよしとする教育を行ってきた嫌いがある。
そのような中で,生徒間の学力格差の拡大や学校間格差の拡大が顕著になり,それを,高校は「非義務教育」なのだから,という理由で当然視する風潮が拡大した。そのため,進学に重点を置く高校は高く評価され,そうでない高校は軽視されるような状況となり,生徒の生活や学習への意欲は減退し,大学受験科目という「あてがいぶち」の学習を強制され,自主性も主体性も乏しい受動的な生徒ばかりが育って,大学へ来ても自力では何も決められない若者が増えている現状にある。大学入試がある限り仕方がない,という理屈もよく出されるが,入試も大分変わりつつあり,絶対のものではなくなりつつある。
これからの日本や社会が,そのような若者を必要とするはずもないのに,まだ高校教育はこのような大学受験教育の成果によってしか,社会から評価されていない。それも「質」を問うことなく,大学に何人入れたかという「量」しか見ていない高校や保護者,ジャーナリズムに対して,あらためて職業高校を含む専門高校への不当な評価を変えるためにも,今回の改訂が問題提起になることを期待している。
本書が,実践上の解説書としてかなり自由な内容のものになっているのは,「この時期の生徒にとって,本当に望ましい成長や発達を遂げさせる教育とは何か」を,高校教育関係者が教育の専門家として深く考えるために,その素材を提供したいからである。一方で,学習指導要領やその解説が詳しくなり,かえって「規制」を強めているのではないか,との批判もあるが,現行の公示の際に,あまりに現場に自由にしてよいとして「丸投げ」したと批判されたこともあり,ある程度のことは具体的なことまで言わねばならない状況にある。学校現場は,よくこの社会状況を考えてほしい。高校は「後期中等教育」の役割を果たすべきもので,それを犠牲にしてまで「大学進学準備」の役割を負うべき義務はない。手あかの付いた「高校教育」でなく,望ましい「後期中等教育」のあるべき姿を,ぜひ本書を参考にして具体化して欲しいというのが編者の願いである。心ある高校の先生方に本書を送り出す。
2009年7月 梅雨に打たれるあじさいを愛でつつ 編者
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- 明治図書