- まえがき /染谷 幸二
- 第1章 心に響く珠玉の語り 選手をやる気にさせた指導者の一言
- 語る資格のある教師であれ /長谷川 博之
- 誰に何を言われても,顧問は選手を信じ続ける /櫛引 丈志
- 生活・練習態度が不真面目なエースにこう語る /伊藤 展博
- 気持ちで勝ればどんな相手でも勝負できる /戸嶋 崇人
- 第2章 自信を持てない選手への言葉がけ
- 部活指導でも向山型指導法が有効である /染谷 幸二
- 褒め続ける指導者の気概が必要だ /冨田 茂
- 充実した取り組みに戻すことで自信は回復する /森 正彦
- 練習の中で,自信をつけさせる /山本 芳幸
- 第3章 ミーティングで言ってはいけないこと,やってはいけないこと
- プラス思考の言葉をシャワーのように浴びせる /伊藤 展博
- 顧問の《具体的な指示》だけが生徒の心に響く /冨田 茂
- 選手の成長を止める言葉・行為10 /吉原 尚寛
- 場当たり・方針のない指導はマイナス効果だ /大鳥 真由香
- 第4章 試合直前 選手に贈った言葉
- 「おまじない」で声を合わせ,目を合わせ,手を合わせ,心を合わせる /山本 真吾
- 競技の出来不出来以外に何を学ばせているか /長谷川 博之
- 自分たちを支えている人たちがいる /山本 芳幸
- キーワードが残る言葉を贈る /吉原 尚寛
- 第5章 中体連終了 3年間の汗と涙からつかんだ成長を伝える
- 成長を自覚させた上で,新たに為すべきことを心に決めさせる /長谷川 博之
- 負けた。でも,成功はしたと思う /山本 真吾
- バドミントンもできる選手になった /戸嶋 崇人
- 顧問の言葉かけで,選手は安心して引退できる /前平 勝
- 第6章 部活動の効果的な褒め方・叱り方
- 孤独な選手に一番の声援を送るのは私だ /櫛引 丈志
- ひどい叱り方から改善策,褒めるのが苦手な人の褒め方 /三並 郁恵
- 安定感を与える,ぶれない指導のための「5つの原則」 /大鳥 真由香
- すべて事実に基づいて指導する /森 正彦
- 威圧的に指導するだけでは選手は成長しない /前平 勝
- 第7章 指導者の喜び 忘れられない選手たちとの思い出・学び
- 部活動は教師の心構えを教えてくれた /戸嶋 崇人
- たった2か月の練習が,かけがえのない出会いをくれた /倉 豊彦
- 高校での奮起を誓った3年生 /菊田 肯児
- 専門知識がなくても,教えられることはある /森貞 岳志
- 子どもたちの輝く顔こそが指導者の喜びである /荒川 拓之
- 思い出とともに旅立たせる指導 /新谷 竜治
- 第8章 私の本棚 部活動指導に役立つ1冊
- もう一つの「自分のクラス」を統率するにはこの本 /大鳥 真由香
- 野球人,野村克也氏の考えを探る /山口 俊一
- 指導者としての生き方を教えられた本 /森貞 岳志
- 斉藤孝氏の『教え力』を薦める。必携は向山洋一著作集である /川神 正輝
- 第9章 指導者も学び続ける 全国超一流指導者からの学び
- 「顧問と生徒,両方の肩を持つ存在」,それが副顧問 /高見澤 信介
- スケート以前に鍛えなければならないことがある /染谷 幸二
- 「躾のない個性は野生にすぎない」宇佐美義和校長先生 /伊藤 展博
- 音楽を通して生徒を変えよ /橋本 均
- 選手の姿から,質の高い指導が見える /菊田 肯児
- 第10章 心を育てる部活動指導
- 参加者全員が笑顔になる合同練習会を組織する /染谷 幸二
- 21年ぶりに決勝進出! 部活動で成長した生徒たち /染谷 幸二
- 部活動に注いだ3年間で将来の夢を手にする /染谷 幸二
- 顧問と副顧問の良好な関係のつくり方 /染谷 幸二
- あとがき /山本 真吾
まえがき
多くの中学生は部活動を通して,真面目に努力をすることの意義を学んでいく。だからこそ,学習指導要領によって教育課程に位置づけられた。その意味を教師は再確認するべきだ。
TOSSで学ぶ中学教師の主張は明確だ。
部活動は《生き方の指導》である。
この主張に賛同する教師に,本書を読んでいただきたい。
太郎(仮名)は,新しく買ったバレーボールを抱いて寝る選手だった。
学年で最も身長が低い太郎であったが,バレーボールのセンスは抜群だった。2年生からリベロ・ポジションを獲得し,相手エースのアタックを何本もレシーブした。
練習を休むことはなかった。ある日,荒い呼吸でパス練習をしていた。いつもと動きが違った。保健室で体温を測らせた。38.5度の高熱。すぐに帰るように指示したが,「最後まで練習をやります」と言い張った。
その気持ちはよく分かる。私は,次のように説得した。
体調が悪い中で練習をしても,上達は望めない。
無理して練習して,2〜3日間,学校を休むようでは意味がない。
今すぐ帰宅して休養し,明日の練習に備えた方が自分のため,チームのためになる。
監督命令で強制的に帰宅させた。太郎が練習を休んだのは,3年間でこの日だけであった。
太郎は,私と一緒に汗を流した数多くの選手の中でもトップクラスの努力家である。しかし,太郎が仲間から絶大なる信頼を得ていたのには別の理由があった。
太郎は新聞配達のアルバイトをしていた。起床は朝4時。約100軒に新聞を届けた。北海道の冬は厳しい。気温が−20℃を下回ることもある。吹雪で学校が臨時休校になっても朝刊を配らなければならない。部活動を続ける以上に,新聞配達を続ける方が大変だと思う。
太郎が並の中学生でないのは,部活動にかかる費用はすべて新聞配達のアルバイト代から出していたことだ。シューズや練習着はもちろんのこと,全道大会に出場する際の費用(1回で4万円ほどになる。太郎が3年生の時は4回出場した)もアルバイト代だった。
「自分が好きなことをやるのだから,自分のお金を使うのは当然のこと」が太郎の持論だった。
保護者会でそのことを母親に話すと,「親が出してあげてもいいんだけど,あの子は自分で言い出したことは曲げないから…」と苦笑いしていた。
太郎は,誰よりも道具を大切にしていた。シューズは,毎日,胸に抱えて持ち帰った。夜は,枕元にきちんと並べて寝たという。冗談だと思っていたが,遠征の時も宿舎でそうしていた。
太郎にとって最後の大会は,夏の中体連北海道大会だった。
出発直前,高校との練習試合でエースが右足首を捻挫。ギプスで固定して別海を出発したが,本人の強い希望もあり,函館の病院でギプスを外した。大会には,整骨院でテーピングをしてから出場した。
予選ブロックを突破したものの,決勝トーナメント1回戦で,全国大会に出場した強豪校と対戦。序盤は太郎の好レシーブで互角に戦ったが,強烈なジャンプサーブに守りを崩されて惜敗。北海道大会ベスト4の目標は果たせなかった。ほとんどの選手が男泣きする中で,太郎は涙を流さなかった。
宿舎に戻ってのミーティングで,太郎は,次のように宣言した。
まだまだバレーボールを続ける。悔しいけど,終わったわけではない。
だから,涙は出なかった。
この夜も,太郎の枕元にはシューズがあった。
先日,太郎の結婚式があった。相手は,地域の社会人バレーボールチームのマネージャーだという。太郎の夢は「我が子をバレーボール選手に育てるために,少年団の指導者になる」ということ。バレーボール一途の生活を続けている。
3年間を部活動にかける中学生。そのエネルギーは膨大なものだ。だからこそ,そのエネルギーをプラスの方に向かわせたい。
勝つ喜びと,負ける悔しさ。その2つに,部活動の意義がある。同様に,勝者は謙虚であって,敗者は卑屈にならないこと。こういった日本人の美学も教えたい。
とかく,勝利至上主義の教師が多すぎる。こういった部活は,勝っても周囲から称えてもらえない。これほど不幸なことはない。勝者には,勝者たる品格が必要だ。
まさに,部活動は《生き方の指導》である。
/染谷 幸二
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