- まえがき
- 序 章 道徳授業の現状とその改善の方向
- 1 道徳授業のいろいろ
- 2 改善の方向
- 3 道徳教育における指導力
- 4 授業の組立て方
- 5 専門家としての立場の確立
- 第1章 道徳指導の方法原理
- 第1節 道徳教育の目標とその実現の筋道
- 1 道徳授業の目指すもの
- 2 「目標」の意味するもの
- ((1)「目標」のとらえ方,(2)「目標」の意味するもの)
- 第2節 道徳性の構造とその育成の原理
- 1 道徳性の構造
- 2 道徳性育成の原理
- 第3節 道徳性の全体を対象とする指導
- 1 道徳性の全体を対象とする指導
- 2 この方式による指導の長所
- 3 この方式による指導の困難点
- 4 改善の方途
- 第4節 学習の通路とその活用
- 1 生活場面と価値の自覚
- 2 学習の通路とその活用
- ((1)知性の通路,(2)感性の通路,(3)体験の通路)
- 第5節 必要性と可能性
- 1 必要性と可能性
- 2 可能性の発見
- 第2章 人間の本性に即した価値の自覚
- 第1節 人間の多面性に即応した指導の必要性
- 1 価値の自覚と人間の多面性
- 2 価値の自覚と指導過程
- 第2節 人間のもつ弱さ・醜さに即応する価値の自覚
- 1 弱さ・醜さの側面と価値とのかかわり方
- 2 弱さ・醜さを克服する価値の自覚
- ((1)子ども自身にとって切実な問題とする,(2)人間の自然性についての理解を深める,(3)道徳的価値に気付かせる,(4)価値のもたらす喜びの面に着目させる,(5)生き方,ないしは人間としての誇りの問題として考えさせる)
- 3 例示資料を用いた指導のポイント
- 第3節 人間のもつ気高い側面にかかわる価値の自覚
- 1 人間のもつ気高い側面
- 2 価値の自覚を深めるための着眼点
- 3 価値の自覚を深めるためのポイント
- ((1)自己犠牲的な側面にかかわる価値の自覚,(2)よく生きようとする側面にかかわる価値の自覚,(3)弱さ・醜さを克服して生きる側面にかかわる価値の自覚)
- 第4節 人間のもつ道徳を求める側面にかかわる価値の自覚
- 1 人間のもつ道徳を求める側面
- 2 価値の自覚を深めるための着眼点
- ((1)友達がほしいという側面,(2)他者から容認されたいという側面,(3)その他の道徳を求める側面にかかわる価値の自覚)
- 第5節 人間の有限性にかかわる価値の自覚
- 1 人間の有限性
- 2 人間の有限性にかかわる価値の自覚
- ((1)知りうることの有限性にかかわる価値の自覚,(2)時間的有限性にかかわる価値の自覚,(3)自己中心性にかかわる価値の自覚,(4)その他の有限性の諸側面にかかわる価値の自覚)
- 第6節 感動を深めることによる価値の自覚の深化
- 1 感動の特質
- 2 感動を深める指導の着眼点
- ((1)価値を自覚させながら感動にまで深める,(2)感動することのできる価値の範囲を広げる,(3)感動によって価値の自覚を強化する,(4)子どもが望んでいる価値を取り上げる)
- 3 感動を深める資料の選択と活用
- (A 人間の気高さにかかわる感動〈a 自己犠牲的に価値を実現しようとする場合,b 自分の人生を求め,その実現に向けて努力する姿を描いたものの場合,c 自分のもつ弱さ・醜さを克服して強く,気高く生きようとする姿を表すものの場合〉,B その他の感動をもたらすもの〈a 当人が価値を認めるものの場合,b 子どもが望んでいる価値の現れたものの場合〉)
- 第7節 構造化方式における発問の要点
- ((1)発問の工夫の要点,(2)発問の留意事項)
- 第3章 指導上の諸課題の改善
- 第1節 指導過程と指導方法
- 1 指導過程の工夫
- 2 各教科・特別活動との関連
- 3 指導方法の工夫
- 第2節 学習活動に伴う諸課題
- 1 子どもの発言にかかわる課題
- 2 その他の諸問題
- 第3節 道徳授業をつくる立場
- 1 道徳指導における教師
- 2 学校の立場
- 索引
- あとがき
まえがき
心の空洞化がいじめなど様々な問題を生み出している。子どもたちに豊かな心をもち,自らの生き方を見いだす能力を育てることが,今日の教育で何よりも大切になっている。この課題に応え得ているすぐれた道徳教育もあるが,混迷も大きい。また,道徳の時間の指導に悩みをもつ教師も多い。
道徳教育の指導の原理がはっきりしていない,という指摘をときどき聞く。道徳教育では世間に知られている研究者が,「道徳は分からない」と言うことがある。この場合は本音かどうか分からないが,だれからも,世間に分かるように指導の原理が提示されていないことも事実である。
子どもにとって楽しく,学びがいのある,教師にとって成就感があり,意欲のもてる道徳授業を創り出すことが急務である。すぐれた道徳教育から,精神的・社会的に自立することのできる子どもが育ち,わが国の活力も保たれる。そのためには,指導方法の前に,指導の原理がなくてはならない。
道徳に関する先人たちの考え方を研究し,これについて論じた書物は数多い。この面では優れた成果が挙げられている。また,道徳の授業の指導過程の組み方や指導方法についての書物も数多く出されている。
しかし,その中間を結ぶもの,つまり,先人たちの優れた考え方から導き出されたものを,子どもとの接点で,どのようにすれば子どもの心に結び付くものとすることができるか,という指導の原理が,これまで明確でなかった。その原理が,教師の指導の姿勢を定めるためにも必要である。
本書に述べる理論は,これまでに出した拙著を土台にして,道徳授業を中心とする教育実践の中から,大切な要素を,倫理学の視点によって導き出し,道徳性を育成する原理として開発したものである。倫理学を学び,高等学校で倫理の授業をしてきたことが役だったと思っている。この原理によって,道徳性を育成する一つの統一的な原理を解明し得たと考えている。
カントは,あの壮大な哲学を構築した後,これまでの諸学や常識の中にあるものを理論化しただけだと言った。カントに比すべくもないが,本書に述べる原理も,これまでの教育の検討から導き出し理論化したものである。
わが国の自然科学は,外国の研究の成果に目を配るのは当然としても,自然現象そのものを直接研究することによって,すぐれた成果を挙げてきた。そのように,教育についても,わが国で現に行われている教育を研究し,その中から原理となるものを導き出す研究がより広く行われてよいのではないか。そこから,わが国の文化的・社会的背景及び子どもの特質に,より適切な教育を推進するのに役立つものが生み出されよう。
本書で提示した原理を,その特質をはっきりさせるため,新たな用語を用いることに躊躇を感じながらも,あえて,「構造化方式」としておきたい。最も効率的に道徳性を育成するための原理である。
この方式は,まだ多くはないが,これを実践している先生方から,授業の手応えがちがう,と歓迎されている。教職課程を受講している大学生たちに,全面的に受け入れられている。また,'94年,UCLA(カリフォルニア大学ロスアンゼルス校)の道徳教育専攻のDr.Khaled Ali教授と一対一で討議した際,彼は,今日の子どもに道徳を教えても通用しない,と言っていたが,本書で述べている原理を提案したところ,すべての点についで“I agree.”であった。原理が確実であれば,洋の東西を問わず通用するといえる。
本書の原理が少しでも道徳授業の改善に役立ち,子どもたちの人生を切り開くのに役立つことができれば,これに過ぎる喜びはない。
本書は,明治図書の仁井田康義編集長の叱咤激励によってようやく上梓の運びとなった。紙上を借りて,深甚の謝意を表する次第である。
また,本書で述べる原理を開発することができたのは,家庭の事情を顧みず進学を許し,教育の道に進ませてくれた父母のおかげだと思う。父母はすでに亡いが,亡き父母の霊に,心から感謝し,この書を捧げる。
平成8年3月 /金井 肇
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- 明治図書
- 道徳の授業づくりに参考になるという話を先輩教師からきき、購入したいと強く希望しています。2011/4/1
- 道徳授業の指導原理がとてもわかりやすく解説されています。道徳の授業を考える際の参考書として必携だと思います。2011/4/1