- はじめに ――今,算数の授業が楽しくない?――
- 1 算数授業の楽しさとは
- (1) 基礎・基本が身に付けば子どもは楽しいのか
- (2) 教え込みをする教師に言いたいこと
- (3) インド式計算から算数の楽しさを考える
- (4) 問題解決型の授業は子どもにとって楽しい授業か
- @授業者にとって都合が良い問題解決型授業
- A問題解決のプロセスは普遍だという考え
- (5) 算数授業の楽しさを支えるもの
- ■コーヒーブレーク@
- 2 子どもが算数授業の面白さを味わう瞬間
- (1) 問いかける子どもは算数好き
- (2) 「言葉の力」としての感動詞
- ■コーヒーブレークA
- 3 算数授業の感動詞
- (1) 発見(感動・驚き)を示す感動詞
- (2) 否定(意外性)を示す感動詞
- (3) 納得を示す感動詞
- (4) 同意(共感)を示す感動詞
- (5) 疑問(確認)を示す感動詞
- (6) 非難(強い否定)を示す感動詞
- (7) 補足を示す感動詞
- (8) 感動詞を聞き取れる教師・聞き取れない教師
- ■コーヒーブレークB
- 4 子どもの感動詞を意識した授業構成
- (1) つぶやきは「感動詞」から
- (2) 導入で「感動詞」を引き出す仕掛け
- @問題提示の基本は子どもと一緒に書くこと
- A「解けない問題」だからこそ子どもは考える
- B「何が必要なのかわからない」からこそ子どもは考える
- Cゲーム活動は知的な葛藤を生み出す手段
- Dクイズ形式で友達とのズレを意識させる
- (3) 「感動詞」を活かした学習課題の設定
- (4) 学習課題を解決するための見通しを持つ自力解決
- @自力解決を設定するのは当たり前か?
- A自力解決に20分も必要か?
- B子どもが自力解決を楽しんでいるか?
- C全ての解決方法を引き出す必要性?
- Dこんな自力解決はどうですか?
- (5) 友達の考えを解釈する「練り上げ」
- @一度に扱う子どもの考えは1つだけ
- A考えた本人は説明しない(説明するのは周りの子ども)
- B解釈したことをノートに残す
- (6) 「感動詞」で織り成す解釈の交流
- @「感動詞」をもとに子どもの思いや考えを引き出す
- A「感動詞」をもとに子どもの考えを深める
- (7) 「感動詞」で拡がりを持たせた終末を
- ■コーヒーブレークC
- 5 「算数の授業が好き」という子どもが育つ授業の条件
- (1) 子どもを休憩させない
- (2) 全員参加を保障する導入場面からの関わり
- (3) 新たな発見があること
- (4) 「4段階の書く」を意識した授業構成
- @「4段階の書く」活動の設定
- A帰納的に考える授業における「4段階の書く」
- B演繹的に考える授業における「4段階の書く」
- (5) 獲得した見方や考え方の定着
- (6) 知識・技能の定着は不可欠
- @計算ドリル活用の留意点
- Aゲームを通した知識・技能の定着と発展
- (7) 教師自身が算数の授業を楽しむ
- ■コーヒーブレークD
- 6 「探る」活動で「算数好きの子ども」にしよう!
- (1) 「探る」活動とは?
- (2) 「教材」を探る活動
- (3) 「友達の考え」を探る活動
- (4) 問題の「条件を変えた場合」を探る活動
- ■コーヒーブレークE
- 7 「探る」活動を活かした授業の実際
- 1年(「数量関係」領域) → 「カードの枚数は何枚?」
- 2年 → 「かけ算1」
- 3年 → 「大きな数」
- 4年 → 「1けたでわるわり算」
- 5年 → 「合同な図形」
- 6年 → 「分数のわり算」
- コーヒーブレーク解答
はじめに
――今,算数の授業が楽しくない?――
(写真省略)
新しい学習指導要領が告示された。現行の学習指導要領までは,「ゆとり教育」路線によって学習内容が削減され続けてきたが,今回の改訂では一転して学習内容が増えることになった。同時に,算数科の授業時数も増える。
これは,算数の学力が低下しているといわれる日本の子どもたちへのてこ入れと見ることができる。学力の各種国際調査の結果,日本の子どもたちの学力が低下しているという事実がつきつけられたのは周知の事実である。文部科学省が対応策を講じようとするのは当然のことだと考えられなくもない。しかし,注意しなければならないことがある。
確かに,日本の子どもたちを一括りにとらえて見るならば,学力低下という結果となっていることは間違いない。しかし,細かく見ると,もっと重大な課題が見えてくる。実は,学力的に上位の子どもの割合が決して減っているわけではない。どちらかと言うと中位の子どもの割合が減り,その分,下位の子どもの割合が増えているのである。いわゆる学力の二極分解現象が起きているのだ。統計学的に考えれば正規分布するのが一般的であるはずの子どもの学力がくずれているということである。
一体,なぜそんなことが起きてしまったのだろうか。単純に考えれば,算数の授業ができる子どもだけで進められ,中位や下位の子どもたちの指導が疎かにされてきたということになるのかもしれない。
だからこそ,数年前から少人数指導や習熟度別指導を取り入れようという教育政策が幅を利かせているのだろう。子どもの人数を少なくして,一人ひとりの子どもに教師の目が行き届くようにすることで防ごうとしたわけである。次期学習指導要領においても個に応じた指導という視点や少人数指導という考え方が継続されるのも,このような考え方があるからに他ならない。
しかし,事はそんな単純な方法で解決できるものだとは思えない。なぜなら,実際に少人数・習熟度別指導を行っても,算数で育てたい本質的な力が育っていないと感じるからである。
たとえば知識や技能の定着であれば,ある程度効果を上げることができるだろう。しかし,算数で育てたい力は知識や技能だけではない。知識や技能を身に付けさせることは,算数において当然必要なことではあるが,それがゴールではないということだ。それらを獲得する過程において機能させるべき数学的な考え方の育成や算数に対する関心・意欲・態度を高めることが重要なのである。
事実,先に述べた学力の国際調査の結果の中で,「算数が好きではない」と答えた子どもの割合が日本は非常に高いのである。それは学力テストの点数がよい上位の子どもの中でも見られるのだ。少人数・習熟度別指導をするのはよいが,数学的な考え方の育成や算数に対する関心・意欲を高められるような指導にならなければ意味がないのである。逆に言えば,算数に対する子どもの興味・関心を高めていくことが,今後の日本の算数教育における大いなる課題である。
つまり,現在の日本の算数は,子どもにとって楽しくないものになってしまっている。その原因は,算数の授業が楽しくないからに他ならない。だから,「楽しい!」と子どもが感じる算数の授業の実現が現在の日本の算数教育の大きな課題だといえるのだ。
ただし,ここでいう「算数授業の楽しさ」という言葉のとらえも人によってバラバラであろう。子どもが笑顔で取り組む授業を楽しい授業とイメージする人がいるかもしれない。あるいは,子どもが好きなものを教材とした授業をイメージする人もいるだろう。本書では,「算数授業の楽しさ」とは何かということを明らかにしつつ,これから進むべき算数授業の方向性について考えてみたい。
また,算数で育てたい本質的な力を身に付けさせるための指導法についても提案していくつもりである。
たとえば個に応じた指導という視点は確かに必要なものであり,それを具体化することが求められていることは疑う余地がない。ただし,「個に応じた指導=教師による個別指導」と限られているわけではない。子ども同士が互いに関わり合う中でも個に応じた指導ができるはずだ。
(写真省略)
個に応じるということを考えたとき,まず第一に意識しなければならないのは,授業中に休憩している子どもをつくらないことである。常に思考を働かせるように仕向けることが必要だ。言い換えれば,今までの多くの算数授業では子どもたちが休憩していることが多かったのではないかと考えている。
子どもたちが休憩せずに常に教材や友達と関わり合いながら学んでいくような算数授業をいかに実現していくのかという授業構成の過程についても,本書を通して具体的に提案できればと考えている。
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- 明治図書
- 子ども理解がとにかくすごいです。日常から、子どもの意識を見とり、授業実践に生かしているからこそ、まとめることができた1冊だと思います。子どもの声を生かして、授業を組み立てるコツがいっぱいあります。2008/8/31ミスター ぽぽ