- 1 向山洋一全集全一〇〇巻刊行へのまえがき
- /向山 洋一
- 2 ますます重要なエネルギー教育
- /小森 栄治
- T プロ教師の心得
- 1 嘘のない本物の教育を作る
- 2 授業が下手な教師
- 3 教師の仕事は授業をすることなのだ
- 4 学級崩壊を防ぐには実力をつけるしかない
- 5 教師の力量は明確に二つに分類できる
- 6 いいクラスを作りたければ、教師が変わるしかない
- 7 授業技術を身につけるための三つのカベ
- 8 教師としての道
- 9 春三月、別れと出逢い
- U 教師としてのいましめ
- 1 教師に悪人はいない、鈍感なだけだ
- 2 夜中まで仕事をする体力主義では力量はつかない
- (1) プリントが大好きで退勤時刻が遅い教師
- (2) 訪問直前、教室環境に凝る教師
- 3 授業がすばらしい若い教師はいつもプリント配布が遅れていた─ある保護者からのメール─
- 4 いかなるすぐれた指導技術方法も使い方を間違えると効果は激減する
- 5 4月夢にあふれて出発した後、多かれ少なかれ「成長のための神様の試験問題」に出逢う
- 6 教え子に嫌いだと言われても呑み込める器の大きさを!
- 7 自分の足元をふり返り、歴史の前進の歯車をまわせ
- V 授業技術の習得
- 1 話が長い教師は何をやらせても下手。時間を短くできない教師は授業が下手
- 2 授業終了が三十秒でものびれば、その人の授業は下手に決まっている。時間通り終了しようと決心するから、ムダをとり、組み立てを考え、リズムが生まれるのである
- 3 対談 プロの心構え─向山洋一VS榊原めぐみ─
- 4 「分かった」つもりが「本当は分かってなかった」、「できた」つもりが「我流がいっぱいだった」読んだカベ、やってみたカベ、習得するカベがある
- 5 我流をすてて、原理・原則を身につけるまでクラスの騒がしさは続く。退職まで我流でおし通す人は「問題教師への道」が待っている
- 6 自己成長のサイクル
- 7 どんな組織、どんな仕事にも「標準」がある
- 8 教師の一つひとつの仕事をシステム化することで、時間の浪費を防げる
- 9 「式」や「型」や「定義」が示されて「三流の教育学」は脱皮を始めた
- W 未来を生きる子どもを育てる
- 1 昔、何も知らない時、みんなが通った道─我流を脱してプロの道に進む─
- 2 百人のできない子どもをできるようにしたい、百人のできない子どもに自信を持たせたい
- 3 教育とは知らないこと、できないことをできるようにさせる営みである
- 4 一人でも多く本質的な問題提起への挑戦を!
- 5 成功の秘訣は夢を持ち、実現の努力をすることだ。教師の技量向上も同じことである
- 6 教育技術は幾多の教師の知恵の結晶である。先人の努力を受けつぐことから確かな方法は生まれてくる。子どもの事実が証明してくれる
- あとがき
- /松藤 司
1 向山洋一全集全一〇〇巻刊行へのまえがき
/向山 洋一
向山洋一全集全一〇〇巻が刊行されることになった。
これは、日本の教育界で初めてのことであり、他の分野でもほとんど耳にしない出来事である。
私が、小学校で三十二年間実践したことのすべて、千葉大学、玉川大学で十年余にわたって教えたこと、NHKクイズ面白ゼミナール、進研ゼミ、セシールゼミ、光村、旺文社、正進社、PHP、サンマーク出版、主婦の友社などで発刊した教材群(その多くは、日本一のシェアをとった)などが入っている。
すべての子どもの学力を保障するために、とりわけ発達障がいの子の学力、境界知能の子の学力を保障するために、慶応大学など多くの専門医と協同研究をしてきた成果でもある。
教育技術の法則化運動は、結成して一年で日本一の大きな研究団体となり、二十一世紀にそれをひきついだTOSSは、アクセス一億、一ケ月で七十七ヶ国からのアクセスがあるなど、ギネスものの無料のポータルサイトとなって、多くの教師、父母の方々に情報を提供するようになった。
TOSS学生サークルも全国六十大学に広がり、TOSS保護者の支援サークルも生まれている。
総務省、観光庁、郵便事業会社と全面的に協力した社会貢献活動もすすめてきた。例えば、「調べ学習」として、全国一八一〇自治体すべての「観光読本」(カラー版)を自費で作り、八〇〇余の知事、市、町村長からのメッセージをいただいている。
このような大きな教育運動の中で、多くの方々と出会い仕事を共にしてきた。波多野里望先生、椎川忍総務省局長はじめ、幾多の方々の応援に支えられてきた。
また、こうした活動を普及していく多くの編集者とも出会ってきた。
とりわけ、お世話になったのが、向山洋一全集全一〇〇巻のほぼ全部を創ってくれた江部・樋口編集長である。多くの方々に心から御礼の意を表したい。
この一〇〇巻が完成する時、二〇一一年三月一一日、一〇〇〇年に一度といわれる巨大地震が日本をおそった。
東北地方太平洋岸が壊滅的な被害をうけた。
向山洋一全集全一〇〇巻と共に、この東日本大震災のことも、この全集に含めておきたい。
どこよりもはやく、東日本復興の企画会議を招集し、今回百数十人から寄せられた「復興企画」の中から寄稿をお願いしたものである。
「TOSSの活動、願い、実行力」を具体的に示すものとして、後世に長く伝えられていくことと思う。
2 ますます重要なエネルギー教育
/小森 栄治
東北地方太平洋沖地震に伴う東日本大震災では、空前の大津波によって多くの尊い命が失われた。今回の震災では、津波被害に加え、残念なことに原子力発電所の事故により放射性物質の流出が起きてしまった。
福島第一原子力発電所では、地震直後、制御棒が自動的に挿入され原子炉は緊急停止した。ウランの核分裂は止まったが、核分裂で生成していたヨウ素一三一やセシウム一三四などの放射性物質は、放射線を出しながら熱を発生する。それを冷やし続けなければならない。
冷やすための水を循環させる非常用ディーゼル発電機やポンプが、地震発生一時間後に襲いかかった大津波で破壊された。冷却が止まり温度が上昇し、水素が発生して水素爆発で大量の放射性物質が外部に放出されてしまった。
放射性ヨウ素が甲状腺に蓄積するのを防ぐために、ヨウ素剤の服用が効果がある。原子力発電所の事故の直後には、ヨウ素を含むうがい薬が効くというデマが流れた。うがい薬は効果がないばかりか飲んだら副作用が生じる。
地震直後には、石油精製施設の火事に関連したデマも流れた。いずれも、専門家やマスコミによって打ち消され、数日で混乱はなくなった。チェーンメールによるこのようなデマに惑わされずに、信頼できる機関の情報を確認するよう指導する必要がある。
過去三十年間にわたって、義務教育では放射線を扱っていなかった。平成二十三年度から中学三年生で扱う矢先に、原子力発電所の事故による放射性物質による汚染となってしまった。
正しい情報や知識がないと不安になり、冷静な判断ができず、風評被害が発生する。
福島や茨城県産の野菜が売れなくなった。
韓国で放射性物質を含む雨を恐れて学校が休校になった。
一時、日本から出国する外国人が続出した。
さらには、福島の人に対する嫌がらせやいじめまで起きている。
いずれも、放射線の性質や危険の程度を考慮せず、「放射線」という言葉に過敏に反応している。
向山洋一氏は、早くからエネルギー教育や環境教育の重要性を指摘し、「エネルギー教育シンポジウム」や「最新環境教育セミナー」を開催している。
エネルギー教育に対しては、原子力発電を推進しているから反対という声があった。しかし、原子力発電がどのように発電しているかを知らずに、賛成や反対を判断することはできない。原子力発電の原理や放射線について子どもたちに教えることと、原子力発電に賛成するか、反対するかは別のことである。
エネルギーは国家の存亡にも関わる。
向山氏は一五年ほど前、当時のエネルギー教育の弱点として、次の三つをあげている。
@ 事実を知らない
A 風評で語られている
B 可能性に逃げている
エネルギー問題や環境問題においては、これが百%の正解という唯一の答えがあるわけではない。解決策とされる複数の選択肢には、メリットとデメリットがある。「危険」にも程度の違い、リスクの大きさがある。
そのような事実や考え方を子どもたちに教える授業が必要だ。最終的な意志決定は、子どもたちが行う。そういう意味で、教育が未来の社会をつくるのだ。
十年前、二十年前の論文を読み返しても、向山洋一氏の主張には、ぶれがない。一貫して、日本の子どもたち、日本の未来を考えた重要な視点、考え方を私たちに教えてくれる。
今回の大震災は、日本の再スタート、新しい社会をつくるきっかけになる。
エネルギーをどう確保するか、持続可能な社会をどう創りあげていくか、本書を何度も読み返し、考えていきたい。そして、未来の社会をつくる子どもたちに、明るい展望を伝えていくのが教師の大きなつとめである。
東北地方が一日も早く復興し、すべての子どもたちが学校で楽しく学べるようになることを祈りつつ。
-
- 明治図書