- まえがき
- T 実録 俳句の授業in上海
- 一 上海での飛び入り授業と解説
- 二 授業を終えて
- 三 公開 俳句の授業の教材研究
- 1 一〇年前の教材研究/ 2 『分析批評』入門(川崎寿彦)/ 3 俳句授業ノート/ 4 ある青年教師の授業分析
- U 作品全体を取り上げる分析批評の授業
- 一 「ひょっとこ」の授業
- 1 批評用語の指導と全体の指導/ 2 「ひょっとこ」をどう指導するか/ 3 五年生の授業/ 4 橋本優子の作文/ 5 保母直子の作文/ 6 松原香の作文/ 7 向山の授業構想
- 二 「桃花片」の授業
- 1 分析批評の全体構造を示した「桃花片」実践/ 2 「桃花片」(授業参観)(六年)/ 3 「桃花片」(授業参観)(五年)――写真で見る要約指導――/ 4 模擬授業「桃花片」(前半部分)
- 三 「一つの花」の授業
- V 「出口」論争への参加
- 一 「出口」論争
- 1 宇佐美氏の「出口の授業」の批判/ 2 反論への期待/ 3 パロディーへの怒りと投稿
- 二 「出口」論争――教室からの発言
- 1 「出口」論争への期待と失望/ 2 私の「出口」の授業/ 3 斎藤実践に対する子どもの論評/ 4 「出口」の授業の価値と役割
- 三 教室からの発言への補論
- 1 教室訪問――向山学級/ 2 大塚敬三氏への異論
- 四 「森の出口」の分析――児童の作文
- 五 斎藤喜博の書きかえ
- 1 高橋金三郎氏の反批判/ 2 高橋論文への反論
- 六 演習問題
- 1 設問一<短い文の分析/ 2 設問二<斎藤喜博の実践記録への疑い/ 3 設問三<斎藤喜博が書いた「遠近感デタラメ文」
- 向山型国語の授業の実践記の解説 /椿原 正和
まえがき―「道徳」「指名なし討論」「黒帯六条件」などの向山主張―
全集が、お役に立っているという。
考えてみれば、私の「新卒日記」は、三五年も昔にかかれたものだ。
二〇代教師がこの世に生をうけるずっと前の物語である。
「手に入れよう」と思っても、入手できない文章だ。
二〇代、三〇代の教師にとっては、「初めて読む向山の文章」が、いっぱいあるという。
向山洋一全集の編集方法は、著しくめずらしい方法をとった。
私の単行本や雑誌論文などを項目ごとにバラバラにして、同じ項目を再編集したのである。
バラバラにしてできた冊子は、部屋の中に山のようになった。
それを「授業論」「研究論」「教材論」などに大分けして、さらに小さく小分けしていったのである。
それを読み直して、一冊の本にしていった。
編集したのは、二〇名あまりの私の弟子たちである。
教師の世界に弟子はおかしいと思うかもしれないが、「学問研究」も「実践研究」も、実は「技能・能力」の向上は「修業」以外にはなく、それには「弟子制度」が一番適しているのである。
教育界初めての「弟子」制度の是非は、向山の弟子がどのように育ったのかという「事実」が証明してくれるだろう。
合宿をやること何度か。
費用は「全集の向山の印税」によって支払われた。つまり、向山の全集の収入のほとんどを、編集合宿という弟子との楽しい作業に費やしてしまったのである。
もちろん、それでよかった。
編集作業は、楽しく、かつ勉強になったからである。
バラバラにした冊子の中から同じ項目を集めて一冊の本にすると、書いた年度がちがうのが混ざることになる。
極端な話、新卒の頃の文と退職の頃の文が一冊の本に混ざることもあった。
しかし、違和感は全くなかった。
向山の主張にはブレはなかったからである。
新卒の頃から、退職の頃まで、向山の主張は一貫していた。
それは、向山は、教育実践をしていく時の指標が次の二つだったからである。
一 子どもの事実
二 腹の底までズシーンとくる手ごたえ
この二つを指標としている以上、本物だけが私の心に残ることになる。
私は、見栄や出来栄を気にして文を書いたことなど、一度としてないのだ。
事実を、それのみを大切に書いてきた。
もちろん、未熟さや間違いはあった。
しかし、それは成功のための通過点なのである。
細心に、誠実に対応していけば、必ずのり越えていけるのである。
第四期にも、思い出深い主張がいくつもある。
たとえば、黒帯六条件。
上達論のなかった教師の世界に、日本で初めて「上達論」を示した本である。
たとえば、「指名なし討論」。
今では、あまりにも有名になった指名なし討論。
私は「子どもが次の人を指名する方法」を、一回見ただけで駄目だと思った。
「リズム」と「テンポ」が大きく乱れるからである。「集中」が「指名」のたびに崩れるのだ。
「指名なし」によって、その崩れはなくなったのである。
たとえば、「道徳」授業の主張。
日本で「道徳に賛成か反対か」の論議はあったが、「いかなる内容の道徳が必要か」の論議はほとんどなかった。
私は、根本的な部分、道徳の授業の骨格について、いささか研究をして主張をしたのである。
向山の実践は、教え子、同僚によって、あます所なく伝えられている。
いい所だけ見せようとする気は、私には全くない。
「事実」こそが大切だからだ。
教師生活三二年間のすべての実践が、全集には含まれている。
それにしても、第四期一五冊を加えると、全部で六十冊になる。明治五年の学制発布以来、日本一の全集になるという。
この後、何冊かの残りを発刊することになる。
また、日本一の教材企画人として「進研ゼミ」「セシール」「旺文社」「啓林館」「光村図書」などで開発したかつての教材を発刊することになる。この日のことを考え、二〇年近く前から、著作権をいただいていたのである。
第四期全集が、後輩たちの教室で役立てば幸いである。
二〇〇二年一二月一日 /向山 洋一
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- 明治図書