一時間で国語力を育てる授業プラン3
高学年の書くことの指導

一時間で国語力を育てる授業プラン3高学年の書くことの指導

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国語科で指導すべき国語力は何かを明確にする

一時間で国語力をつけるモデル授業を豊富な事例で示す。厳選する技能、能力はそのスキルを修得することによって他の活動に生きて働くと編者は強調する。そのために教材研究の段階で中心となる技能・能力を厳選、それを支える技能を的確に押さえよと呼びかける。


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ISBN:
978-4-18-394310-1
ジャンル:
国語
刊行:
対象:
小学校
仕様:
B5判 128頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

もくじ

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序章―― 一時間の授業で「生きて働く国語力」を確実に獲得する指導秘策 /瀬川 榮志
まえがき /福田 信一
第T章 一時間の授業で書く力をつける効果的指導
一 高学年における書く指導のポイント
二 一時間で書く力をつける具体的方法
第U章 「書くこと」の基礎的技能の指導
【五年生の授業展開】
■送り仮名や仮名遣いに注意して書く
■複合語の使い方
【六年生の授業展開】
■日本で使う文字
■熟語の成り立ち
第V章 「書くこと」の基本的能力の指導
【五年生の授業展開】
■自分の考えを効果的に書く 「表現を工夫して物語を書こう」
■必要な事柄を整理して書く 「意見文発表会をしよう」
■事象と感想・意見を区別して書く 「コメンテーターになろう」
■文章全体の組立てを考えて書く 「自分をPRしよう」
【六年生の授業展開】
■自分の考えを効果的に書く 「意見文を書こう」
■必要な事柄を整理して書く 「自分探しをしよう」
■文章全体の組立てを考えて書く 「自分の考えを主張しよう」
■表現の効果を確かめながら書く 「自分だけの物語を作ろう」
第W章 「書くこと」の統合発信力の指導
【五年生の授業展開】
■言葉のたからもの発見!
■おすすめのリサイクルは何?
【六年生の授業展開】
■修学旅行のオリジナルガイドブックを作ろう
■自分の体験を活用して説得力がある意見文を書こう
あとがき /福田 信一

序章――一時間の授業で「生きて働く国語力」を確実に獲得する指導秘策

   中京女子大学名誉教授 /瀬川 榮志


 国語科の学力が低下している最大の原因は、指導すべき技能や能力が的確に把握されていないことである。

 指導すべき事項を取り上げても「基礎・基本」「基礎基本」「基礎技能・基本能力」など、いろいろな用語があり、解釈も多様である。学習指導要領の目標・内容等についても、十分に咀嚼し理解して指導案作成や授業展開に具体化できない事態もある。例えば、国語科研究校として公開発表するような学校の学習指導案の本時の展開表が「学習活動」と「指導上の留意点」の二項目で構成され、「指導事項」の欄が設定されていない場合もある。この形式では「活動あって指導事項なし」のプランである。しかも、「学習活動」の欄にも「指導上の留意事項」の欄にも、一時間の授業で指導すべき「基礎・基本」が全く見当たらないのである。

 このような旧態依然の学習指導案が存在する限り「言語の教育としての立場を明確にした授業」は実現しない。また、当然国語学力の低下に歯止めをかけることはできない。よい授業とは、一時間一時間の授業で「生き生きと言語行動を展開する過程で確実に国語力」が定着するもので、抽象論に終始してはならないのである。

 国語学力向上の打開策は、国語科で指導すべき国語力とは何かを明確にすることである。

 新しい学力観に立つ国語力とは、「生きる力」とは何かを具体的に分析し、真の「人間力」育成に直結する「生きて働く国語力」として把握することが大切である。


 【「生きて働く国語力」の育成が前提条件】

  1 国語学力は、他教科や総合的な学習および日常生活に実用的に生きて働くことを必須条件とする。授業者は国語科授業で習得した国語力のあらゆる言語生活への波及経路を確実に説明することができなければならない。

  2 「生きて働く国語力」は、目的・相手・場面に応じて、最適の語を選び、文・文章(あるいは話型)を組み立て美的感覚で誠実に表現し理解して相互信頼を深め、生きる力を支える人間関係力を高めるものである。

  3 国語学力は、【基礎的技能】(言語事項)と【基本的能力】(「話す・聞く」「書く」「読む」の活動)と情報化時代に対応できる【統合発信力】(情報の選択・収集・構成・発信・双方的交信力)によって構成される。

  4 基礎・基本・統合発信力における指導事項は厳選に徹する。一事項を習得することによって多様に活用できる技能・能力を精選・系統化する。一時間の授業の目標も極力絞らないと指導の焦点がぼやけてくる。

  5 国語学力は、評価事項が明確でないと授業は成立しない。学習指導要領の一活動例に二〜三の指導事項が盛り込まれている項目もある。したがって、波及・応用力のある技能・能力の厳選に徹することが前提条件である。


 「生きて働く国語力」が定着しなかったこれまでの教育について厳しく反省し、新世紀の国語科教育を拓く理念・理論・方法を発見・追究しなければならないのである。戦後六〇年余にわたり、著名な学者の理論や熱心な実践者による多くの事例も提示されてきた。にもかかわらず「波及・応用力に富む『生きて働く国語力』」を定着できなかった原因は何か。総合的な学習で要点力や要旨力を駆使して調べたことを的確に説明したり報告したりすることができなかったり、あるいは、レポートに誤字・脱字が多く発表の声も小さく発音・発声が不明瞭で相手に正確に伝わらない実態が露呈し、「生きる力」を育む機能を果たすべき総合的な学習が充実しなかった原因は何か――等を謙虚に反省し、厳しく分析して新世紀に対応する国語科教育を創造していくことが緊急の課題である。一時間の授業で「生きて働く基礎・基本・統合発信力」を確実に定着→習得→獲得するためには、以上のような基本的な考え方によることを前提とする。しかも、毎時間の学習で身につける目標を「波及・応用する技能・能力」に厳選し設定した授業創造を前提条件とする。


 【一時間で国語力をつけるモデル授業を創造】

  1 従来の授業は一時間の授業における指導事項が多すぎて学習活動が多岐にわたり、何を指導するのかが曖昧になる傾向があった。これからは、波及・応用する技能、あるいは能力を精選して完全習得を目指すようにする。

  2 厳選する技能・能力は、そのスキルを習得することによって他の活動に生きて働くことが必須条件である。例えば、要点力を精選し指導すれば、要点を押さえて「話す・聞く」「書く」「読む」活動に応用される。

  3 波及・応用するスキルを精選し目標にすると評価事項も具体化できる。つまり、要点を読み取る能力に絞れば、それを支持する下位技能がはっきりする。その技能は即評価事項であり、基準も評価方法も明確になる。

  4 厳選した技能・能力が、一時間の授業過程でステップアップするように、学習のシステム化を図る。よい授業とは、「竹」のように節があり弾力的でなくてはならない。堂々めぐりの授業にならないように工夫する。

  5 授業者は、一時間の授業で定着した国語力について学習者が自己評価し発表できるようにする。また、教師自身も「授業評価表」を作成して、一人一人の児童・生徒が定着した国語力を第三者に説明できる。

 従来の国語科教育で厳しく指摘された事項を「国語科の目標は実に曖昧であり、二兎を追う者は一兎をも得ず、二兎どころか三兎〜四兎と、虻蜂とらずの状況である」と解釈してもよい。この実態は教師の指導力・研究力不足に起因するものだけではない。学習指導要領に盛り込まれている内容も多岐にわたっている。また、教科書の指導目標もかなり多種多様であって、これらの全指導目標を完全習得させることは困難である。しかし、現実においては一時間の目標を焦点化して、簡潔で明快な学習を展開している授業はきわめて少ないと言っても過言ではない。では、どうすればよいのであろうか。

 この重要課題を解決するためには、教材研究の段階で中心となる技能・能力を厳選し、それを支える技能を的確に押さえるようにすることである。その支持技能を一時間の目標として絞り込んでいくのである。さらにその焦点化した支持技能を細分化して、下位技能として数値化し、一時間の学習過程でステップを踏んで段階的に習得させていく学習システムを工夫することである。


 一時間の指導目標を絞れば、学習指導要領に示されている指導内容を全部消化することができないという不安が生じてくる。 この打開策は、学習指導要領の「話す・聞く」「書く」「読む」ならびに「言語事項」を分析して、波及・応用力に富む技能・能力を厳選し、それを組織化することである。現在の学習指導要領の指導事項を一つ一つ丹念に指導し完全習得させることは至難の業である。国語学力が低下していく現象も「厳選した技能・能力を確実に定着すると他の言語活動に波及・応用する」という「生きて働く螺旋的系統に基づく技能・能力の秩序化・体系化」ができていないからである。

 絶対評価が重視され、子ども一人一人に国語力をつけなければならない現時点に、一時間の授業における指導目標や評価事項の設定ならびに、評価方法が難しく効果的な結果をみることができないのも、「波及・応用できる技能・能力」を厳選できないからである。日々子どもと共にある実践者は、学習指導要領や教科書の指導書の内容を厳しく吟味・検討して、確実に「生きて働く国語学力が定着→習得→獲得できる授業を創る方策」を講じることが大切である。要は、教科書の指導書べったりの授業から脱皮し、児童・生徒の個に応じ、一人一人の学習者の到達度を明確にし、習熟度別指導に徹し、その子の可能性を引きだし段階的にステップアップする授業を創意工夫することが必須条件である。


 【螺旋的系統に基づく効率的な授業を開発】

  1 新学力観に立つ国語力は、児童・生徒の言語力の発達段階に応じて螺旋的に系統化することが国語科教育の原理・原則に基づくものである。学習活動も基礎学習→基本学習→統合学習のコースで言語力を育成する。

  2 「基礎的技能」(基礎学習)で定着した技能が「基本的能力」(基本学習)に波及・応用して能力が習得され、さらに「基礎的技能」と「基本的能力」が「統合発信力」(統合学習)に波及・応用して統合力が獲得される。

  3 「統合発信力」は、「情報操作能力」と「伝え合う力」(人間関係力)の二つの言語力から構成されている。「統合発信力」を完全獲得すると、総合的な学習や他教科の学習はもちろん、日常生活にも波及・応用できる。

  4 情報化時代に、価値ある情報を選択・構成・発信し、双方向的に切磋琢磨して充実した生き方を追究していくことは倫理観・価値観が低下混迷している今日の社会においてはきわめて重要な「統合発信力」である。

  5 螺旋的系統による「基礎・基本・統合発信力」は国語科教育の体系化でもある。これまでは、言語活動を中心にした指導で、技能・能力が軽視されていた。これからは、「活動偏重・指導事項軽視」からの離脱が実践課題である。


 国語科教育の体系化による「一時間の授業で国語力を育てる指導法開発」は、簡潔明快をモットーにしたい。つまり、複雑重複を避けるように配慮する。それは、もちろん、簡略化や手抜きではない。一時間の授業が充実し密度の高い内容でなくてはならないことは当然である。

 基礎的技能の指導では、接続語・指示語・語句・文字・文などの指導を一時間の指導でまとめて学習してもそれらの技能が確実に定着できるものではない。従来はこのような指導案が多かった。また、教科書の教材の指導において言語事項の指導を織り込み、系統的に指導しない曖昧な事例がみられた。これからは、例えば、接続語の指導に絞って易から難へのステップを踏んだ学習過程による指導などが要求される。

 基本的能力の指導においては、波及・応用力のある能力に焦点を絞ってステップアップの手法で段階的に指導するような授業開発をする。例えば、中学年の説明的文章の指導で段落力を習得する場合には、中心段落・関連段落・支持段落を一時間ごとに的確に習得させるのである。つまり、段落力の下位技能・支持技能を分析して文章構成に即し順次段階的に指導して、最終段階で説明文の読解の方法を習得させるのである。

 統合発信力の指導の場合は、一時間ごとに情報収集力・情報構成力・情報保存力・情報発信力を順次獲得させた後、人間関係力と連動させて最終段階で統合された情報操作能力を獲得させるようにする。

 これまでの国語科指導では、このような分析的で段階的な授業は行われていなかった。旧来の方法を墨守しその体質を引きずったままの授業を続けていると、他教科や総合的な学習ならびに日常の言語生活に波及・応用する「生きて働く国語力」は獲得できない。確実に国語力が身につく国語科教育の原理・原則に基づく授業改革が必要である。そうしないと、戦後半世紀以上行われてきた、「生きて働かない国語力」の授業からの脱却は不可能である。この看過することのできない重要課題を重く受け取らなければ新世紀を拓く国語科教育は確立できないということを反省し、授業改革に向かって「授業研究を軸にした実践的研究」を深化・拡充・推進しなければならないのである。

 統合発信力の指導は、新時代を生き抜く児童・生徒が獲得しておかなければならないきわめて重要な資質・能力であり、生きる力に連動する人間力・人間関係力である。人間が人間として、日本人が日本人として情報化時代にどのように対応し生きていけばよいのか。現代の世相は、人間形成に寄与する価値ある情報と、児童・生徒の純真な心を蝕み非行に走らせるマイナス情報も氾濫している時代である。文化審議会も「国語の力で情報操作力を育てる」ことの必要性を強調している。真実を求めて生きる強い意志力で価値ある情報を弁別し、友人と双方向的に交信して真の人間関係力を各学年の精神発達課題や言語能力の発達段階に応じて確実に獲得するように配慮しなければならない。また、現在の国語科教科書の中には、日本語についての常識・知識・教養・言語文化等に関する教材が削減されている傾向がある。国語科の授業時間数の軽減や教科書のページ数の制約等からやむを得ないことであろうが実に遺憾なことである。

 そこで、統合発信力の単元には方言文化・手紙文化・朗読文化・俳句文化・短歌文化・川柳文化や、著名な作家、名作等について図書館・インターネット・現地調査・インタビューを活用・駆使して国語に関する知識・教養を高めていきたいものである。


 【チェックカード・ワーク開発による完全習得の授業】

  1 一時間の授業で確実に定着した国語力をチェックすることなくして評価も成立しないし完全習得も保障できない。今後は「国語学力」測定の「到達度」を教師と児童・生徒が共同でチェックする学習システムが求められる。

  2 一単位時間の授業の展開過程では、「わかる→かわる→できる」や「ホップ→ステップ→ジャンプ」ならびに「レベル@→レベルA→レベルB」等の自己実現過程・向上的変革変容のステップアップのプロセスを編成する。

  3 文部科学省は、学習指導要領の「最低基準化」や「目標に準拠した絶対評価」の重要性を提示した。また、公教育における学力保障の「説明責任」を求めている。一時間の授業でこの実現・実証を果たすことになる。

  4 一時間の授業で完全習得した国語力を明確に説明するために、学習と評価の一体化を可能にするワークを開発する必要がある。「為すことによって学習の方法を学ぶ――行動学習法」の原理に基づくワークを開発する。

  5 ワークシートの特色は、学習者の習熟度に応じた指導ができることである。「A・B・C」それぞれの学習者の興味・関心や基礎的技能・基本的能力・統合発信力に応じたきめ細かな指導ができる機能がある。


 一時間の授業で、目標に設定した技能・能力が完全獲得されなくてはならない。波及・応用力に富む国語力を厳選するのは、学習指導要領の分析と技能能力の上位・下位・支持力の段階的組織化の難関さえ通過すれば、案外順調に推進することができるものと考えられる。つまり、複雑重複の目標をこなす授業は虻蜂とらずの曖昧な授業しかできないために、児童・生徒もどんな国語力がどのように定着したかわからないことが多い。大学生に小・中・高時代の国語学習についての感想を発表させると「好きでない」「嫌いであった」という声が大部分である。その理由は、どんな力がついたかわからず達成感・成就感がなかったということである。教師自身も授業終了後、充足感を満喫し、完全習得した国語力について説明することは困難であった。しかし、目標を厳選した授業であれば、教師も学習者も完全習得を実感することができるはずである。

 特に「行動学習法」の理論によるワークシートは、

  ◎ワークとスキルと密接不離の関係で言語行動を組織している。

  ◎達成感を満喫し自己実現できるステップアップのプロセスで編成している。

  ◎サイドライン法・書き込み法・心情曲線法・枠囲み法……等多様なワークで構成している。

  ◎相互評価と自己評価を巧みに織り込み調和統一している。

等の特色ある機能がある。ワークシートによる学習に加えて、各過程における板書・発問・資料・機器の活用等の指導技術を工夫するようにしたいものである。

 一時間で目標達成の授業を成功させることは、学力向上を目指す国語科教育の実践的課題である。この重要課題を解決しない限り新世紀を拓く真の国語科教育の改革は実現しない。しかも、この道を求めていくことができるのは、日々子どもと共に、よりよい国語学習指導を追究している現場の教師である。


 この価値ある研究を共にする編著者の先生や執筆者の皆様には、高い教育理念と確かな理論及び具体的な実践で、国語科教育改革・新授業開発へ精進協力をいただきました。また、明治図書出版企画開発室の江部満様には、企画から出版まで心温まるご支援を賜りました。深く感謝し厚くお礼を申し上げます。

著者紹介

瀬川 榮志(せがわ えいし)著書を検索»

現在,中京女子大学名誉教授,全国小学校国語教育研究会名誉顧問,全国日本語教育学会会長,日本子ども文化学会名誉会長,全創国研名誉会長,21世紀の国語教育を創る会代表。

1928年鹿児島県に生まれる。東洋大学国文学科卒業。鹿児島県・埼玉県・東京都の公立学校教諭,東京都教育委員会指導主事,東京都墨田区立立花小学校・中野区立上鷺宮小学校・同鷺宮小学校長を歴任。その間,文部省教育課程教科等特別委員・教育課程調査研究協力者ならびに副委員長。学習指導要領指導書作成委員,NHK学校放送教育番組企画委員。中京女子大学教授・同大学子ども文化研究所所長。現在も全国的規模で授業理論の確立に活躍中。

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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