- 序
- まえがき
- T 国語科で高める「説明力」
- 1 「説明」という言語行為の特性
- (1) 「説明」とはどのような言語行為か
- (2) 説明を必要とする「問い」には何があるか
- (3) 表現活動としての「説明」
- (4) 理解活動としての「説明」
- 2 「説明力」とは何か
- (1) 「説明力」という用語が示す範囲
- (2) 「説明力」の分析
- 3 「説明力」を付けることの必要性
- 4 「説明力」と「伝え合う力」との関係
- 5 「言語活動例」と「説明」
- (1) 言語活動の特性を明らかにする
- (2) 言語活動の特性から育成できる能力を明らかにする
- (3) 育成したい能力にふさわしい言語活動を選ぶ
- U 「説明力」を高める授業プラン集
- 1 「説明力」を高める「話すこと・聞くこと」の指導
- 第2学年 分かりやすく話す―ちょっと気になるこんな日本語
- 第2学年 報告や説明を聞く―ちょっと気になるこんな日本語
- 第3学年 パネル・ディスカッションをしよう―「ら抜きことば」を考える
- 2 「説明力」を高める「書くこと」の指導
- 第1学年 類義語の違いを説明する文章を書く―「ニギル」と「ツカム」はどう違う?
- 第2学年 読書報告文を書く―私が薦めるこの一冊
- 第3学年 校章を説明する文章を書く―自分の学校を知る
- 3 「説明力」を高める「読むこと」の指導
- 第1学年 音読・朗読を生かして読む―説明的文章教材「自然の小さな診断役」
- 第1学年 語句の意味に着目して読む―説明的文章教材「フシダカバチの秘密」
- 第3学年 文法的事項に注意して読む―説明的文章教材「民族と文化」
- 4 「説明力」を高める「選択国語」の指導
- 第2学年 現代の文化を話し合う―擬音語・擬態語の不思議な世界
- 第3学年 郷土教材を生かした選択国語―単元「ふるさとを見つめる〜
- 奈良 現在、過去そして未来〜」の試み
- 主要参考文献
- 初出一覧
- あとがき
まえがき
何事にも「説明」が求められる時代となった。「アカウンタビリティ(説明責任)」、「インフォームドコンセント(納得診療・説明と同意)」などの語が人々の口にのぼり、「説明」がさまざまな場面で実際に行われている。しかし、「説明」を求められたときに、いわゆる「説明」という言語活動さえ行えばよいというのではない。少なくとも相手に「分かる」ことをめがけて「説明」を行っているかを常に反省する必要がある。
「分かりやすい説明」「説明が分かる」とはよく言うことばである。「説明」の最大の目的は相手が「分かる」ことである。和語で「分かる」と言ってしまうとさまざまなレベルのものが入る。「理解」も「分かる」である。「納得」も「分かる」である。さらには「翻意」「行動」も「分かる」という心理作用の表現された行為である。場合によりレベルはいろいろであるが、少なくとも「理解」の伴わない「説明」は「説明」になり得ない。
世の言語活動は、すべて「説明」を基盤にして成り立っている。狭義の「説明」はもちろんのこと、意見・説得・解説・報告・記録など、そこには的確な「説明力」が求められる。
学校教育もまた然りである。学校教育では日常的に「説明」という言語活動が行われている。各教科の授業はもちろんのこと、授業以外のさまざまな場面でも、指導者も学習者も「説明」という言語活動を繰り返している。
しかし、「説明」が本来の機能である相手の「理解」「納得」を実現しているかと言えば、それはいささか疑問が残る。書店に「分かりやすい説明の仕方」に関する書物があふれているのを見れば、私たちがいかに「説明」に苦労しているかが分かるのである。あるいは、世の分かりにくい「説明」をみれば、そのことはすぐに了解できるであろう。
学校教育の国語科においては、「説明力」育成の重要性は十分承知しながらも、具体的な実践は不十分な状況である。それにはさまざまな原因が考えられるが、そもそも「説明力」とは何なのか、どのような能力のことを指すのかが明らかでないことが大きい。また、実践を行うにあたっては、学習者に何を説明させるのかという話題・題材の問題、どのような手順と方法で「説明力」を付けるのかという指導過程の問題、どんなワークシートやモデルが有効なのかという学習資料の問題など、課題が多い。
本書は、著者のこれまでの実践を「説明力育成」の観点から整理し直し、「説明力育成」の必要性を、実践を通して述べたものである。今改めて読み返してみると、この実践で学習者に「説明力」を付けることができたのか、甚だ心許ないが、読者の皆様の少しでもお役に立てれば、こんなにうれしいことはない。
本書をなすにあたり、巳野欣一先生からは心温まるご指導やご助言をいただき、また、身に余る序文もいただいた。巳野欣一先生から受けた学恩は計り知れない。心から深謝申し上げるとともに、いただいた学恩をさらに発展させるべく研究・実践の精進をお誓い申し上げる。
末筆ながら、明治図書の江部満氏、大場亨氏には、このような執筆の機会を与えていただき、 また、著者の遅れがちな筆を温かく励ましていただいた。深く感謝申し上げる。
二〇〇六年一月 /米田 猛
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- 明治図書