- まえがき
- T 「絶対評価」を通知表にどう表すか (指導要録とどう違うか)
- 1 子どもにわかり,保護者にわかり,達成感と安心感を持たせ,やる気をおこさせるように表す/ 2 通知表と指導要録はどう違うか/ 3 どのように表すか/ 4 絶対評価・到達度評価・個人内評価/ 5 絶対評価での学習の様子の表し方
- U 「生きる力」をどう所見に表すか
- 1 失敗は成功のもと/ 2 間違いや失敗から「生きる力」へ/ 3 間違いや失敗を乗り越えた事実を示す
- V 通知表所見に使いたい表現とは何か
- 1 意欲がわいてくる表現/ 2 良いところを認め,ほめる表現/ 3 進歩の状況が具体的にわかる表現/ 4 前向き・肯定的な表現
- W 「絶対評価」の所見文「よい例・悪い例」
- 1 その子が頑張ったことをほめているか/ 2 進歩の状況が具体的にわかるか/ 3 前向き・肯定的か
- X 各教科における「絶対評価」の所見文例
- 1 国語科
- 各観点で留意すべきことは何か
- 〈1〉 「国語への関心・意欲・態度」の観点 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 〈2〉 「話す・聞く能力」の観点 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 〈3〉 「書く能力」の観点 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 〈4〉 「読む能力」の観点 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 〈5〉 「言語についての知識・理解・技能」の観点 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 2 算数科
- 各観点で留意すべきことは何か
- 〈1〉 「算数への関心・意欲・態度」の観点 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 〈2〉 「数学的な考え方」の観点 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 〈3〉 「数量や図形についての表現・処理」の観点 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 〈4〉 「数量や図形についての知識・理解」の観点 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 3 生活科
- 各観点で留意すべきことは何か
- 〈1〉 「生活への関心・意欲・態度」の観点 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 〈2〉 「活動や体験についての思考・表現」の観点 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 〈3〉 「身近な環境や自分についての気付き」の観点 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 4 音楽科
- 各観点で留意すべきことは何か
- 〈1〉 「音楽への関心・意欲・態度」の観点 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 〈2〉 「音楽的な感受や表現の工夫」の観点 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 〈3〉 「表現技能」の観点 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 〈4〉 「鑑賞の能力」の観点 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 5 図画工作科
- 各観点で留意すべきことは何か
- 〈1〉 「造形への関心・意欲・態度」の観点 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 〈2〉 「発想や構想の能力」の観点 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 〈3〉 「創造的な技能」の観点 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 〈4〉 「鑑賞の能力」の観点 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 6 体育科
- 各観点で留意すべきことは何か
- 〈1〉 「運動や健康・安全への関心・意欲・態度」の観点 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 〈2〉 「運動や健康・安全についての思考・判断」の観点 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 〈3〉 「運動の技能」の観点 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- Y 特別活動における「絶対評価」の所見文例
- 各場面で留意すべきことは何か
- 〈1〉 「当番・係活動等」 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 〈2〉 「学校行事」 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 〈3〉 「児童会活動」 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 〈4〉 「学級活動」 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- Z 「行動面」における「絶対評価」の所見文例
- 各行動の所見で留意すべきことは何か
- 〈1〉 「基本的な生活習慣」 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 〈2〉 「健康・体力の向上」 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 〈3〉 「自主・自律」 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 〈4〉 「責任感」 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 〈5〉 「創意工夫」 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 〈6〉 「思いやり・協力」 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 〈7〉 「生命尊重・自然愛護」 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 〈8〉 「勤労・奉仕」 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 〈9〉 「公正・公平」 (1) 1年の例/ (2) 2年の例
- 〈10〉 「公共心・公徳心」 1,2年の例
- [ 「絶対評価」の所見の見方を保護者にどう伝えるか
- 絶対評価の通知表の所見の見方をどう伝えるか
- \ 所見文作成のためのお薦め参考文献
- 1 所見文例のお薦め本/ 2 絶対評価・到達度評価に関するお薦め本/ 3 通知表及び保護者や子どもとの信頼関係のお薦め本/ 4 評価や通知表に関するお薦め雑誌
- あとがき
まえがき
〈1〉一通の手紙が示すもの
高校生になった教え子から一通の手紙が届いた。1年前のことである。
何が不満かというと「生徒なしでもできる授業」だけなんです。高校の授業なんて。生徒はただ聞いているだけ,ずっと黙って。
高校での授業の様子が8枚にびっしりと書かれてあった。
彼は,「生徒なしでもできる授業」だけと書いているが,一つだけ「一番信頼できる先生の授業」として,次のように書いている。
暗記でとった点数なんかじゃなく,意欲を評価してくれます。今一番必要とされている授業は,まさにコレ! 4−3スタイルの生徒主役の社会を知れる授業です! と思います。
しかし,小学校時代(4年3組)と唯一違う点を次のように述べている。
足りないのは生徒の参加する意識−意欲がまだまだです。唯一4−3と違うのはそこです。僕たちは間違うことを恐れて恥ずかしがって,本当に授業の中で言いたいことを言っているのか疑問です。
さらに,彼は,教師が生徒に対して,いろんな経験をさせ,成功や失敗の存在を教えることを訴えているのである。
この訴えの部分を読んで驚いた。
中央教育審議会「新しい時代における教養教育の在り方について(答申案)」の「1 高等学校における教養教育」の中に次のようにあるからである。
高校生の時期に多くの社会体験をすることが,人間としての幅を広げる。様々な分野の人と交わり,社会とつながることに喜びや達成感を味わったり,失敗したりすることを通じ,社会の中での自分の位置や負うべき責任を自覚する経験は,大人になるための大切な基礎を作る。
彼は,まさにこのことが必要であるというのだ。彼の手紙から大事なことを改めて読み取ることができる。
(1) 学習意欲を高めること
(2) 個々の絶対評価
(3) 「生きる力」(成功や失敗の経験)
「間違いや失敗からたくさんのことを学び,それを具体的に生活の中へ活かしていくことができる力」が見事に彼の身に付いていることをうれしく思う。そして,素晴らしい手紙をくれたことに心より感謝したい。
〈2〉子どもの進歩がわかる「絶対評価」
安彦忠彦氏(早稲田大学教授)は,『授業研究21』2001年12月臨刊No.539(明治図書)で次のようにいう。
絶対評価の重要な点は,到達度の共通性以上に,子ども一人一人が個別の目標にどれだけ迫り得たかを個々の子どもにフィードバックしてやり,その到達度の度合いを少しでも高いものにしてやると言ってよい。(8ページ)
このことがきちんと子どもたちに伝われば,先の教え子のような思いをさせることはないのである。勿論,子どもたちが「面白い」「楽しい」そして,「力がついた」という実感のもてる授業を行うということが前提となることはいうまでもないことである。
さて,前述の安彦氏の内容を子どもたちにどのようにして伝えるのか。
その伝達手段の一つが通知表なのである。
通知表の所見欄をどう活用するかにかかっているのである。子どもの進歩がわかる「絶対評価」の通知表所見にかかっているのである。
〈3〉もう一通の手紙
正月,もう一人の教え子から手紙が届いた。
長かった祖母の入院生活。様々な看護婦さんにお世話になりました。いろいろな看護婦さんがいらっしゃいました。私なりにいろいろなことを感じました。立派な看護婦さんにはきっとなれないけど,患者さんのことを一番考えられる看護婦さんになれたら……と思います。
手紙を読むと,彼女は,生意気な孫だったようである。母に似て口が達者で,よくおばあさんと口げんかをしたこと,小学校1年生のころには酔っぱらったおばあさんの態度に腹を立てて頭から水をかけてしまったことなども書かれてあった。
そんな彼女も次のように書いている。
やっと祖母とかよいあえてきたなあ…って。一緒に母のグチを言ったり,お風呂で背中を流し合ったり……本当にいい関係になって……祖母としたかったことがたくさんあったし,
この後,おばあさんは入院し,他界してしまったのである。
彼女は,祖母の入院をきっかけに,おばあさんとの思い出を振り返った。そして,おばあさんの入院生活における看護の在り方を目の当たりにした。彼女はこれらのことから実に多くのことを学んだのである。心に響くことがたくさんあったのである。そして,今,彼女は,看護婦を目指して努力を続けている。
1日や2日,1カ月や2カ月,半年や1年の期間とは異なる長い期間であるが,「生きる力」が見事に身に付いているといっていいのではないだろうか。
子どもたちは,それぞれにいろんな経験をする。しかし,それらの経験から学び取ることは一様ではない。全く気づかない場合さえある。
「生きる力」の身に付け方は,それぞれに違うのである。通知表は,それらを気づかせる役目を果たす一つの貴重な手段でもある。
見れども見えずは,子どもたちばかりではない。教師も同様である。子どもたちのどこをどのように見れば進歩がわかるのか。そして,どのように評価すればいいのか。本書がそのお役に立てば幸いである。
2002年1月8日 /竹川 訓由
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- 明治図書