- まえがき
- 第1章 教師の表情・態度・話し方
- 1 楽しそうに話している
- 楽しそうに話せることは授業づくりの基本/教師は鏡で自分の顔をみてから授業をする/教師のじょうずな話し方3つの基本
- 2 話の内容が整理されている
- 教師の話はとかく結婚式のスピーチのように長い/筋道だって話すことで論理的な思考力が育つ/教師の話の飛躍をおぎなえる子・おぎなえない子
- 3 子どもの反応をみて話している
- 子どものようすや反応をモニターしながら話す/子どもは質問や発言することで学ぶ意欲を高める/質問や発言を子どもとのコミュニケーションにつなぐ
- 第2章 授業目標とねらいの設定
- 4 指導目標を子どもの姿で具体化している
- 指導目標は子どもの具体的な姿で書きあらわす/「〜を理解する・分かる・知る」の目標にしない/指導目標を具体化するための5つの原則
- 5 指導目標を子どもと共有している
- 指導目標は子どもと共有することにより達成できる/授業のはじめに黒板に目標やねらいを書く/指導目標を教師がいうか子どもにいわせるか
- 6 評価規準表がつくられている
- 評価規準表は評価のためでなく授業づくりのため/単元の評価規準をつくれば授業がかわる/授業に役立つ評価規準表づくりの7条件
- 第3章 学習内容の組織化
- 7 学習内容が指導目標とズレていない
- 指導目標やねらいが一文一義になっている/学習の内容を目標やねらいにそって精選する/高めたい能力を明らかにして活発な活動を仕組む
- 8 学習内容が子どもに合っている
- 学習の内容が子どもの実態に合っている/分かる授業づくりでは子どもの準備の状態をみる/子どもの認知的,技能的,情意的レディネスを見きわめる
- 9 教えると学びとるの区別がある
- 教師が教えると子どもが学びとるの区別/習得する学習と探求する学習の区別/子どもが学びとる授業には目にみえない仕込みがある
- 第4章 授業の組立てと展開
- 10 学習の導入・展開・まとめがある
- 子どもとの出会いから導入への流れをつくる/展開には山場もあり予期せぬハプニングもある/35分の危機を乗り越えてまとめへと収束する
- 11 授業のねらいに合った学習形態を選ぶ
- 学習形態は一斉学習,グループ学習,個人学習が基本/授業のねらいにより一斉,グループ,個人学習を選ぶ/個人学習はじっくり学習できるが思考がかたよりやすい
- 12 学習に変化があって飽きさせない
- 学習に飽きがこない授業ができるワケ/学習材のビジュアル化と作業化で集中力が高まる/子ども同士の対話と教育機器の利用も有効
- 13 チョークとトークから脱出している
- 「分かりましたか?」「はーい」は一種のセレモニー/子どもに分からせたつもりからの脱出/子どもは主体的に学ぶとき潜在能力を伸ばす
- 14 子どもから質問や意見をだしやすい
- 授業は疑問がでないように分かりやすくつくる/子どもが質問や意見をだせない授業は分かりにくい/子どもの間違いや質問を活かして学習に厚みができる
- 15 学習の山場がつくられている
- 授業の山場には納得,解決,完成,結論が得られる/授業の山場をつくることで考える力が高まる/教師が説明し子どもが表現する授業でも山場はつくれる
- 16 クイズやゲーム的な学習がある
- クイズやゲーム的な学習で子どもは大喜び/クイズやゲームそのものよりクイズ的ゲーム的な展開/学習させたい内容をクイズやゲームにしつらえる
- 17 学習を結晶させている
- 学習を結晶させるとは経験を自分のものにすること/授業のおわりに子どもが学習を結晶させる/授業では学習活動のまとまりごとに結晶させる
- 第5章 学習する環境づくり
- 18 学習のルールが守られている
- 道路には交通のルール教室には学習のルール/学習のルールはまず教師の態度によって生まれる/基本的な学習ルールは繰り返して教える
- 19 教室に支持的な空気がある
- 教室はだれも安心して学べる所でなくてはならない/支持的な空気には相手を思いやる心と言葉がいる/応答的環境のなかで学習がすすんでいく授業
- 20 子どもと教師間に信頼関係がある
- 授業では子どもと教師間に信頼やミゾがみえる/子どもに迎合してばかりでは信頼関係は生まれない/子どもとの間に授業の信頼を生みだすもの
- 21 教室の学習環境がととのっている
- 学級目標や学習のルールが壁に貼られている/子どもの作品が美しく展示されている/教室の掲示に求められる四季折々の季節感
- 第6章 学習材と教育機器の選択
- 22 教科書をうまく利用している
- 教科書には多くの意見が反映されている/教科書を教えるのではなく教科書で教える/教科書の内容を発問や学習材につくりかえる
- 23 工夫した学習材をつかっている
- 黒板に貼りつけたり映像で見せたりする学習材/プリント,ワークシートなど個人学習をうながす学習材/子どもの手もとで操作したり実験したりする学習材
- 24 機器や教具を活用している
- 教育機器や教具によって授業が劇的にかわる/プロ教師はどんな教育機器があるか知っておく/メカにつよい教師が教育機器に頼りすぎるのも問題
- 第7章 学習を支援する技術
- 25 発問や指示が分かりやすい
- 発問には種類があり多様な学習をうながす/発問でおきる教師と子どもの間のズレ/発問を分かりやすくするために教師が考えること
- 26 板書が美しく分かりやすい
- 板書の文字が正しく美しく書かれている/色チョーク,カード貼りつけなどの工夫がある/ワク囲みや矢印などで板書が構造化されている
- 27 教師が見本を示している
- 子どもに見本をみせる教育はいつの時代にも必要/すべての教科に教師が子どもにみせたい見本がある/学級担任はよい見本よくない見本の両方をみせている
- 28 子どもをよく考えさせている
- 考える力の種類はさまざまで子どもの得意がちがう/「よく考えさせる」ではどんな思考が想定されているか/教師が先回りして教えると考える力は育たない
- 29 子どもをじょうずに指名している
- ドキドキしながら手をあげている子どもがいる/はじめに手をあげた子どもに飛びつかない/タッチ式,リレー式などで指名する方法もある
- 30 子どもが体験的に学習している
- 五感をはたらかせた体験的な学習の効果/話を聞かせノートをとらせるだけの授業を見直す/国語や算数においても体験的な学習ができる
- 31 ノートやプリント指導がていねいである
- ノートやプリントの内容がよく整理されている/ノートやプリントに書く時間が設定されている/教師の赤ペンがノートやプリントへの意欲を高める
- 32 子ども同士の対話や討論がある
- 「話し方・聞き方のルール」がつくられている/テーマにそった対話や討論ができている/話し合いが聞き合いでなく言い合いになってしまう
- 33 グループ学習を成立させている
- グループ学習にちょうどよい人数をきめる/個人思考をしたうえでグループで話し合う/グループごとにワーキングボードが用意されている
- 34 家庭学習をうながしている
- 子どもの学習は学校だけでは成果が上がらない/予習の仕方,復習の仕方を教えるのも教師の仕事/学校の授業と家庭学習をうまく関連づける
- 第8章 思考を深める技術
- 35 発言にあいづちを打つ
- 思考を深める指導はカウンセリング技法から/基本のカウンセリング技法は7つの段階をふむ/あいづちを打つことが子どもの考える意欲を高める
- 36 くわしい説明を求める
- 子どもに説明させることで考える力が育つ/子どもが知っているごく簡単なことから語らせる/人に説明できるようになって100%の理解になる
- 37 意見の曖昧さを取り上げる
- 子どもの発言や発表の曖昧さを取り上げる/事実と意見が曖昧なとき,主張の根拠が曖昧なとき/子どもの仮説の曖昧さを許容することもある
- 38 発言の矛盾を問いかける
- 学習でみつけた結論と日常の生活との矛盾/子どもが発言した内容のなかにふくまれる矛盾/子どもがだした結論の論理的な不合理をつく
- 39 問題の位置関係をたずねる
- 問題になっていることの全体における位置/事実や課題が生まれた前後関係の問いかけ/問題が発生した因果関係を明らかにする
- 第9章 学習の仕方
- 40 学習の仕方を教えている
- 学習の仕方を知らないから学力が伸びない/ノートの書き方,漢字などの覚え方について教える/学習の仕方は4月のはじめから学年で取り組む
- 41 テストへの準備を教えている
- テスト準備の方法もまた学校で教えたい/どんな学習をしたかふり返ることがスタート/答案が返ってきたら,どうするのかを教える
- 第10章 子どもの心理
- 42 子どものなかによい競争がある
- 生活には助け合いが,学習にはよい競争がいる/学習をゲーム化したりコンテスト方式にしたり/教室のなかに笑える競争を生みだす
- 43 子どもが自己評価している
- 正しく自己評価できる子どもは学力が伸びる/授業のおわりにふり返りの時間を設ける/子どもの自己評価はある程度大らかにする
- 44 子どもが挑戦する場面がある
- 「できるかな?」という不安に挑戦する学習/キャンプの飯ごう炊さんの不安はよい挑戦のモデル/各教科で仕組みたい子どものさまざまな挑戦
- 45 子どもが選択する場面がある
- 子どもが課題を選ぶ課題をつくる/学習方法が好きだから生まれる学習意欲もある/子どもがめいめいに学習方法を選択する
- 第11章 個々への学習支援
- 46 ていねいに机間指導をしている
- 机間巡視から机間観察へと用語をかえるワケ/机間観察では観察の視点をはっきりさせる/子どもの個別プロフィールを知って机間指導をする
- 47 じょうずにアドバイスしている
- じょうずにヒントを与えて考えやすくする/いくつかの選択肢を示して考えを広げさせる/必要のない情報を教えて考えをまとめさせる
- 48 課題のレベルを調整している
- のぼる階段が高ければ半分の高さの2段に分ける/別の言葉に言い換えることで考えやすくなる/迂回ルートの補充課題を用意して練習させる
- 49 習熟度に合わせて教えている
- 習熟度に合わせた指導で個人差に対応する/あらかじめ評価規準をつくって習熟度に対応する/コース名も習熟度別学習を成功させるカギ
- 50 子どもにKR情報を返している
- 子どもの発言や発表にきちんと反応する/知的KRと情的KRに分けて返す/教師の表情や態度もKR情報について回る
- 51 子どもの「よさ」を見つけている
- 日本人は足りない所を見つけるのがじょうず/子どもの「よさ」を見つけることの意味/個人の学習状況を横断的または縦断的にみる
- 第12章 指導の評価の一体化
- 52 子どもの満足度を評価している
- 子どもの満足度を確かめながら授業する/子どもの評価と教師の評価は一致しないことがある/面白おかしいだけで子どもの満足感は生まれない
- 53 形成的評価で授業を修正している
- 形成的評価は指導の途中におこなう評価/単元の途中で子どもの到達度や満足度を評価する/診断的評価・形成的評価・総括的評価の組み合わせ
- 54 補充的学習や発展的学習を設けている
- 補充的学習と発展的学習はどの子も等しく伸ばすため/補充的学習は評価規準があって成立する/発展的学習で難易度の高い問題に挑戦させる
- 55 単元の総括的評価をしている
- 総括的評価は単元ごとに観点別におこなう/観点別の学習状況評価を次の単元に活かす/観点別学習状況評価をもとにして評定する
- あとがき
まえがき
「プロ」と名のつく職業は,高度な技術をともなう。
大工さんがカンナで削る技術,理容師さんが髪を切る技術,お医者さんが電気メスを操作する技術が,それである。
では,教えるプロである教師には,どんな技術があるか。
たとえば,「分かりやすく説明する」「じょうずに板書する」「ノートに赤ペンが入れられる」などがあげられる。
でも,それだけでは,じゅうぶんでない。
授業をつくるためには,「子どもを指名して学習を深めるワザ」も,「ゲームやクイズで学習を楽しくするワザ」も,「子どもの発言を評価して自信をもたせるワザ」も必要である。
「プロ」の職業の技術には,それを伝承する仕組みがある。
師匠から弟子,先輩から後輩へと伝わる高い技術は,その仕組みを通して受け継がれる。
大工さんも,理容師さんも,お医者さんも,師匠や先輩の技術を学びとり,また自分で盗みとって,ようやく一人前になる。
しかし,学校の教師はどうだろう。
残念ながら,若い人たちがベテラン教師の技術を学びとる文化は,ほとんどの学校でない。
それどころか,ベテラン教師は授業をみせることをためらい,できれば避けようとさえする。
校内の研究授業も,できるだけ若い教師に任せ,その批評はしても,自分の授業をマナ板にのせることはしない。
こうした理不尽が職場でまかり通るのは,学校の教師くらいのものだろう。
だから,若い教師は,仕方なく手さぐりで授業をし,ときに小中学生時代に教わったと同じやり方で教える。
学校の教室は,一世代30年前の指導が,そのまま通用してしまうところなのである。
いま,日本の学校は,団塊世代の教師が大量退職する時代をむかえ,この矛盾が一気に吹きだしている。
若い教師たちは,教えを乞いたいベテラン教師から見事に体をかわされ,どこに救いを求めていいのか分からないでいる。
本書は,本来なら,ベテラン教師が若い人に伝えるべき授業の基礎技術を55に厳選して紹介した。
授業をすればすぐ実感することであるが,教師の教え方によって,子どもはたしかにかわる。
教師がうまく教えれば,子どもの理解度がかわる。
教師がうまく教えれば,子どもの知識の量がかわる。
教師がうまく教えれば,子どもの技能の高まりがかわる。
教師がうまく教えれば,子どもの考え方がかわる。
教師がうまく教えれば,子どもの意欲がかわる。
本書は,筆者のこんな学校体験があって刊行した。
若い先生方が,子どもの「分かる」を生みだす授業の基礎技術を早く身につけ,楽しんで授業ができる日が近いことを願っている。
2008年7月 /長瀬 荘一
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- 明治図書