- <不易>の教育実践を着実に /梶田 叡一
- まえがき /松村 京子
- 第T章 学び合い,分かり合う授業づくり
- ――「教えること」の見直しから――
- 1 「教えること」を見直す
- 2 相互作用を重視する
- 3 学び合い,分かり合う授業をつくる
- 4 学び合い,分かり合う授業の実際
- 第U章 各教科・英語学習の実践(15事例)
- 第1節 言葉でイメージを映しだす国語科学習
- 第1学年の実践 ブックトークをしよう
- 「たぬきの糸車(きし なみ:光村1年下)」の実践
- 第3学年の実践 予告編をつくろう
- 「モチモチの木(斉藤隆介:光村3年下)」の実践
- 第6学年の実践 教育番組を作ろう
- 「生き物はつながりの中で(中村桂子:光村6年上)」の実践
- 第2節 事象を価値づけ,わかりを高め合う社会科学習
- 第5学年の実践 私たちの生活と情報
- ケーブルテレビから地域の情報化を考える
- 第6学年の実践 私たちの生活と政治
- 選挙から見える政治の問題
- 第3節 共に算数を生成する算数科学習
- 第2学年の実践 めざせ! ものさしマン
- 共に学び合う算数科学習
- 第6学年の実践 分数の計算ガイドブックをつくろう
- 異分母分数のたし算,ひき算
- 第4節 互いの音と思いがとけ合う音楽科学習
- 第4学年の実践 クラスソングをつくろう
- 第5学年の実践 わたしたちはアイリッシュダンサー
- 拍子の変化を感じて踊ろう
- 第5節 イメージを語り,見つめ合う図画工作科学習
- 第3学年の実践 立 体 造 形
- 虫がくる花――うえ木ばちをつくろう
- 第5学年の実践 オリジナル フレーム デザイナー
- 段ボールと色画用紙などによる立体構成
- 第6節 わかりあい,できる楽しさを追求する体育科学習
- 第3学年の実践 ラグポートボール
- 第6学年の実践 リズミカルにかけ抜けよう!!
- 陸上運動:ハードル走
- 第7節 自らかかわり,伝えあう英語学習
- 第2学年の実践 冒険をしよう!
- 英語の絵本(bear in the night)を教材とした英語活動
- 第6学年の実践 校内オリエンテーリングをしよう
- あとがき /古田 猛志
- 執筆者一覧・研究同人
<不易>の教育実践を着実に
序にかえて
「改革」「改革」という強い声が,ここ10 年,20年,日本の教育に対して投げ掛けられ続けている。確かに,現在の子ども達の姿を虚心坦懐に見る時,「このままでいいのだろうか?」「何とか教育の力で子ども達を抜本的に変えるべきでは!」といった思いを誰しもが持つであろう。
勉強に集中できない子どもが増えている。慎みの気持ちが薄れ,自己中心的な言動を示す子どもも少なくない。虫を怖がり土を汚がる潔癖性の余り,身の回りの自然に触れようともしない子どもの姿がある。日常の挨拶にしても起居動作にしても,もう少しけじめがつかないものか,という嘆きの声も無いではない。これに加えて,新聞やテレビには,全国各地から子どものイジメや自殺,不登校や学校嫌いが報じられている。
このような子ども達の姿を何とかしたいという思いが,政治の場でも,文部科学省や教育委員会などの行政の場でも,そして学校現場でも,教育の「改革」を大きくクローズアップさせているのであろう。だから「改革」「改革」とさまざまな施策や方向づけが,矢継ぎ早に学校現場に突きつけられていることになるのである。
しかし「改革」ということで,今までと全く違うことをしなくては,という思いが強すぎると,結局は教育活動そのものが軽薄でその場限りのものになってしまう恐れがある。「ゆとり教育」を標榜して,指導を廃し支援だけに留めようとした時期もそうであった。この反動として,「基礎・基本の徹底」という方向づけの中で,反復練習やドリルだけが強調された時期もそうであった。「今やっていること」を安易に否定し,全く新たな何かをやらなくてはならない,という思いが,「改革」という名の下に一面的で軽薄な教育的取り組みを次々と試行する,といった結果をもたらしたわけである。
本当は,今までやってきたことの延長線上で,言い換えるならば自分自身が長い年月をかけて積み重ねてきたものの上に立って,「よりマシナ」教育を実現していく,といった実直な姿勢こそが必要とされるのではないだろうか。そうした着実な取り組みを重ねていく中からしか,現代の子ども達に見られるさまざまな問題現象の改善も本当には実現してこないのではないだろうか。もちろん,そうした取り組みの根底には,「我々の世界」を生きる力(世の中に出てから不可欠となる学力や社会性,人間性など)と「我の世界」を生きる力(与えられた命を充実した形で生涯に渡って生きぬいていくための自尊と自恃の気持ちや人生観,死生観など)の双方を育む,という教育本来の<不易>のあり方がきちんと見据えられていなくてはならないのであるが。
兵庫教育大学附属小学校の実践研究は,決して派手なものではない。時代の流れのままに常に最新の教育のあり方を目指すという<流行>追随型のものでもない。その底にあるのは,ここで述べた意味での実直な,そして教育の<不易>を踏まえた実践研究を,という強い思いであろう。
「わかる」こと,「教える」ことへのこだわりも,学校がこの人類社会に出現してから連綿として問い直されてきた万古不易のものである。こうした本質的な志向性を持つ教育実践研究の報告として,本書をひもといてみて頂ければ甚大である。
2007年1月兵庫教育大学学長 /梶田 叡一
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- 明治図書