- 監修のことば /向山 洋一
- 第1章 生徒のアドバルーンを見落とした私の失敗(授業編)
- 一 生徒に迎合せず,正しいことを貫ける環境をつくる
- やんちゃ君の発言に迎合してしまった/ 4月,教師がまじめに努力する大切さを語る/ 闘いは続いたが,わかってくれる生徒もいた
- 二 一度出した指示は必ず徹底させる
- 授業では鉛筆を使用させる/ 指示が通らない/ 指示を徹底する/ 見逃さないシステムをつくる
- 三 「これくらいいいじゃないか」を見逃したことが失敗の元
- 自分は何とかやっていけるという誤解/ 小さなアドバルーンをつぶす/ 確認をして詰める/ やっぱり生命線は授業である
- 第2章 生徒のアドバルーンを見落とした私の失敗(生活編)
- 一 アドバルーンを出せないクラスシステムをつくる
- 欠席者への連絡システム/ 実際の場面で/ 出来事をプライベートで終わらせない/ アドバルーンが出にくい土壌をつくる
- 二 「まぁいいか」心が揺れるうちは,勝つことはできない
- 自分の考えをはっきり持つことが大事/ 何事も,予想し,対策を立てる。それが教師の腕の見せ所/ 揺れないこと
- 三 あさはかな教師がアドバルーンを見落とす
- 豹変した我がクラス/ 給食時のアドバルーン/ 五色百人一首での私の失敗/ なぜ,それをするのか
- 第3章 生徒のアドバルーンを見落とした私の失敗(学校行事編)
- 一 筋道を通すことで困難を乗り切る
- メンバー決めのよくある場面/ 決めたことを覆すには筋道がある
- 二 励まし続け,壁を乗り越えさせる
- 勝敗ではなく「全員出場」にこだわるクラスをつくる/ あるべき姿を取り上げ,ほめ続ける/ 教師が楽しんで練習に加わる/ 励まし続ける
- 三 教師は,日の当たらない裏方を作ってはいけない
- 最初から間違っていた/ 信用するといいつつ実は放任/ 事件は突然に起こった/ 追試の中で見えてきたもの
- 第4章 出会いの10分おすすめ授業プラン(国語・数学・英語)
- 一 国語の良さを伝える10分間
- 中学1年生との出会いの授業
- 二 成功体験を積ませながら,授業のシステムを確認していく
- 大事なことを,やりながら教える/ 教科書を見ることで答えられる発問をする/ 頭の先から,足の先までほめ続ける
- 三 生徒を引き込み授業システムを徹底させる
- 授業開きで徹底する授業システム/ 中1 出会いの10分 おすすめ授業プラン/ 中2・3 出会いの10分 おすすめ授業プラン
- 第5章 出会いの10分おすすめ授業プラン(音楽・社会)
- 一 アドバルーンが見えやすい一石五鳥の「『鉄腕アトム』で肩たたき」
- 3年間で印象に残った授業の1つ/ アドバルーンが見えやすい肩たたきで,教師の指示には従うことを示す/ できそうでできないから集中する。集中するから楽しい/ ちょっとしたコツを伝授する。ピッタリ合うと快感!/ 最初の時間だからこそ触れ合う活動を
- 二 グラフの読み取りで知的な授業パーツを作る
- 自分の知っていることは,考えられる/ 見えていることを聞く/ 知っていることだから一生懸命探す
- 三 国名探しで「社会は楽しい!」と感じさせる
- 知っている国を書かせる/ 地図で場所を確認する/ 「国名しりとり」をする/ 名前で国名折り句を作る
- 第6章 出会いの10分おすすめ授業プラン(総合・道徳)
- 一 道徳の時間は,人として行うべきことを身につける時間
- 「道徳の時間は何をする時間ですか?」/ 森信三氏の「三つのしつけ」を教える
- 二 「こんなクラスにしたい」という夢を描かせよう
- 出会いの準備/ 最初の学級活動で
- 三 生き生きとした作文を書かせよう
- よくある作文指導/ 「1年間の目標」を作文に書かせる/ 見本を示す/ 指示を確認する
- 第7章 事例別アドバルーン 私の対処法(授業編)
- 一 アドバルーンの対処を学び,最後まで授業をする気概を持つ
- レベル1のアドバルーン/ レベル2のアドバルーン/ レベル3のアドバルーン
- 二 できない生徒の気持ちにより添いつつ毅然と言う
- 明るい雰囲気で,きっぱりという/ 生徒に受け入れられるためには,わかる授業とやさしさが不可欠である
- 三 「何もしない」というアドバルーンへの対処法は「全員を巻き込むこと」
- 「全員」を意識することから始まる/ ノートに書かせる/ 正解が出たからといって,すぐに認める必要はない/ 「口々にどうぞ」/ 挙手で全員を参加させる
- 第8章 事例別アドバルーン 私の対処法(生活編)
- 一 生徒のアドバルーンは靴箱から
- 靴箱を見れば生活がわかる/ 靴箱に現れる兆候には段階がある/ とにもかくにも声をかけ続け,靴箱が正常に使われる状態を維持する
- 二 掃除の時間のアドバルーンにはこう対処する
- 自己主張する生徒の場合/ ほうきで遊ぶ生徒の場合/ やる気のない生徒の場合/ 全体的にだらけたふりをしてさぼっている場合/ 人のじゃまをする生徒の場合
- 三 まず教師が動く。ダメなものはダメと言い続ける
- 憂鬱な掃除時間が視点を変えることで一変した/ 先手を打って語り,ことあるごとに語り続ける
- 第9章 騒然とした教室 私の対処法
- 一 教師の意図的な指示による活動で巻き込む
- がやがやざわざわした状態から巻き込む/ 落ち着かないときに有効な授業パーツの中にある作用/ 足並みを揃えて再スタート
- 二 小さな成功体験を積み重ねるリレー奏
- 事実上崩壊している授業/ あきらめないで工夫する/ 全員ができた瞬間
- 三 意識するのは,一瞬にして空気を変えること
- どんな場合でも意識するのは『空気』/ やんちゃな男子の一言に……/ 教育実習生を迎えるときに
- 四 やることをはっきりさせて,全員を巻き込む
- 挑発に乗らない/ 明確な指示,発問を心がける/ 強い味方,学力補強プリント
- 第10章 今ならこうする生徒のアドバルーンを見逃した瞬間
- 一 みんなできるようになりたいと思っている
- 基本的な生活習慣が壊れた夏休みの生活/ 「学校に来させること」を最優先に対応する/ A子のノートのなかにあったもの
- 二 日頃からアドバルーンを上げさせない対応を心がける
- 言葉を言い換えない/ 準備する/ 学級のルールならば,代案を出させる
- あとがき /向井 ひとみ
第1章 生徒のアドバルーンを見落とした私の失敗(授業編)(冒頭)
一 生徒に迎合せず,正しいことを貫ける環境をつくる
授業を盛り上げることは,生徒に迎合することではない。知的な授業・緊張感があり,頭を使った! と思える授業を行うことだ。そのためには教師が授業を統率し,生徒たちが正しいことを貫ける環境をつくることだ。
1 やんちゃ君の発言に迎合してしまった
いまから5年ほど前,こんなことがあった。
授業のはじめの小テストを行い回収したところ,ある生徒が「ナイル川」と答えるところを「ナイス川」と書いていた。少し落ち着きのないやんちゃ君だった。「あっ,俺ナイス川って書いちゃった〜!」といった。私はテストを回収したあと「う〜ん,ナイス川! ナイスだねえ,君のことこれからナイス君って呼ぼうかな」とみんなの前でいった。「ナイス君だって……」クラスで笑いが起きた。それだけだった。
しかし,私はこのできごとをとても悔やんでいる。これは,彼(以下A君)のアドバルーンであったのだ。
A君は体格がよかった。それで,クラスの男子のボス的存在だった。しかし一方でとても気が弱く,思い切ったことのできない生徒だった。
A君は5月,6月と過ぎていくうちに,だんだん授業をまじめに受けなくなっていった。舌打ちをしたり,机に突っ伏したりするようにもなっていった。廊下をすれ違いざまに「だるい」「社会つまんねー」などといわれることもあった。実際に私の授業は下手で,つまらないものだったと思う。それでもまじめな生徒やおとなしい女子はついてきてくれていた。クラスによっては楽しく授業することもできた。
やがて,そのクラスではいろいろな問題が起こるようになった。ある生徒の教科書を破って遊んでいたり,授業中に時間を決めて一斉に筆箱を落としたりしていた。不登校の生徒も出てしまった。教室に行くと,たびたび男子が行きすぎた遊びをしていたので注意した。それで,逆に恨みを買ったこともあった。A君を中心にして,元気のいい男子たちが結束し,いろいろなことをまじめにやれなくなっていった。真剣にやるべき時に茶化したり,責任逃れをしたり……。
あのころは,授業が本当に苦痛だった。TOSSのサークルで真剣に学びはじめた頃であった。毎日,小さな問題がいろいろとあったと思う。今となってはどんなことがあって,どんな風に対応してきたかも思い出せないが,これだけは言える。
まじめにやらせてあげればよかった。
A君が「ナイス川」と書いたときに「ちょっとちがいますね」と笑顔で言ってあげればよかった。
A君がまじめにがんばれないときに,迎合せず,しっかり授業を統率すればよかった。そして,A君がまじめにノートをとっていたり丁寧な字を書いていたらすかさず,でもさりげなくほめてあげればよかった。
授業の中で,正しい方向で活躍させてあげればよかった。でも,当時の私は授業の技量が低くて,そこまでできなかった。A君がだんだん荒れていったのはさまざまな要因があったとは思うが,授業のやりとりの中で,いくらでもA君の素直さやまじめさを生かすことはできたと思う。申し訳なかったとつくづく思う。
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- 明治図書