- はじめに
- 音読指導
- どんな生徒も熱中! 音読テスト /丸山 好美
- ――現代文・古典を問わず実施可能な授業――
- 1 変化のある繰り返しで音読練習
- 2 いよいよ音読テスト
- 3 個別評定の効果
- 短い一文を読ませ、その場で点数を告げる音読指導 /加納 敏
- ――「児のそら寝」(『宇治拾遺物語』)の授業――
- 1 音読テスト
- 2 音読テストまでの指導の流れ
- 3 生徒の反応
- おとなしい生徒も人前で堂々と話せる指導 /丸山 好美
- ――国語表現「スピーチ」の授業――
- 1 早口言葉でウォーミングアップ
- 2 スピーチの練習をする
- 3 三分間スピーチに挑戦
- 要約・読解・視写指導
- 上達の道筋を示す個別評定 /立野 愛美
- ――「ミロのヴィーナス」と「山月記」の授業(高二)――
- 1 点数がつけられなかった桃太郎要約
- 2 教師自身がハードルを越える
- 3 点数がつく、何度もできるという優しさ
- 4 「ミロのヴィーナス」(第一段落)個別評定をためらい停滞した授業
- 5 対応のバリエーションが課題
- 6 「ミロのヴィーナス」全段落穴埋め要約
- 7 「山月記」二十字要約にチャレンジする
- 8 要約前のワンステップで内容を確認
- 9 要約のキーワードを確定する
- 10 手がかりがあるから要約できる
- 11 上達を目指す集団を作る
- 分析批評のパーツで授業を組み立てる /鈴木 良治
- ――小説「棒」の授業(高三)――
- 1 分析批評のパーツを使う
- 2 授業の展開
- (1) 全文通読(うずまき読み)
- (2) 段落ごとの読解 その1―三色ボールペン方式も取り入れて
- (3) 段落ごとの読解 その2―知覚語をあげて対比させる
- (4) 小説の構造・できごと
- (5) 仮の主題の設定
- (6) 主想を導く表現の分析・討論 その1
- (7) 主想を導く表現の分析・討論 その2
- 古文も「二つに分ける作業」で構造がつかめる! /中川 とも子
- ――『方丈記』冒頭「ゆく川の流れ」を授業する――
- 1 従来の「対句に注目する」授業から、「大きく構造をつかむ」授業へ
- 2 全体を見渡すために、「一文につき、漢字一字で」要約する
- 3 「大きく二つに分ける」を繰り返す中で、本文の構造をつかむ
- 4 古文でも、本文の構造に着目して読める
- 手本を写して持って来させ、その場で評定する /加納 敏
- ――「児のそら寝」(『宇治拾遺物語』)・「亀山殿の水車」(『徒然草』)の授業――
- 1 手本を視写させる
- 2 ノートを持って来させる
- 3 評定する
- 4 生徒のノート
- 入試対策
- 入試対応! 記述問題を個別評定で指導する /丸山 好美
- ――評論「誘惑する情報」の授業――
- 1 記述問題ができない
- 2 評論の授業で記述問題に挑戦させる
- 0点をつけると生徒は燃える! /永原 啓嗣
- ――センター試験後の「現代文の入試対策」の授業――
- 1 現代文の勉強方法を教えてください
- 2 教室を統率する
- 3 ワンウェイからツーウェイへ
- 4 もっともできる生徒に「0点」をつける個別評定の授業
- 5 生徒は個別評定の授業をこう評価した
- 定番教材で個別評定
- 教科書の学習課題で記述力をつける /永原 啓嗣
- ――評論「水の東西」の授業――
- 1 学習課題を使った個別評定の授業
- 2 個別評定の授業のサイクル
- 暗唱を取り入れた文学教材の指導 /鈴木 良治
- ――小説「舞姫」の暗唱テスト(高三)――
- 1 はじめに
- 2 授業の展開
- (1) 最初の暗唱テスト――全員をクリアさせる工夫
- (2) 二回目以降の暗唱テスト――程よい緊張の中でハードルを越えさせる工夫
- 個別評定で教える「違い」の述べ方 /永原 啓嗣
- ――古文「絵仏師良秀」の授業――
- 1 入門期の古文で「書く」指導
- 2 「違い」を問い、答え方の定型を指導する
- 和歌は個別評定の好個の教材 /加納 敏
- ――古文『古今和歌集』の授業――
- 1 視写
- 2 音読テスト・暗唱
- 3 読解
- 説明しなくてもできる手紙の書き方指導 /丸山 好美
- ――国語表現「手紙の書き方」の授業(高三)――
- 1 趣意説明をする
- 2 問答で形式を確認する
- 3 例文を視写させる
- おわりに
はじめに
「先生のおかげで国語の点数が上がりました」「先生の授業で国語が好きになりました」
生徒からこう言われたとしたら、それは教師冥利に尽きる。しかし、ただ漫然と日々の授業をこなしていただけでは、こう言われる授業はできない。しかるべき教育技術があることを知り、それを身につける修業が必要になる。
教師になったばかりの頃は、そんな技術があるとは夢にも知らなかった。そのため、毎日が失敗の連続で、一時間の授業を成立させられないこともあり、そんな時は腹痛をもよおしキリキリと胃が痛むほどだった。授業とはいったい何をすればいいのか。教師であるのに、そんなことも分からなくなり、授業に行くのが苦痛ですらあった。
今は授業が苦痛とは思わない。そう思えるようになったのは、向山洋一氏が代表を務めるTOSS(Teacher’s Organization of Skill Sharing)で教育技術の存在を知り、それを身につけ使うことで確かに生徒が変わる、という実感を得たからだ。本書は、向山洋一氏が主張する授業の原則の一つである「個別評定」という教育技術により、実際に高校生がこう変わった、という実践例を集めたものである。
例えば、高校生は一般的に音読が下手だ。句読点の区別もなく、ボソボソと誰にも聞こえないような声で教科書を読む。「もっとしっかり読みなさい」と言ったところで変わるものではない。どうするか。
「一点です」と、評定するのである。
そんな低い評定をして生徒がやる気をなくさないか、という不安がある。もっともだ。教師なら、高校生がまじめに教科書を音読した、というだけでむしろ評価したくなるものだ。
しかし、そのような低い評定をしても、生徒はやる気をなくすどころか、それを受け入れさらに高い評定を得るべく、課題に挑戦してくる。ただ、ちょっとしたコツがいる。
一つは、教師が笑顔で評定することだ。これを不機嫌な表情で「一点」などと言ったら、次からその生徒は発言しなくなるだろう。笑顔で評定するからこそ、生徒はやる気を失わずに、課題に向かうことができる。
次に、スパッと瞬間的に評定することだ。三点か、いや四点かなどとモタモタしていては、効果が薄い。薄いどころかマイナスになってしまい、この教師はなにをやっているのだ、と生徒から不信感をもたれてしまう。教師が自分なりに考え抜いた解をもっていればよい。それに照らして「何点」と決めてしまうことが大切だ。
そして最後に、その評定の基準を明らかにすることだ。なぜ一点なのか、教師は説明できなければならない。
これらの授業行為は、すぐにはできない。知っていることとできることは違う。せっかく黒板に出てきて、解答を書いてくれた生徒に笑顔で「一点!」と言えるだろうか。そう簡単ではないはずだ。
今回執筆したメンバーも、もちろん私を含めて、初めからできたわけではない。本を読み、TOSSのセミナーをはじめとする研修会に自腹を切って参加し、自分の授業を人前にさらして恥をかきながら身につけてきたのだ。そのような修業の過程で、あるとき目の前の生徒の目つきが変わるときがある。緩んだ教室の雰囲気がピーンと張り詰め、普段は机に突っ伏している生徒が顔を上げるときがある。そんな授業を「個別評定」というテーマのもと集めた。
高校は学校ごとに抱える問題が異なる。私の初任校はいわゆる指導困難校といわれる学校であり、生徒指導をどうするか、が大きなテーマであった。現在は進学校に勤務し、東大、京大をはじめとする難関大学への進学指導をメインとしている。共通して使える授業技術はないように思われるかもしれないが、そんなことはない。それは本書を読んでいただければ分かっていただけると思う。
本書が、授業で悩む先生方の一助となれば、執筆者一同にとって望外の幸せである。
二〇一一年二月 /永原 啓嗣
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- 明治図書
- すぐに活用できそうなことがたくさん紹介されていて役に立ちます。2024/3/2850代・遊行上人