教育オピニオン
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不登校問題をどう解決するか
東京学芸大学教育実践研究支援センター教授小林正幸
2015/5/12 掲載

不登校とは

 不登校は学校不適応の一種である。学校不適応の結果、学校場面を避けるようになるのが不登校である。不適応とは、個人と環境が合わない問題である。個人が悪いのでもなく、環境が悪いのでもない。関係が悪いのである。夫婦関係が悪いという場合、夫が悪いものでもないし、妻が悪いのでもない。それと同じである。
 このように学校不適応は、子どもが学校に合わない問題であり、同時にそれは、学校が個人に合わない問題でもある。ただし、この関係は、人間関係の問題とは異なる。学校、とくに小中学校は義務教育であって、子どもは教育を受ける権利がある。そして、学校関係者および保護者は子どもに教育を受けさせる義務を負う。全ての者に合う環境を作るのは容易なことではないが、子どもの学ぶ権利を保障するために、努力が求められるのは、子ども側ではなく、子どもを取り巻く大人側であるのは言うまでもない。

長期欠席の変化に見る不登校の増減

 その不登校が増えているのだとすれば、少なくとも、目の前に現れる子どもに合った教育がなされていないことを意味するだろう。その実際を示すのが、図1の年間30日以上欠席を示す長期欠席児童生徒の出現率の推移である。長期欠席は不登校以外にも病欠などのやむをえない欠席を含むが、医療や福祉が進んでいる21世紀では、長期欠席のデータが不登校問題を端的に誤りなく示すものだと筆者は考えている。

図1

 ここに示すように、長期欠席の出現率は、とくに中学校で1992年から2002年までの10年間で倍増した。2003年に減少するが、これは、完全週休二日制が始まった年であり、出席日数が年間20日程度減少する中で生じた自然減である。そのように見れば、2003年からは高いまま推移していて、この問題が収拾した様子は見られない。

不登校問題の未然防止と早期発見早期対応

 不登校問題を減少させるならば、現在起きている不登校の子どもの問題の解消よりも、不登校を起こさないようにしていくことに尽きる。火事の発生件数を減らしたいのなら、消防署を増やしても意味がない。火事の原因となることにアプローチすることが一番である。火事を起き難くするのが一番である。また、深刻な事態にならないうちに、手を打つことである。小火の段階で、早く消火させてしまうことが次に重要になる。
 では、不登校の原因とは何か。不登校が始まるきっかけとなっていることに注目すれば良い。火事のきっかけとなった火種に注目するのと同じ発想である。文部科学省は、これまで、全国規模で不登校生徒の追跡調査を2回行っている。その中で、不登校のきっかけとなった出来事を20歳になった不登校体験者に尋ねている。
 その結果は、次の通りである。

表1

 表1は、平成5年度と平成18年度の中学3年生が成人した時点で、当事の欠席のきっかけを尋ねたものである。調査時期は異なるものの、いずれも学校で不快な体験があったことをきっかけとする割合が多い。学校で嫌なことがあったから不登校になる場合が多いのである。とくに、友だち関係の問題が、不登校のきっかけとなる場合が多く、最近の調査の方がこの割合は多くなっている。なお、平成18年度の中学3年生調査の新項目「生活リズムの乱れ」は、学校不適応の結果生じた睡眠の問題などの身体化症状も含まれると思われ、きっかけだけを計測しているとは言い難い。

教師だからできること

 さきほど述べたように、不登校を減らす上では、不登校のきっかけにアプローチすることが一番効果的である。この多くは、教師にしかできない。なぜなら、仲間関係に目配りをし、子ども同士の人間関係を良好に保ち、学業場面での躓きを支援し師弟関係を良好なものに保たせていくのは、学校にいる教師以外の者にはできないからある。
 さらに、進級、進学、転校などの際に、丁寧な関わりを行うこと、身体的な不調が見られた場合には、子どもとの関係が疎遠にならないように積極的に温かい言葉をかけることなども必要であろう。これらは、学級経営や生徒指導面での丁寧な関わりと、居心地の良い学校・学級環境を作ることが、最大の不登校を減少させるための予防策であることを表している。

表2

 表2の項目は、不登校の子どもや学校不適応傾向のある子どもに関わる際の要諦である。これらのことを「必ずしたい」と考えている教師は、不登校を出さないこと、また、不登校を改善させることが分かっている(小林・大熊、2009)。また、これらのことを「必ずしたい」と考える教師の多い学校ほど、その後不登校が減っていくことが実証されている(早川ら、2014)。不登校の子どもや、学校にいることが辛そうな子どもには、これらの関わりを意識して行いたいものである。

チームによる支援

 このような場合、その子どもに関わる関係者で、より具体的にどのような関わりがより適切なのかを話し合い、その方針を共有する。それがチームによる関わりである。
 そして、そこで必要になるのが方針の共通理解である。そのチームの動きを、学校全体で支える。以上のことが整ったときに、子どもの学校不適応の課題が改善していき、全体として不登校が減少していくのである。

参考文献
・現代教育研究会 2001『不登校に関する実態調査』(平成5年度不登校生徒追跡調査報告書)文部科学省
・不登校生徒に関する追跡調査研究会 2014『不登校に関する実態調査』(平成18年度不登校生徒追跡調査報告書)文部科学省
・小林正幸・大熊雅士 編著 2009 『がんばれ先生シリーズ1 不登校にしない先生・登校を支援できる先生』明治図書
・早川惠子・椚弘之・和泉綾子・小林正幸 2014 『中学校教師の不登校生徒支援の意識に関する研究(2)―長期欠席生徒出現率の推移との関連―東京学芸大学教育実践研究支援センター紀要10集』9 -14

小林 正幸こばやし まさゆき

東京学芸大学教授
1957年生まれ。不登校問題の解消、ソーシャルスキル教育を中心に学校不適応問題を中心に研究を行ってきた。東日本大震災後には、新たにNPO法人「元気プログラム作成委員会」を立ち上げ、被災地の子どものこころのケアに関わる野外教育活動などの実践活動と、そこで開発された支援方法の応用展開と技術伝承を行っている。
『がんばれ先生シリーズ1 不登校にしない先生・登校を支援できる先生』明治図

『学校でしかできない不登校支援と未然防止―個別支援シートを用いたサポートシステムの構築―』東洋館出版社 など

コメントの一覧
2件あります。
    • 1
    • 橋本弥真斗
    • 2015/5/12 19:41:21
    姉が学校に行くのがめんどくさい、朝に起きれないと学校に行かず一年半ぐらい不登校です(*_*)
    • 2
    • みかん
    • 2015/5/12 21:39:14
    少5で父親を亡くしてから不登校です。18才です。高校も受験して、入学式も出席したのにいざとなると行きません。今は高校4年生です。
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