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次期学習指導要領改訂 審議のまとめ(案)公表
小学校外国語活動 これまでとこれから
教育zine編集部高柳 直子
2016/8/31 掲載
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  • 学習指導要領・教育課程

 今月26日、次期学習指導要領改訂について、中央教育審議会が審議のまとめ(案)を提示しました。その中でも各メディアが注目していたトピックのひとつは、やはり「小学校英語」ではないでしょうか。「小学3・4年からの外国語活動開始」「小学5・6年での授業時間の増加」と、これまで以上に外国語活動に力の入る方針になりました。
 特に高学年では、これまで中心だった「聞くこと」「話すこと」に加え、「書くこと」「読むこと」も重視することとなり、教科型の外国語活動が展開されます。時数も、年間70単位時間程度が必要となり、時間の確保が課題となることは必至ですが、このことは審議のまとめでも次のように言及されています。

15分の短時間学習の設定や、60分授業の設定、長期休業期間における学習活動、土曜日の活用や週あたりコマ数の増など、地域や学校の実情に応じて組合せながら弾力的な時間割編成を可能としていくことが必要。

 また、教える側についても次のように触れられています。

高学年を担当する現職教員の専門性を高めるための認定講習(中学校英語免許取得)の開設支援や外部人材の活用支援なども含め、指導者の確保等を併せて実施

 時間数の増加、教える内容の増加、教員に求められる専門性の高度化、と小学校外国語活動をめぐる環境が大きく変わろうとしている今、少し立ち止まってこれまでの小学校英語をとりまく流れを振り返ってみましょう。

 最初に「小学校に英語を」と声が上がったのは、今からさかのぼること100年以上も前、明治時代だったようです。当時はエリート教育として、一部の学校でのみ授業が行われていました。その後、戦争により英語の教育は一時中止されますが、戦後、グローバル化が進む中で、小学校英語熱が再燃、H14年実施の指導要領で、「総合的な学習の時間」の中に「外国語会話」が加わりました。
 H23年には現在の学習指導要領が実施され、あくまで「総合的な学習の時間」の中の「国際社会の理解の一環」という位置づけだった「外国語会話」が、「外国語活動」へと変化します。こうして、小学5・6年から「聞くこと」「話すこと」を中心に指導する現在のかたちになりました。
 それから8年後のH30年、先に触れた新指導要領が導入されることになるのです。

 このように大まかに歴史を振り返ってみると、長い年月をかけて「外国語活動」の時間が少しずつ増えてきたことが分かりますが、果たして「外国語活動」の早期実施には効果があったのでしょうか。英語の真の能力を測る方法について追及するときりがありませんが、ここでは賛否はあれども現在最もポピュラーな英語の能力を測る指針のひとつ、英検にスポットを当ててみましょう。

 H25年、政府が平成25年度「英語教育実施状況調査」の結果概要(公立中学校・中等教育学校前期課程)を公表しました。
 その中で「中学校第3学年に所属している生徒のうち、英検3級以上を取得している生徒」と「取得はしてないが英検3級以上相当の英語力を有すると思われる生徒」は、合計32.2%だったということがわかります。
 調査対象だった当時の中学3年生といえば、H23年の小学校外国語活動全面実施の1年前、H22年に小学6年生だった生徒たちです。

 次に、2年後のH27年、再度政府が公表した平成27年度 公立中学校・中等教育学校(前期課程)における英語教育実施状況調査の結果についてをみてみましょう。
 「中学校第3学年に所属している生徒のうち、英検3級以上を取得している生徒」と「取得はしてないが英検3級以上相当の英語力を有すると思われる生徒」は、合計36.6%になっています。2年前に比べ、英検3級かそれに準ずる能力のある生徒が4.4%も増える結果となりました。
 この年の中学3年生は、小学校外国語活動全面実施の1年後、H24年に小学6年生だった生徒たちです。

 ひとつの試験の結果だけで、英語の能力を判断することはもちろんできません。しかし、小学校での外国語活動全面実施前後の生徒を比べると、後者の英検取得率の方が上がっているということは確かです。英語に早くから触れることの是非はよく議論されることではありますが、今後もこのような調査を通じて、英語に触れさせる最適な時期のヒントを見いだせるかもしれません。

 しかし課題はまだまだ山積です。H26年、政府は高校3年生を対象とした、平成26年度英語力調査(高校3年生)結果の概要を公表しました。この結果をみると、4技能全てにおいて課題があるとともに、特に「書くこと」「話すこと」のレベルに問題があることがわかります。また、「英語が好きではない」という回答が半数を上回り、英語への学習意欲についても課題が残りました。

 以上のように小学校からの導入をはじめとした日本の英語教育には、英検取得率の上昇など明るい展望が期待される要素が見られる一方で、「国際社会に通じる英語力がついた」と言えるレベルには到底たどり着けていない現状があります。
 今回の指導要領の核は、「何を学ぶか」ではなく「どのように学ぶか」「何ができるようになるか」の視点での改善でした。「どのように学ぶか」の部分を今後さらに具体的に、より深く検討する必要がありそうです。

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