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ついに、全国にデジタル教科書導入か―導入における賛否とPTAの声
教育zine編集部花岡
2016/3/31 掲載

 先日、文部科学省(以下、文科省)の有識者会議にて、次期学習指導要領が改訂される年を目途に、全国の小・中・高等学校に「デジタル教科書」を導入するよう、意見がまとめられました。あくまで、有識者の中での意見ということで、文科省としては検討中とのことのようです。既に導入済みの学校もありますが、全国に導入とはとても大きな話です。

デジタル教科書とは?
 デジタル教科書とは、デジタル教科書教材協議会によると、

 デジタル機器や情報端末向けの教材のうち、既存の教科書の内容と、それを閲覧するためのソフトウェアに加え、編集移動、追加、削除などの基本機能を備えるもの

 主に教員が電子黒板等により子供たちに提示して指導するためのデジタル教科書(以下「指導者用デジタル教科書」という。)と、主に子供たちが個々の情報端末で学習するためのデジタル教科書(以下「学習者用デジタル教科書」という。)に大別される

とあります。
 指導者用デジタル教科書について簡単に申し上げますと、既存の紙の教科書がデジタル版となり、PCなどで閲覧することができ、更に例えば図形やグラフを切ったり動かしたりすることができます。また、アニメーションや関連動画(例えば、実験の様子や、作図の仕方など)を随時閲覧することができるなど、児童生徒の理解の手助けをすることができます。
 また、学習者用デジタル教科書では、「白黒反転表示」「総ルビ・わかち書き」「文字拡大や行間、文字色の変更」などの機能により、紙の教科書では学習に支障(読んでいる箇所を見失う、漢字が読めないことで文章を理解しにくいなど)が出てしまう児童生徒の、学習内容の本質以外での躓きを防止する効果もあります。
 デジタル教科書には、紙の教科書では実現不可能な機能が多数備わっており、期待が持てそうですね。

デジタル教科書導入における懸念点
 一方、懸念点が数多く残っていることもまた事実です。
 第一に設備の面での問題です。学習者用デジタル教科書の利用には、個人情報端末(タブレットなど)が必要不可欠になりますが、その端末や通信システムのコストを考えると、なかなか難しいものがあります。
 また、デジタル教科書だからこそ実現できる自動採点も、実際のところ穴埋めや選択問題が対象となり、問題の幅が限定的になってしまいます。多様な答え方が想定される記述式問題では、キーワードの重なり具合などをパラメーターとして、模範解答との「距離」で採点を行うため、正確な採点は難しいと考えられます。
 その他、指導者・学習者ともに、PCやタブレットの使い慣れ具合の差が、指導力・学習能力に影響してしまうことなども、また懸念であります。
 
 このように、メリットも懸念点も多々あるデジタル教科書ではありますが、実際に使用することになる子供たちの親は、どのように考えているのでしょうか。文科省で実施された、日本PTA全国研究大会分科会来場者対象の、学習者用デジタル教科書に関するアンケート結果(小学校・中学校編)の一部をご紹介したいと思います。

PTAの声(アンケート結果より)
 学校や家庭で「デジタル教科書」を使用することについての考えの割合は以下のようになりました。(有効回答数2753)

アンケート結果

 全体的に賛成と考える割合がやや多いようですが、僅差ではあるものの、子供の年齢が低いほど反対の割合は多いようです。
 また、学校や家庭で「デジタル教科書」を使用することについて「賛成」または「どちらかというと賛成」と回答した方のうち、「デジタル教科書」のみ使用が望ましいと回答した理由として、

1位 紙の教科書と比べて、持ち運びやすいと考えるから。
2位 動画や音声、文字の拡大等、紙の教科書にはない機能があると
   考えるから。
3位 一人一人の学習の状況等に応じた使い方ができると考えるから。

が挙げられています。
 さらに、学校の授業や家庭で「デジタル教科書」を使用することについて「どちらかというと反対」または「反対」と回答した理由としては、

1位 「デジタル教科書」では書く力や考える力、知識の定着等の面で、
    子供の学習が充実するとは考えられないから。
2位 「デジタル教科書」では健康面への影響が大きいと考えるから。
3位 「デジタル教科書」では紙の教科書の特性や機能(一覧性等)に
   欠けると考えるから。

が挙げられています。
 その他、以下のような意見も挙げられています。

・紙に書いて、覚えることは重要な学習活動であるので、なくならないよ
 うにしたい
・考え、想像する力もつけてほしいので、ある程度学年が進んでからの導
 入が良いのではないか
・学年が進んでも、同じ端末で下学年の内容を復習できることが可能にな
 ればよい
・「デジタル教科書」が向いている子供と紙の教科書が向いている子供が
  いるので、その子に合った使い方ができればよい

どの意見にも納得でき、一長一短あるのが「デジタル教科書」という感じです。

 PTAとしては期待も不安もあるデジタル教科書導入。しかしながら、先日私が授業見学した際に実感したのですが、例えば国語では、教科書本文の注目させたい箇所を、電子黒板で色をつけて共有したり、また算数では、児童が発表した面積の求め方を、電子黒板の図形に書き込んで視覚的に共有したりと、活用の仕方次第では効果的なことは確かかと思います。
 児童生徒にとって、一番よい形になることを願いつつ、今後の動きに注目していきたいと思います。

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