QA解説 「特別の教科 道徳」の授業づくり
教科化時代が来た! 新しい道徳授業の創り方を解説します。
QA解説 「特別の教科 道徳」の授業づくり(20)
「3つの例示」以外の指導法とは…
筑波大学附属小学校教諭加藤 宣行
2017/1/20 掲載
  • 「特別の教科 道徳」の授業づくり
  • 道徳

B先生

 道徳教育に係る評価等の在り方に関する専門家会議から「道徳科における質の高い多様な指導方法」として示された3つの大枠はわかりました。ちなみに報告書では「これらは多様な指導方法の一例であり、指導方法はこれらに限定されるものではない」「学習指導要領の改訂の趣旨をしっかり把握した上で、学校の実態、児童生徒の実態を踏まえ、授業の主題やねらいに応じた適切な指導方法を選択することが重要」と書かれています。そこで困りました。他にどんな「学習プロセス」があるのでしょうか。それがわからないと、工夫のしようがありません。

加藤先生からのアドバイス

 たしかに、他の方法なり授業スタイルがわからなければ、工夫のしようがありませんね。そこで今回紹介するのが、「子どもとつくる本質的な学習スタイル」です。 
 そのような子どもの立場に立った「学習プロセス」とはどういうものか考えてみましょう。

解説

子どもとつくる本質的な学習

・「初めは当たり前と思っていたけれど、何か違うぞ?」「あれ?どういうことだろう。もっと考えたい、友達の意見を聞いてみたい」と自らの姿勢が前向きになる。
・「そうか、この前感じたことはそういうことだったのか」「ああ、わかるなあ。だって自分もそういうときがあったから」などというように、自らの体験を重ね合わせて意見を言うことができるようになる。
・これまで気づかなかった登場人物の心情がわかり、「ああ、この人は『本当に生きていて良かったなぁ』と思っただろうな」と感情が動く読みができるようになる。

 どうですか? このようなプロセスで子どもたちが道徳の授業を学習するとしたら、きっと自らの生き方をよりよくしていくことのできる、「生きる主体者」になると思いませんか。
 そして、このプロセスの中に、問題解決的な要素、体験を振り返ったり生かしたりする要素、登場人物の心情に自我関与して心を動かす要素のすべてが含まれていると思いませんか?
 つまり、贅沢なことに、「質の高い多様な指導方法」のすべての要素を盛り込みながら、しかも子どもたち自らが学びを展開していく方法があるのです。それが、子どもとつくる本質的な学習です。この学習プロセスは、厳密にいうとプロセスではなく、学習を支える理念・哲学です。プロセスを追うのではなく、本質的な理念を追うことで、自ずと問題意識が喚起・啓発され、自らの体験も総動員しながら真剣に考え、最終的に読み物教材の読みが劇的に変わり、感動が呼び起こされるのです。
 そのような道徳授業をつくるために必要な観点は、プロセスをたどるという方法論ではなく、本質的な学びを展開していく中で、自然に(付随的に)プロセスが生まれてくるという逆の発想です。このように自然に本質に向かう学習プロセスを何と呼べばよいのでしょう。近いのは、「テーマ発問型」と呼ばれるジャンルの学習スタイルです。
 では、どのような観点を心がければ「子どもとつくる本質的な学習・テーマ発問型」の授業になるのかを、紹介しましょう。

子どもの立場から見た学習プロセス

1 是非とも考えたいと思う問いをもつ
2 問いに関して、自分なりの予想を立てる
3 みんなが立てた予想を分類する
4 予想を追究するため、教材を読んでたしかめる
 @みんなが立てた予想を具体的に確認し合う
 A予想以外の新しい考え方を見つける
5 新しい考え方を自分の目標に照らし合わせて確認し合う
6 今日の学習をもとに、これからの自分自身の行動を考える

 具体的な例を挙げて考えてみましょう。
1 「がんばれ!」って言われると力が湧いてくるときと、返ってやる気がなくなるときがあるのはなぜだろう?
2 きっと、もう少しでできそうなときは力が湧いてきて、がんばっているのにどうしようもないときはいわれるとやる気がなくなるのでは?
3 なるほど、できそうかどうかがポイントなんだね。
4 この教材の主人公は、なぜがんばることができるのだろう。
 @あれ?人からいわれなくてもがんばっているぞ?
 Aどうやらがんばりには、自分の中の「何か」が大切なのでは?
5 「がんばる」ことには、人からいわれるのではなく、自分から見つけるものがあり、そのようなものを見つけられた人は、パワーが湧いてくる。強い。
6 自分にもそのような自分を高めるパワーがありそうだ。何に向けてそのパワーを使おうかな。使えるかな。楽しみだな。

 いかがでしょう?
 子どもたちが自らの生き方を、自らの責任で背負い、主体的に生きていく糧をもたせることができたら、それこそ、「質の高い指導方法」といえないでしょうか。

  • 子どもたち自身が考えたいと思う刺激、テーマ、題材を与え、考える主体にする。(子どもたちの主体性を尊重する)
  • ストーリーの読み取りではなく、自らの問題意識とリンクさせながら話し合いを展開する。
  • 子どもたちの気づき、言葉を受けながら、さらなる広がり、高まりを意図した問い返しを行う。(教師が指導性を発揮する)

加藤 宣行かとう のぶゆき

東京生まれ。
神奈川県津久井地区公立小学校教諭を経て、現在、筑波大学附属小学校(道徳部)教諭。
筑波大学・淑徳大学講師。

(構成:茅野)
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