QA解説 「特別の教科 道徳」の授業づくり
教科化時代が来た! 新しい道徳授業の創り方を解説します。
QA解説 「特別の教科 道徳」の授業づくり(18)
「問題解決的な学習」って何?
筑波大学附属小学校教諭加藤 宣行
2016/11/18 掲載
  • 「特別の教科 道徳」の授業づくり
  • 道徳

B先生

 道徳教育に係る評価等の在り方に関する専門家会議から「道徳科における質の高い多様な指導方法について」として、3つの例示がなされました。
 @読み物教材の登場人物への自我関与が中心の学習
 A問題解決的な学習
 B道徳的行為に関する体験的な学習
 です。それぞれについて、詳しく教えていただけませんか。

加藤先生からのアドバイス

 2回目の今回は「問題解決的な学習」について考えていくことにしましょう。

解説

問題とは
 ここで言う「問題」とは、教師から与えられた問題ではなく、子どもたちが自分自身で抱く問題意識のことを指します。「どうして人にやさしくできないときがあるのだろう」「なんで友達とけんかをしてしまうのだろう。仲直りしたいけれど、どうすればよいのかな」などというのは、人間として当然もちうる「問題意識」です。このような「弱い自分を認め、よりよくあろうとする」意識を大切にしたいものですね。ともすると、「そのような問題意識自体をもってはいけない」「弱い、できない自分を認めてはいけない」というような空気を感じることもありますが、それは間違いです。
 道徳教育の目指すところは、できない自分を否定し、何でもきちんとできる自分を理想とするところにありません。なぜなら、そんな人間はいないのですから。時に易きに流れたり、弱音を吐いたりしてしまうけれど、そういう人間だからこそ、よりよくありたいと思い、努力するところに、人間のよさを見出さなければなりません。
 とはいえ、最初から問題意識をもって生活している子どもは、そうはいないでしょう。仮にもっていたとしても、明確に意識化されているわけではないでしょう。「言われてみればそうだよなあ、どうしてかなあ」「あれ?どういうことだろう。わかっているつもりだったけれど、改めて考えてみるとうまく説明できないぞ」というように、外からの刺激で脳が活性化することもしばしばあることです。ですから、教師の方でその刺激を与えることも必要です。それが系統的な学習です。
 教師の問題提起から、子ども自身の問いへ。これが自然な流れでしょう。

どのようにしたら解決したことになるのか
 他教科の場合は、本時のねらいに基づく問題に正解できたり、どういうことか説明できたり、実際にやってみることができたりしたら、「問題解決した」といってよいでしょう。けれど、道徳の場合は、一概にそうとは言えないのです。なぜなら、初めから正解はわかっているからです。「正直にすることが正しいこと」なのです。「うそをついてはいけない」のです。道徳の授業が、「みんなで上手にうそをつきましょう」で終わることはありません。
 では、道徳の場合、何を問題とすればよいのでしょうか。結論を言ってしまえば、「どのような人間になりたいか」です。「どのような人間になりたいか」という問題と、「どうしたら正直者になれるか」という問題とは、質が全く違います。なぜなら、「どのような人間になりたいか」の中には、「うそをつく」という要素も入ってくるからです。人間は、いろいろな状況でうそをつきます。冗談でもつくでしょう。エイプリルフールでもサプライズパーティでもうそをつきます。全部本当のことを言ってしまったら面白くありません。本当のことを言ったら相手が傷つくことだってあるでしょう。そういう時に、ことごとく「だって本当のことだから」ですませる人がいたとしたら、私たちはそのような人に魅力を感じるでしょうか。融通の利かない、カチカチの価値人間と思わないでしょうか。

授業場面で
 担任する2年生で郷土愛の授業を行った時のことです。Aさんが次のようなことを道徳ノートに書いてきてくれました。

 「どの町にもひとつひとつ光っているものがある、たのしいことがある。その町をもっとよくできる」ということがわかりました。
 わたしの町では、年に一度、てるひめまつりをやっています。てるひめのげきもやっています。毎年楽しみにしています。町の光っているところを、もっともっと見つけて、先生に教えてあげたいです。先生の町には、どんな「ひかってる!」がありますか?

 Aさんの中にも、たくさんの問題意識が生まれています。「わたしの町の光っているところをもっと見つけたい」「見つけたら、先生に教えてあげたい」「他の町にはどんな光っている(よいところ)ところがあるのだろう」等々。このように、授業をすることによって認識される問題も多々あることでしょう。これも問題解決的な学習のひとつですね。

  • 問題解決では、「できた、できない」の世界ではなく、「できない自分を認めつつ、よりよい生き方をするために大切なことは何だろう」という、「やろうとする」方向性を大切にしてあげましょう。
  • 初めは教師から与える「課題」でもいいですが、次第に子どもたち自身の「問い」に変容させ、最終的には子どもたちの問題意識を喚起、啓発できるようにしましょう。

加藤 宣行かとう のぶゆき

東京生まれ。
神奈川県津久井地区公立小学校教諭を経て、現在、筑波大学附属小学校(道徳部)教諭。
筑波大学・淑徳大学講師。

(構成:茅野)
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