赤坂真二直伝!主体的・協働的な学びを引き出す教師のリーダーシップ
これから求められる主体的・協働的な学びにおいて教師の役割・とるべきリーダーシップとは
赤坂真二直伝!教師のリーダーシップ(9)
「アクティブ・ラーニング」が投げかけたもの
上越教育大学教授赤坂 真二
2017/2/20 掲載
  • 赤坂真二直伝!教師のリーダーシップ
  • 学級経営

 先日出された、小中学校の学習指導要領(案)から「アクティブ・ラーニング」の文言がなくなりました。しかし、教育界の流行語大賞というものがあったとしたら間違いなく、「アクティブ・ラーニング」(以下、AL)が、間違いなく大賞かそれに準じる賞を取っていたことでしょう。本屋さんの教育書コーナーに行けば、書架のかなりの面積が、この言葉が冠された書籍に占められていました。また、教育書の新刊にも多くの書籍のタイトルにこの文言が付されていました。その内容も、授業づくりだけでなく、生徒指導やカウンセリング、学級経営から教師教育にまで、実に多岐にわたってALとの関係性が示唆されていました。それだけ実に多くの関係者の関心を鷲掴みにしたのだと思います。
 多くの注目を集め出したのは、文部科学省がこれからの学校教育にこれを導入すると言い出したからです。ALには、ご存知の方も多いと思いますが、文部科学省のいうALには、定義があります。「教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称」(平成24年8月28日「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて〜生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ」中央教育審議会答申、用語集より)です。
 最初はそれほど大きな騒ぎにはなっていませんでした。それは、上記答申のタイトルにも表れているように、大学などの高等教育における授業改善を対象として打ち出されたからです。しかし、それが、平成26年11月20日、下村文部科学大臣(当時)が出した「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について(諮問)」の中で、「課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習(いわゆる「アクティブ・ラーニング」)や、そのための指導の方法等を充実させていく」必要があると、小学校や中学校、高校でも取り組む方向を打ち出したからです。しかも、上記の定義では、読み方によっては、「一斉講義型授業以外、何でもあり」のように受け取ることができました。だから、「じゃあ、一体、どうやるの?(KNOW-HOW)」と「何でそんなことをするのだ?(KNOW-WHY)」などの疑問と不安が相まって、その正体探しが展開されたように思います。
 幾多の議論を経て、示されたことは、「現在は、特定の授業法を指すものではないこと」。そして、「主体的・対話的で深い学び」を実現するための授業改善の視点である、ということです。今後は、KNOW-WHYを議論することは急速になくなり、いっそう具体的な、KNOW-HOWの探求が始まります。そして、実践が始まると実績があるかないか、また、誰が主張するかで、これが本当のALであるなどの、「本家VS元祖」みたいな争いとまでいいませんが、そうした正当性の競争状態になるのではと少し危惧しています。
 しかし、重要なことは、文言の行方ではなく、この問題が投げかけた意味です。
 ここからは想像を含めた可能性の話です。小中学校の一定数は、「変わらないこと」を選択すると思います。いや、対話風の学習やちょっとした話し合いや発表の延長線上の活動を取り入れた授業づくりをしていくでしょう。しかし、そうした学校の軸足は、「変わらない」というところにあるので、先生方の意識は、単元のどの部分に活動を取り入れるか、授業のなかに何回、ペア学習やグループ学習を取り入れるかといったスタイルを選択するでしょう。しかし、その一方(こちらの方が少数)で、大学入試が変わる、塾、予備校の授業が変わる、やがて高校の授業が変わる、すると、高校入試が変わるということを見据えて、「変える」ことを軸足にして、教育を設計する学校も出てくるでしょう。そしてそのうちの何割か、本気でこれからの子どもたちが生きていくために必要な能力・資質を育てるためのカリキュラムを創り上げていくことでしょう。
 おわかりでしょうか。前者の意識の中心は、「授業づくり」であり、後者の中心は、「学校づくり」なのです。前者が見ているのは、過去であり、後者が見ているものは、未来なのです。同じく、現在の子どもたちと相対しているにもかかわらず、見据えているものが全く違うのです。これをお読みになっているのが小中学校の先生方ならば、あなたがどちらの学校に勤務するかはわかりませんが、恐らくこうした状況に身を置くことになるでしょう。
 これまでの学校は、余計なことを言わず、考えず、言われたことを忠実にやる成績のよい子どもたちを育てることができれば「よい学校」だと言われました。しかし、これからはそうはいきません。社会が変わるからです。真面目さや勤勉さだけでは、生きることが難しい社会になるからです。グローバル化や機械化などがよく話題になりますが、子どもたちにとっての本当の脅威はそれらではありません。本当の脅威は、私を含めた大人たちの危機感の薄さです。大人がもっている常識の多くは、人口増加の時代につくられたものです。人口増加の時代は、豊かな労働力に支えられて社会が豊かになっていったのです。そうした時代に子ども時代や青年期を過ごした人たちは、どこかで社会のイメージと捉えているところがあるように思います。「世の中、変わる、変わるっていうが何とかなるだろう」と高をくくっている人たちが多いように思います。重要な事実は、子どもたちに教育の在り方を決める決定権はなく、大人たちがそれをもっていることです。
 わが国は今、人口減少に向かって突き進んでいます。これから、何が起こるかわからない状況なのです。「何とかなる」のは、ほんの一部の人だけです。大方の人たちは、「今のままでは何とかならない」のです。だから、国際的な学力テストで上位の成績を取り続けているにもかかわらず、国が学校教育の聖域であった具体的な授業法にまで口を出して、その変革を求めることとなったのです。社会の変化を受け身で対応するだけでなく、自ら変化を起こし変化そのものになるような実力をもった社会人を育てることは喫緊の課題なのです。
 確かな知識を基に、一人では解決が難しい課題に対して、積極的に他者と協働しながら最適解を見つけるような力を育てるための授業は、今のままでいいのか、そのような授業を支えるカリキュラムは、どうあればいいか。また、それを遂行する教師の力量はどのようなものなのか、など多くのことが問われています。ALの投げかけた問題は、子どもたちに幸せな人生と社会を創る力を付ける教育の在り方を本気で考えるときに来ていることを訴えているのです。
 これからの国の在り方を決めるのは、子どもたちの実力ではありません。大人たちの現状に対する確かな分析力と、その分析をエビデンスにして将来を見据える確かなビジョンを描くこと。そして、それを実現するための具体的なアクションを起こすことです。そう、子どもたちに「アクティブ・ラーニング」で身に付けさせようとする力を、大人たちが今、発揮せねば、多くの子どもたちを路頭に迷わせることとなるでしょう。「主体的・対話的で深い学び」に向き合うとき、けっしてKNOW-HOWだけに心を奪われることなく、KNOW-WHYを問い続けたいものです

赤坂 真二あかさか しんじ

1965年新潟県生まれ。上越教育大学教職大学院教授。学校心理士。「現場の教師を勇気づけたい」と願い、研究会の助言や講演を実施して全国行脚。19年間の小学校勤務では、アドラー心理学的アプローチの学級経営に取り組み、子どものやる気と自信を高める学級づくりについて実証的な研究を進めてきた。2008年4月から、より多くの子どもたちがやる気と元気を持てるようにと、情熱と意欲あふれる教員を育てるために現職に就任する。
主な著書に、『クラスがまとまる! 協働力を高める活動づくり』『教室がアクティブになる学級システム』『アクティブ・ラーニングで学び合う授業づくり』『スペシャリスト直伝!成功する自治的集団を育てる学級づくりの極意』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり』『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ』『やる気を引き出す全員参加の授業づくり 協働を生む教師のリーダーシップ 』『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得』『気になる子を伸ばす指導 成功する教師の考え方とワザ』『思春期の子どもとつながる学級集団づくり』『いじめに強いクラスづくり 予防と治療マニュアル』『スペシャリスト直伝!学級を最高のチームにする極意』『一人残らず笑顔にする学級開き 小学校〜中学校の完全シナリオ』『最高のチームを育てる学級目標 作成マニュアル&活用アイデア』『クラス会議入門』(以上、明治図書)などがある。

(構成:及川)

関連書籍
2017.02.17 update

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は見えないというクラスが増えています。そこには、授業者である教師が見落としが
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【やる気を引き出す授業づくり】『やる気を引き出す全員参加の授業づくり 協働を生む教師のリーダーシップ 小学校編』『やる気を引き出す全員参加の授業づくり 協働を生む教師のリーダーシップ 中学校編』

 アクティブ・ラーニングは,単なるペアがグループを活用した交流型の学習ではありません。そして,ただ学習内容に深く触れればいいわけではありません。そこには子どもたちの主体的に学び合う姿が必要なのです。子どもたちが,生き生きとかかわりながら学ぶ授業づくりの具体例を豊富に示しました。

【アクティブ・ラーニングの視点による授業改善に】『アクティブ・ラーニングで学び合う授業づくり 小学校編』『アクティブ・ラーニングで学び合う授業づくり 中学校編』

 クラスは、係活動や当番活動などがばらばらに独立して機能するわけではありません。それぞれの活動が連動して学級を育てます。 いきいきとした活動性の高い学級集団を育てるためには、各活動を意図的に配置したデザインの質を上げることが大切です。学級で効果を上げている実際のシステムとその運用のポイントが豊富に紹介されています。

【活動性の高い学級集団を育てるためのグランドデザインに】『学級を最高のチームにする極意 教室がアクティブになる学級システム』

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【クラスのまとまりを生む協働力の育成に】『学級を最高のチームにする極意 クラスがまとまる! 協働力を高める活動づくり 小学校編』『学級を最高のチームにする極意 クラスがまとまる! 協働力を高める活動づくり 中学校編』

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