赤坂真二直伝!主体的・協働的な学びを引き出す教師のリーダーシップ
これから求められる主体的・協働的な学びにおいて教師の役割・とるべきリーダーシップとは
赤坂真二直伝!教師のリーダーシップ(6)
私たちが主体性を獲得するためには
上越教育大学教授赤坂 真二
2016/11/20 掲載
  • 赤坂真二直伝!教師のリーダーシップ
  • 学級経営

社会人として必要な力

 これまで比較的、学習指導要領サイドからテーマに迫ってきましたが、今回は社会的要請の部分から迫ってみたいと思います。
 教え子たちの顔を一人ひとり思い浮かべてみてください。みなさんの愛する教え子たちは社会人としてうまくやっていけそうですか。「あの子は大丈夫だな」また、「あの子はちょっと心配…」など、いろいろだと思います。では、社会人として必要な力とはどんな力なのでしょうか。
 平成18年2月、経済産業省では産学の有識者による委員会にて「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」を3つの能力から成る「社会人基礎力」として定義づけました。 同省によると、企業や若者を取り巻く環境変化により、「基礎学力」「専門知識」だけでは、立ちゆかなくなってきている現状を踏まえ、それらをうまく活用していくための「社会人基礎力」を意識的に育成していくことが今まで以上に重要となってきているようです。
 社会人基礎力の3つの能力とは、図1に示すものです。

図1図1 経済産業省HP(http://www.meti.go.jp/policy/kisoryoku/)を元に筆者作成

 アクションとは、前に踏み出す力のことで、主体性、働きかけ力、実行力から成ります。また、シンキングとは、考え抜く力のことで、課題発見力、計画力、想像力から成ります。また、チームワーク力とは、多様な人々とともに、目標に向けて協力する力のことで、発信力や傾聴力などの6つの能力からなります。これを見ると、まさに社会人基礎力はアクティブ・ラーニングでねらっている資質・能力と重なる部分が大きいように思います。一般社会で必要な力を、学校教育でもしっかり育ててほしいという次期指導要領の願いが見えます。
この3つの能力は、それぞれかかわり合って、基礎学力や専門的知識と往還し、社会に貢献していくと考えられます。これら3つの力は、どのような関係にあるのでしょうか。

チーム体験

 近年は、「チームの時代」と呼ばれるようになりました。1965年生まれの私が子どもの頃は、高度経済成長の時代でした。大量生産が求められた時代は、人を一定の枠に当てはめて、それこそ「組織の歯車」のようにして動かすことによって生産性を高めなければいけませんでした。だから、社会から求められる人材は、組織の一員として、余計なことを考えず、余計なことを言わずに、上の命令に黙って従う力が求められました。
 しかし、やがて社会にものがあふれるようになると、量から多様性の時代に移行していきます。みんなが同じことをやっている労働から、個人の独立性を大事にするようになりました。個人の自由度が、多様な商品を生み出す原動力になるからです。そのため、企業は個人の能力を評価する成果主義を取り入れるようになりました。
 ところが、この成果主義は、今まで組織の歯車として働いてきた日本人には合わなかったようです。個人に成果を求めることによって個人への期待が大きくなります。すると真面目な日本人は、仕事にプレッシャーを受けるようになり、周囲のことはさておいて自分のことだけを考えるような人たちが出てきました。これによって、組織としてのまとまりが失われ、生産性を落とす企業も出てきました。
 そういうなかで、企業が生き残るために選んだ戦略は、チームとして成長することです。ある課題に対して、チームみんなでアイディアを出し合い、解決していくようになったわけです。チーム力が必要になったのは、これまでの労働形態が合わなくなったからだけでではありません。世の中は複雑化、高度化し、そこで生起する課題もそれだけ、複雑化、高度化しました。その課題を解決するには、過去の解答例が適用できなくなってきました。すると、課題を解決するには、一人で考えるには手に負えないものが多くなってきたのです。すると、その場にいるメンバーでアイディアを出し合い、正解ではなく「最適解」を見つけ出す力が求められるようになりました。
 この一人では解決できない課題を、力を合わせながら解決する力がチーム力で、そこで個々のメンバーに求められるのがチームワークを遂行する能力なのです。これからの時代は、組織に依存した受け身の生き方ではやっていけません。逆に、どんなに個人的に秀でた能力をもとうとも、他者と協力できないのではチームにデメリットをもたらしますので評価されません。つまり、前に踏み出す力や考え抜く力が意味を為すのは、他者の存在があってのことであり、それらの力を現実的なものにするのは、チームワーク力であるといえます。
 チームワーク力は、これからの社会人に必須の能力と言えます。今、子どもたちに必要なのはチーム体験なのです。チームで成果を挙げるには、如何に個人の持っている能力を集団に開放できるかが勝負です。しかし、わが国の精神性は、チームで成果を挙げることに対して抵抗があるようです。そうした構造は、私たちの生活の隅々まで支配しています。
 例えば、サッカーや野球などの選手起用を見ると、海外の場合は、どんなに年俸を獲得していようと、調子がよければ起用する、悪ければ起用しないといった原理で動いているように見えます。しかし、わが国では有名選手がスタメン落ちすると、「意外」とか「屈辱」とかと新聞の見出しに書かれます。大相撲で、格下が格上を破ると「波乱」と大騒ぎをします。それは、単に調子の良いものが勝ち、悪いものが負けるという極めて合理的な結果なのに、わが国の場合は、いちいちそこに物語性が付加されます。
 こうしたメンタリティが大物、小物、格上、格下の階層意識を生み、また、それを維持し強化してしまっているのではないでしょうか。つまり、大物や格上が仕切る世界を容認してしまっているわけです。チームの時代と共に、カリスマ的なリーダーは要らないという主張を聞くようになりました。これも組織の在り方が異なってきたからこそ、そのリーダーの在り方が変わってきたのだと指摘できます。それにもかかわらず、わが国は、政治でも経済でもスポーツでもリーダーの言動に過剰に注目し、どこかでカリスマ的リーダーの出現を待っているようなところがあります。カリスマ的リーダーの出現を待つということは、受け身な生き方を象徴しているのではないでしょうか。自ら判断したり、自ら行動したりすることの放棄に繋がるメンタリティです。
 こうした構造は、教育界にも見られることは言うまでもありません。学校の公開研究会を見ても、学校としてどう教育を創ってきたかということよりも、個別の教師がどういう授業をしたかに焦点が当てられがちです。研究会の成功も失敗も個人の仕事に帰されてしまうわけです。研究会が成功したように見えても、それは個々の教師の授業の成功への賞賛であって、学校としての取り組みへの評価になっているかどうかは疑問です。個人の能力や成果を集団に開放するような構造にしないと、ますます学校はチームという組織のあり方とかけ離れていくでしょう。
 子どもたちに主体性を育てようと思うならば、まず、教師を含む大人たちが自らの主体性に向きあいそれを獲得するように行動することが求められそうです。

赤坂 真二あかさか しんじ

1965年新潟県生まれ。上越教育大学教職大学院教授。学校心理士。「現場の教師を勇気づけたい」と願い、研究会の助言や講演を実施して全国行脚。19年間の小学校勤務では、アドラー心理学的アプローチの学級経営に取り組み、子どものやる気と自信を高める学級づくりについて実証的な研究を進めてきた。2008年4月から、より多くの子どもたちがやる気と元気を持てるようにと、情熱と意欲あふれる教員を育てるために現職に就任する。
主な著書に、『アクティブ・ラーニングで学び合う授業づくり』『スペシャリスト直伝!成功する自治的集団を育てる学級づくりの極意』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり』『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ』『やる気を引き出す全員参加の授業づくり 協働を生む教師のリーダーシップ 』『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得』『気になる子を伸ばす指導 成功する教師の考え方とワザ』『思春期の子どもとつながる学級集団づくり』『いじめに強いクラスづくり 予防と治療マニュアル』『スペシャリスト直伝!学級を最高のチームにする極意』『一人残らず笑顔にする学級開き 小学校〜中学校の完全シナリオ』『最高のチームを育てる学級目標 作成マニュアル&活用アイデア』『クラス会議入門』(以上、明治図書)などがある。

(構成:及川)
関連書籍
2016.11.24 update

 次年度の集団づくり戦略計画の作成はお進みですか。
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 最初の危機を乗り越え、2学期以降の経営が安定するためは、教師と子どもたちの個人的信頼関係を如何に築くかにかかっています。メンバーとの個人的信頼関係の強さが、リーダーの指導力の源泉となります。リーダーとの強い絆が、子ども同士の積極的な協働のエネルギーとなります。技術論だけでは、子どもたちは主体的に行動しないのです。子どもたちのやる気に火を付けるのは、個人的信頼関係の構築にかかっています。

【個人的信頼関係の構築】『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ 小学校編』『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ 中学校編』

 学級はルールから崩れます。また、子どもたちのやる気に満ちた集団は、教師のパフォーマンスでも声の大きさでもなく、ルールの定着度によります。良い学級には、良いルールがあります。そのルールの具体と指導法がギッシリです。

【集団のルールづくり】『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得 小学校編』『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得 中学校編』

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【365日の学級集団づくりに】『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり 1年』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり 2年』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり 3年』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり 4年』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり 5年』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり 6年』

 クラスでは目立った問題が起きないけれども、仲もそれほど悪くないようだけれど
も、授業に活気が感じられない、素直に学習しているけれども、やる気があるように
は見えないというクラスが増えています。そこには、授業者である教師が見落としが
ちな問題
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業を実現する
にはどうしたらいいのでしょうか。そのためのアイディアが満載となっ
ています。

【やる気を引き出す授業づくり】『やる気を引き出す全員参加の授業づくり 協働を生む教師のリーダーシップ 小学校編』『やる気を引き出す全員参加の授業づくり 協働を生む教師のリーダーシップ 中学校編』

 アクティブ・ラーニングは,単なるペアがグループを活用した交流型の学習ではありません。そして,ただ学習内容に深く触れればいいわけではありません。そこには子どもたちの主体的に学び合う姿が必要なのです。子どもたちが,生き生きとかかわりながら学ぶ授業づくりの具体例を豊富に示しました。

【アクティブ・ラーニングの視点による授業改善に】『アクティブ・ラーニングで学び合う授業づくり 小学校編』『アクティブ・ラーニングで学び合う授業づくり 中学校編』

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