すぐれた体育授業を支える微細技術2
集団行動編

根本 正雄 監修/桑原 和彦・TOSS体育サークル リズム太鼓 編著

監修のことば

まえがき

T すぐれた指示・発問の微細技術(冒頭)

U 集団を統率する微細技術(冒頭)

V 集団力を高める微細技術(冒頭)

W 領域別微細技術(冒頭)

X 特別支援教育における微細技術(冒頭)

Y その他の微細技術(冒頭)

あとがき

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監修のことば

微細技術で体育授業の活性化を   /根本 正雄

 2003年2月21日,奈良女子大学文学部附属小学校で第11回日本体育教育技術学会が開かれ,岩井邦男氏が授業をされました。岩井氏は3年生で「豆忍者修業」の授業を展開されました。
 岩井氏の「豆忍者修業」は,子どもが主体的に生き生きと活動していました。体育館いっぱいに繰り広げられた器具・用具は圧巻でした。鉄棒,マット,跳び箱,平均台,梯子,肋木,的当てとすき間なく埋め尽くされていました。
 岩井氏の授業には多くの器具・用具だけでなく,微細技術も活用されていました。器具・用具の準備に8分,後片づけに5分と素早い動きでした。そのために岩井氏は教室で摸造紙に配置図をかき,誰が何を運ぶかを確認していました。体育館で確認するのではなく,教室で確認するという微細技術をされていたのです。
 全員の子どもがめあてを明確に持っていました。めあてに向かい,動きを工夫しオリジナルな技を開発していました。そのために,岩井氏は一人一人の本時のめあてを細かく一覧表にした用紙を持っていました。誰がどんなめあてかを全部把握していたのです。
 それと同時に岩井氏は一人一人に到達させる目標を持っていました。到達目標と子どものめあてをもとに実際の動きを評価しながら指導していたのです。
 場づくりは全て個人差が吸収できるように工夫されていました。鉄棒の高さ,跳び箱の高さと向き,マットの幅等,全ての子どものめあてが達成できるように設定されていたのです。跳び箱を横の4段,5段,6段に設置してあり,その横の跳び箱では開脚跳びがされていました。連続して設置してるのでリズムよく跳べ,しかも高さへの挑戦ができ,自己評価ができました。
 子どもが何度も挑戦したくなるような仕掛けがされ,やらされているのではなく,自ら活動しめあてを達成していました。すべて自己の目標に向かって挑戦できる場になっていたのです。
 教師の一斉指導の場面は少なく,ほとんどが個別指導でした。一人一人に声掛けをしていました。めあてが達成できるように助言し,示範していました。「声掛け」という微細技術で個別指導をしていたのです。
 時には一緒に走り,補助をし,跳んでいました。感心したのは子どもと一緒にマットを回り,梯子をくぐり,平均台を走っていたことでした。子どもと共に動き,子どもと共に友達の動きを観察していました。印象的なのは平均台の上を走る競争を一緒にしていたことです。
 一緒に走ることにより教師の呼吸を感じ,教師の走るリズムを体で感じます。「子どもと一緒に走る」という微細技術で子どもの意欲は高まり,動きは高まりました。微細技術を料理の隠し味のように巧みに活用していたのです。
 授業が成立するには多くの指導技術が必要です。本シリーズでは岩井氏のような体育の微細技術が紹介されています。内容は次のようになっています。
 第1巻 学習指導編  第2巻 集団行動編  第3巻 学習過程編  第4巻 教材・教具編  第5巻 評価編
 必要に応じて微細技術を抽出し,授業に活用していくと,子どもが生き生きと活動していきます。微細技術が潤滑油のように働き,授業が活性化されます。最初に微細技術の内容が紹介されています。そのあと,教材に即して方法や指導の実際が紹介され,発問・指示が授業と同じように示してあります。
 最後に指導の結果が示されていますので,自分の授業との比較もできます。プロの技術からの分析も書かれていますので,微細技術の勘所も分かります。本シリーズを活用し,楽しい体育の授業作りをしていただければ幸いです。
 本シリーズの刊行にあたり,江部満氏には大変お世話になりました。心からお礼もうしあげます。

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まえがき


 なぜ「集団行動」が大切なのでしょうか。
 それは,

 @ 素早く集まるなどの集団行動ができることで,体育の授業をスムーズに,かつ安全に行うことができる。
 A 体育の授業で身につけた集団行動が,他の場面の緊急事態のときに役立つ。

からです。
 つまり,

 集団行動は,学校生活全体をとおしての課題

なのです。
 しかし,集団行動だけを単独に取り出し,「集合!」「気をつけ!」と指導すると,小学校段階では特に授業がつまらなくなります。
 まずは,なぜ素早く集まらなくてはいけないのか,という趣意説明をする必要があります。行動の意味が理解できることの効果は多大です。次に,テンポとリズムのある授業の中で,子ども達をほめ続けながら集団行動を定着させていきます。また,教師は,子ども達全員を見ることができる位置に立つことにも配慮する必要があります。
 本書は,サークルの力を結集し,授業の中で楽しく集団行動を身につけることができる微細技術を30事例紹介しています。これらは,今まで,向山洋一氏の著書や根本正雄氏の著書,『楽しい体育の授業』誌などの書籍,「TOSS体育直伝講座」や「向山型体育入門講座」といった,TOSS(Teacher,s Organization of Skill Sharing:教育技術法則化運動)から学んできたことがベースになっています。
 すぐれた体育の授業を支える一つが集団行動です。集団行動がすぐれている学級では,時間のロスが少なく,豊富な運動量で子ども達が満足します。
 子ども達は,楽しくて運動量がある体育の授業を待っています。本書が少しでもお役に立てれば幸いです。

  2004年9月   TOSS体育サークルリズム太鼓代表 /三沢 博樹

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T すぐれた指示・発問の微細技術(冒頭)

【全学年】
1) 集団行動の趣意説明をする ―なぜ集団行動が大切なのか―


(1) 微細技術の内容

  伴一孝氏は,「集団行動をいやがる人がいますが,集団行動は非常に大切なことです」と言う(*1)。初めに集団行動の趣意説明をし,リズムとテンポのある授業の中で集団行動を定着させていく。

(2) 方法
 @ 集団行動の趣意説明をする。
 A テンポとリズムのある授業の中で,ほめ続けながら集団行動を定着させる。

(3) 指導の実際
 向山洋一著『授業の腕をあげる法則』の中で,1番に取り上げられている原則が「趣意説明」である(*2)。趣意説明の重要性について向山氏は,アメリカで行われた実験結果から次のように述べている(*3)。

 号令(行動だけを示す「窓を開けろ」)と命令(意味と行動を示す「教室をきれいにするために窓を開けなさい」)とどちらが子どもを賢くするか。これを実験したのがアメリカであるんですね。ちょっと実験の方法は違ってますが。等質のグループ小学校1年生ぐらい。片一方は悪いことしたらギューン(と言って,手で押さえるジェスチャー)。それだけ。片一方には,いけないことをしたら,その理由を簡単に言うわけです。みんなに迷惑をかけたでしょ,ギューン。
 1年間やったらどうなったかと言うと,1番変化があったのは知能検査。要するに,号令だけやってたのはバカになっちゃった。意味を言ってた方が利口になった。

 集団行動の趣意説明は,「自分の命を守る」ことを焦点にする。山西浩文氏は,子ども達に次のように説明している(*1)。

 何年か前,九州のある都市でデパートが火災になりました。何百人もの尊い命が犠牲になりました。ところが,デパートのある階では死者は0。ある階では何十人も出ていました。建物の燃え方に差はなかったのです。なぜ,このようなことがおこったのでしょう。それはね,助かった所の階にはデパートの店員さんがいて,買い物に来ていたお客さんを素早く集め,避難する道順を教えたからなのです。きちんと並び,狭い所は2列になったり,広い所は4列になったりしてあわてずその場所から立ち去ることができたのです。一方そのような行動がとれなかった階の人たちは入り口近くに折り重なるようにして何十人も亡くなっていたそうです。警察や消防署,自衛隊の人たちが整列や行進を練習するのは,皆さんや自分自身の命を守るためなのです。皆さんもどんな事故に遭うかわかりません。そのときのためにも,ここできちんと練習しておきましょう。

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U 集団を統率する微細技術(冒頭)

【全学年】
1) 集合のさせ方を工夫する@ ―なぜ集団行動が大切なのか―


(1) 微細技術の内容

  学年始めの体育の授業で,すぐれた「集合の隊形」を教えておくこと,その方法を教師がやり通すことは重要である。
  なぜなら,「集合の隊形」を素早くつくれることで,1年間の体育の授業をスムーズに行うことができ,また学校生活全体での予期せぬ緊急事態に対応することもできるからである。
  「集合の隊形」は,根本正雄氏が提案する「バームクーヘン形」がよい(*1)。子ども達に親しみやすく,分かりやすい。

(2) 方法
 @ 「集合の隊形」をイラストで示す。
 A イラストどおりにやる。
 B ゲームで「集合の隊形」を定着させる。

(3) 指導の実際
@ 「集合の隊形」をイラストで示す
 子ども達に「集合の隊形」をイラストで示すことで,言葉の何倍もの効果がある。イラストは1回作っておけば,その後何度も使え,教師の財産になる。

 集合の隊形を教えます。みなさんは,「バームクーヘン」という食べ物を知っていますか?

 子ども達から,「知ってる」「分からない」などの声が出る。

 丸くてドーナツのようなものもあれば,切ってあるものもあります。

 こう話すと子ども達から,「あー,分かった」などの声が多く出る。ここでスケッチブックに書いたイラストを見せる。

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V 集団力を高める微細技術(冒頭)

【中・高学年】
1) 子ども同士のスキンシップを深める ―体つくり運動「ヒップをねらえ」―


(1) 微細技術の内容

  「ヒップをねらえ」(*1)は,4月の体育の授業開きとして,また子ども同士の人間関係づくりに大変効果的である。
  その主な理由は,@楽しい,A子ども同士のスキンシップがある。からである。いろいろな友達と行うことで仲良くなり,集団力が高められる。

(2) 方法
 @ 男子同士・女子同士の2人組をつくる。
 A 右手同士で相手の手首をつかむ。
 B 手首のつかみ方を個別評定する。
 C 「ヒップをねらえ」を20秒間行う。
 D 2回戦は左手同士で行う。
 E 相手を変えて行う。
 F 今まで一度も2人組になっていない人と2人組をつくって行う。

(3) 指導の実際

 近くの人と,男子同士,女子同士で2人組をつくります。できたら座ります。

 ヒップ(おしり)をタッチし合うので,男女別の2人組にする。

 右手同士を出します。相手の手首をつかみます。握手ではありません。

 初めは,

 @右手同士か A手首をつかんでいるか

を個別評定する。

 左手で相手のおしりをタッチします。20秒間で,多くタッチできた方が勝ちです。

 けが防止のために,以下の注意をする。

 でも,約束が1つあります。先生が「やめ」と言うまで,絶対に手を離してはいけません。なぜだかわかる人?

 転んで危ないからです。

 そのとおり!
 もしタッチされても,「やめ」と言うまで続けます。始め!

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W 領域別微細技術(冒頭)

【全学年】
1) 跳び箱運動の個別指導は全体が見える位置でする ―跳び箱の配置を変えて全員を掌握―


(1) 微細技術の内容

  「向山式跳び箱指導」などの個別指導をしている時,他の跳び箱の子ども達が,危険な技をし始めたり,騒がしくなってはいないだろうか。それは,教師が個別指導の子どもだけに気を取られ,他の子ども達を見ていないところに原因がある。
  跳び箱の配置を少し変えるだけで,全ての跳び箱を掌握することができる。

(2) 方法
 @ 教師の視野にすべての跳び箱が入るように配置する。
 A 紅白玉を使って跳び箱を準備する。

(3) 指導の実際
@ 教師の視野にすべての跳び箱が入るように配置する
 学級の数人に「向山式跳び箱指導」などの個別指導をしている時,他の跳び箱の子ども達が危険な技をし始めたり,騒がしくなる原因は,全ての跳び箱が並行になっていて,全体を見ることができないからである。
 そこで,跳び箱の位置をずらす工夫を加える。
 藤本氏は,以下のように跳び箱を配置した(*1)。

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X 特別支援教育における微細技術(冒頭)

【小学部/小学校低学年も含む】
1) 好きな種目を選ぶ・距離を変える ―選択とハンデをつけたボールリレー―


(1) 微細技術の内容

  知的障害養護学校の場合,個人の能力差がきわめて大きい。50mをまっすぐ思い切り走れる子から,現在では車椅子の児童までと幅広い。その子によってできることとできないことがある。ボールリレーでは,好きな種目を選べばよい。サッカーでもバスケでも好きなもの,得意なもので勝負すればよいのである。さらにレースではどの子も勝てる仕掛けを作る。

(2) 方法
 ※前時までに,それぞれの種目を練習し,好きな種目を決めておく。
 @ 各チームに分かれる(サッカー・バスケ・大玉・小玉の4チーム)
 A チームごとに1回練習する。
 B 1回目のリレーを行う。
 C ハンデをつけ,2回目のリレーを行う。

(3) 指導の実際 (知的障害養護学校での実践)
 まず,各チームに分かれる。ここが肝心である。

 ・余計な指示を出さない
 ・余計な動きをさせない

 各チームに分かれてスタートにつくところで混乱すると,実際のリレーが始まるまで,大変な時間を要することになってしまう。
 すぐに次の活動へ移りたい。準備運動として,初めに体操やダンスをするが,終わったら,すぐにチームごとに並んでしまうようにする。
 特に知的障害のある子ども達は,指示が多ければ多いほど混乱する。集合,移動なども,できるだけ少ない方がよい。
 例えば以下の図のようにする。

(図省略)

 チームに分かれるときのもう1つのポイントである。

 自分の集合場所が一目で分かるようにする。

 各チームのカラーを決め,集合の場所にそれぞれ青・赤・黄・緑のコーンを置いておく。さらに,コーンの上に,小さな画用紙等で,サッカー(バスケ・大玉・小玉)と書いて貼っておくとよい。※画用紙の枠は,それぞれの色で縁取る。

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Y その他の微細技術(冒頭)

【全学年】
1) 学級経営で集団力を高める ―学級の「イベント」が体育授業の集団行動力を高める―


(1) 微細技術の内容

  「とびきり楽しいイベントで子ども達が仲良くなる。」これは向山洋一氏の言葉である。この学級経営が体育授業の集団行動力にも反映する。

(2) 方法
 @ 「楽しいイベント」を仕組む。
 A 子ども達から「教師への通信票」を発行する。
 B 「係り名」を工夫する。

(3) 指導の実際
@ 「楽しいイベント」を仕組む
 向山洋一氏は次のように言う(*1 文責:三沢)。

 学級の仲間はずしをなくす方法は,とびきり楽しいイベントをすることである。楽しいことを計画・実施する中で,子ども達は仲良くなる。

 この「とびきり楽しいイベント」とはどのくらいなのか。向山氏は,著書の中で次のように書いている(*2)。

 「祭」はある種の自由さ,ある種のハメを外したところにこそ魅力がある。学校でやる「イベント」は,「これ学校でやっちゃいけないんじゃないか」というようなことがどこかにあった方がいい。

 前任校の小学校で6年生を担任した時,学級会で「お楽しみ会をやりたい」という提案があった。私は,

 どの学級にも負けないくらい派手なお楽しみ会をやるなら,やってもよい。

と伝えた。
 その結果,次のような教室になった。

(写真省略)

 飾りつけを始める前,子ども達には「こんなにやってもいいの?」という雰囲気があった。しかし,のってくると,グループの垣根もなくなり,男女関係なく全員が協力しながら本当に楽しそうに飾りつけていた。

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あとがき


 体育の授業は,国語や算数といった教室で行う授業よりも,集団を統率する力が必要な教科です。
 教室ならば,子ども達が椅子に座っている状態で授業を進めることができます。しかし,体育の授業では,「集まるのはここ」という,集合の時点から「場を設定」しなくてはいけません。そして,あっちやこっちへと場所を移しながら,集団を統率して授業を進めていく必要があります。また,その際,教科書はありません。国語や算数と違って,教科書を使って授業内容を確認しながら進めていくことがないのです。
 だからこそ,体育の授業の微細技術を,数多く知っている必要があります。教師の知識が乏しければ,指導の選択肢がそれだけ少なくなります。一つでも多くの微細技術を知っていれば,授業の流れの中で,よりよい手立てや指示を瞬時に選ぶことができるのです。
 本書は,体育の授業における微細技術の知識が満載です。ぜひ,若い教師や体育指導の苦手な女教師など,多くの方々に読んでほしいと思っています。
 そして,本書を活用して,「先生,今日の体育楽しかったよ!」「先生,○○ができるようになったよ!」と,子ども達から嬉しい感想が聞かれる体育の授業の手助けとなれれば幸いです。
 本書を執筆するにあたり,TOSS代表の向山洋一氏,TOSS体育中央事務局の根本正雄氏,TOSS(教育技術法則化運動)から改めて多くを学びました。体育指導の先駆者に心より感謝いたします。
 最後に,執筆の機会を与えてくださった根本正雄氏,たびたび励ましの言葉をいただいた明治図書の江部満氏に深く感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

  2004年9月   TOSS茨城代表 /桑原 和彦

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