- 発刊に当たって
- 第1章 理論 子ども生き活き支援ツール
- ―きっとうまくいくよ,移行・連携―
- 1 子ども生き活き支援ツール―学部間の移行・家庭との連携を進めるために―
- 2 支援ツールQ&A
- 本書の使い方
- 第2章 事例 家庭と学校でほめるよチャレンジ日記
- 1 「みずやりがんばるよ」(小)
- 2 ひろがるよ,お手伝いチャレンジ!(小)
- 3 めざせ! 五つ星(中)
- 4 お手伝いパワーUP作戦(高)
- 5 チャレ認教室が楽しみ!(卒業後)
- コメント=失敗しないチャレンジ日記活用法 その2
- 第3章 事例 身の回りのことできるよ支援ツール
- 1 「おそうじビデオ」で楽しくピカピカ!(小)
- 2 個別に応じた健康に関するサポートについて(小)
- 3 「ぼく,一人でお風呂入れるよ!」(小)
- 4 ぐるりん,ピンポーン♪(中)
- コメント=家庭との連携でセルフケアを
- 5 まかせてOKお掃除上手(中)
- 6 点検表を使って自分で準備をしよう(中)
- 7 洗濯物干しのお手伝いにチャレンジ!!(高)
- 8 めざせ!! わすれものゼロ(高)
- コメント=自己管理能力を育むために
- 第4章 事例 自分の思いを伝えられるよ支援ツール
- 1 行き先ボードで「行ってきま〜す!」(小)
- 2 VOCAで伝えると便利(小)
- 3 言葉で伝えよう(中)
- 4 伝えたいこといっぱい!(中)
- 5 僕の話をきいてよ!(高)
- コメント=しっかりと伝わる伝達手段を育むために
- 〈参考資料〉本校の個別の指導計画
- 第5章 事例 余暇を楽しめるよ支援ツール
- 1 「パーラービーズ」でマスコット作り(小)
- 2 一人でカレーライスを作るよ(小)
- 3 クッキングを楽しもう(中)
- コメント=調理の楽しさを〜手伝いと余暇の一石二鳥〜
- 4 一人でできるよ ストレッチ(高)
- 5 僕の腹筋見てください!(高)
- コメント=始めよう余暇活動
- 第6章 事例 働くことにつながるよ支援ツール
- 1 サポートブックがあれば安心(中)
- 2 自分の居場所が分かれば校外実習も安心(高)
- 3 言われてするより進んでやって褒められたい(高)
- 4 お母さん,行って来ます!(高)
- 5 卒業後もチャレンジ!(卒業後)
- コメント=・支援環境を整える協働ツール・サポートブックを作ろう
- 6 デイサービスにおける支援ツール活用の変化
- 7 私,仕事がんばります!
- コメント=学校から働く場へのスムーズな移行のために
- 第7章 事例 授業で主体的に活動できるよ支援ツール
- 1 わたしのあのねノート(小)
- 2 広場を描こう(小)
- 3 かくれんぼであそぼう(小)
- 4 うさぎちゃんの宝さがし(小)
- コメント=支援ツールのありがたさ〜小学部だからこそ〜
- 5 私たちのクッキー屋さん(中)
- 6 買い物の達人(中)
- 7 人形劇をしよう(中)
- 8 英語となかよし!(中)
- コメント=主体的な生きる力を育む授業
- 9 附養オリジナルバスケット(高)
- 10 「始まり」と「終わり」が分かれば大丈夫!(高)
- 11 パソコンと好きなことをしよう(高)
- コメント=主体的な生きる力を育む授業
- 第8章 事例 保護者も作るよ支援ツール
- 1 保護者向け支援ツール作成教室の試み
- 〈参考資料〉支援ツールを作ってみよう,使ってみよう
- コメント=効果のある学校と家庭との連携のために
- CD-ROMについて
- あとがき
発刊に当たって
先回出版された『個性を生かす支援ツール―知的障害のバリアフリーへの挑戦』は大変好評を持って迎えられたようで,毎年2月に開催される富山大学附属養護学校の教育実践研究会には全国から多くの参加者が来られ,支援ツールを核とする当校の実践を自分の目で確かめようという鋭い視線と熱い期待がはっきりと感じられるようになってきた。その後も当校の実践はさらに進化し,今,改めて確かな教育実践の成果と子どもたちの潜在的な力の大きさに目を見張るばかりである。本書では,その成果の一端を「移行・連携」というテーマでお贈りしたい。
今後の特別支援教育では,「個別の教育支援計画」に象徴されるように,これまで以上に就学前をも踏まえた小・中・高の一貫教育と卒業後への発展的な移行を配慮した教育の在り方が強調されている。また,コーディネーターを中心に,それを支える学内外の様々な人や機関との連携と支援体制作りが求められ,保護者の教育への参画もより一層求められている。
これまでも当校では,児童生徒の自立的主体的な生きる力を育み,現在と将来の豊かな生活を実現することを願いとして研究と実践を重ねてきている。今回本書では,支援ツールの活用を軸とした教育的支援の在り方を,小学部から高等部卒業までの一貫した見通しを持ってどのように積み上げ発展すればよいのかといった観点から,これまでの実践を振り返ってまとめることにした。また,当校では,学校での実践が直接日々の日常生活を豊かにするための支援となるように,児童生徒の保護者とともに様々な支援ツールを工夫して,家庭との連携を密にした実践を試みてきた。そこで,前者を移行・連携の縦軸とし,後者を横軸として本書を編むことにした。
ところで,先回の出版のキーワードとなった「知的障害者のバリアフリー」という観点で各地の養護学校の実践を拝見したときに,まだまだこの考え方と配慮が定着しているとは言い難い現状にあると実感させられる。しかし,近年,知的障害養護学校では自閉性障害を持つ児童生徒の教育が課題となっていることから,ほとんどの学校でTEACCHの構造化を中心とした自閉性障害児への配慮が見られるようになってきている。先の『個性を生かす支援ツール―知的障害のバリアフリーへの挑戦』や本書を読まれると,ここでの支援ツールを軸とした実践とTEACCHとどこが違うのかと疑問を持たれる読者も多いかもしれない。しかし注意深く読んでいただければ分かっていただけると思うが,ここで紹介されている支援ツールの活用や環境に向けた配慮や工夫は,自閉性障害を含めた発達障害児一人一人の特性や一つ一つの活動への取り組みの様子を評価し,それを基に導き出された手だてや工夫である。したがって,ここでは,主体的で豊かな日常生活につながる,自閉性障害を含めた全ての発達に遅れを持った児童・生徒一人一人が必要としている支援や配慮の在り方が希求されている。
また本書の第1章では,これまで様々な形で寄せられた“支援ツール”に対する疑問に応えようと,これまでの実践の成果を踏まえて,「環境」(支援環境を整える協働ツール)―「理解」(自発を促す手がかりツール)―「技能」(実行を助ける手がかりツール)―「意欲」(評価の機会を提供する交換記録ツール)という枠組みで新たに整理され定義付けされている。これは,行動分析学の基本的な枠組みと重ねて整理したものであるが,大変分かりやすく,そこからまた新たな発想と可能性が生まれ,実践として導き出されていることが,本書の事例から感じ取っていただけると思う。
本書の最後の章では,「支援ツール作成教室」という保護者との連携をより太く確かなものとする新たな試みが紹介されている。ここでは「保護者向け」となっているが,本書を読まれる現場の先生も含めて,各章の事例で活用されている様々な支援ツールの開発プロセスを知る意味でも全ての方に役立つと思われる。本書の読み方の1つとして,まずここを読むことから始めてみてはいかがだろうか。
最後に,本書を通して,「知的障害のバリアフリー」がこれからの特別支援教育における当たり前の配慮や手だてとなることを願ってやまない。
上越教育大学 /藤原 義博
-
- 明治図書