障害児教育にチャレンジ23個性を生かす支援ツール知的障害のバリアフリーへの挑戦

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全校をあげて「一人一人の教育的ニーズに応じた教育はどうあるべきか」を追究。そこで開発された知的障害児の困難性を克服する具体的な手だてが「支援ツール」である。


復刊時予価: 3,014円(税込)

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電子書籍版: なし

ISBN:
4-18-129908-2
ジャンル:
特別支援教育
刊行:
10刷
対象:
小・中・高
仕様:
A5判 224頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

もくじの詳細表示

発刊に当たって
第1章 理論
豊かな家庭・地域生活を目指す支援ツール
1 まなぶ君のお母さんに相談されて
2 支援ツールでバリアフリーを目指す
3 個性を生かす支援ツールの発想
4 支援ツールで授業が変わる
第2章 コミュニケーション
自分の意思を伝えるぞツール
1 携帯ツールでコミュニケーション
コメント:言葉がなくても伝えられるAACの活用法
2 僕の勉強は自分で決めるよ
コメント:意欲はどこから? *自分でやることの大切さ
3 シンボルカードで僕の気持ちを分かって
4 ぼくこの遊びがしたいよ
5 明日はどこへ行くのかな? お母さんとお話しよう
6 Tちゃんとせと先生のおはなしえほん
7 ボイスレコーダーでトイレチェック
8 T君・保護者・教師のことば・かずノート
9 保健室カードの利用
10 今日はこの歌に決まり!
コメント:コミュニケーションのパラダイム・チェンジ
第3章 見通し
次が分かれば動けるよツール
1 学習環境を分かりやすく
コメント:子どもが自分で分かって動ける「構造化」
2 今日の予定カードで安心
コメント:みんなで分かればこわくない *学校内と家庭の環境の整備
3 朝と帰りの支度は素早くね
4 見通しがもてれば作業はバッチリ!
5 お勉強あとどれくらい?
6 準備は一人で,「いただきます」は一緒に
7 湯飲み茶わん作りは僕にまかせて
8 がんばり表で一人でできたよ
コメント:叱られることはこわ〜いことなり *罰によるストレス
第4章 基本的生活習慣
身の回りのことはこれでばっちりツール
1 私もボタンできるよ
コメント:子どものやる気を育てる手がかりツール(プロンプト)
2 出かけるときは,忘れずに
コメント:本人のための目標とは? *生活スタイル,地域資源,移行
3 トイレでお尻を出さないぞ!
コメント:やる気アップ *おこづかいやごほうびを計画的に利用する方法
4 トイレ掃除いろいろ
コメント:支援ツールづくりのテクニック *課題の組み立て方について
5 印を合わせてベルトを通そう
6 一人でお茶わん洗いできるよ
7 やればできるよ
8 帰りの活動は一人で全部できるよ
9 僕もできたよ
コメント:どうやってつくるの? *普通に暮らしていくために
第5章 余暇
余暇を楽しむぞツール
1 一人でできるよボウリング
コメント:どうやって支援プログラムを考える? *知識,スキル,社会性
2 VTR通信を余暇に
コメント:支援ツールを使うコツ *じょうずな家庭との連携
3 手がかり使ってらくらく演奏
コメント:どうやって実践したらいい? *積極的な行動支援
4 フープとびなわなら一人で運動できるよ!
コメント:豊かな生活は余暇と健康から
5 レンタルショップ・ラビットで借りよう
6 マイ鍋でみそ汁を作ろう
7 簡単にできるよ
8 M君学校へ行こう
9 カラオケでリモコン入力もバッチリ
10 乗り物のお金を選んでみよう
11 運動ビデオで家庭でも運動を
12 バスカードを使うと,乗るバスが分かるよ!
コメント:プラスの結果は嬉しい *ほめること・自分で成果が分かること
第6章 就労
仕事は私におまかせ
1 乾燥機操作チェックリストで仕事は僕におまかせ!
コメント:自立心を育てる *自分で評価することを続ける方法
2 名刺で「よろしくお願いします!」
コメント:QOLを高める社会の実現を目指して
3 できた仕事を,自分でチェック
4 いろいろな支援ツールを使って会社はばっちり
5 仕事はまかせて
コメント:知的障害者の就労支援とジョブコーチ
第7章 継続
やれるぞ錘 チャレンジ日記
1 チャレンジしたい人,みんな集まれ!
2 着替えてハナマル!
3 自分で書くよ!
4 トレーニングカードで家でもチャレンジ!
5 元気の素! チャレ認教室
コメント:失敗しないチャレンジ日記活用法
あとがき

発刊に当たって

 平成12年度より移行が開始された新学習指導要領では,障害児者の自立に向けて自主的・自立的に生きる力をはぐくむことが強調され,従来の「養護・訓練」が「自立活動」に改められ,子どもの重度・重複化に対応してより一人一人の子どもに応じた支援をすべく「個別の指導計画」の作成が義務付けられた。これらの改訂にそって,学校教育現場では様々な実践が展開されていくと思うが,興味・関心をもって自主的・自立的に取り組むことがむずかしい知的障害児に対して,どのような考え方と手だてをもって自主的・自立的に「生きる力」をはぐくむかが重要な課題となる。

 富山大学教育学部附属養護学校では,このような課題に対して平成9年度から『一人一人の教育的ニーズに応じた支援はどうあるべきか』という研究課題に取り組んできた。ここでは,支援を「現在の日常生活と卒業後の生活に生かされてこそ初めて『生きる力』となる」ととらえて,「日常生活に生かされ,維持され,彼らの困難性を改善・克服する配慮や工夫」とはどのようなものか,そのための支援の在り方を考える,というのが研究主題であった。そして,その配慮や工夫の中心となる具体的な手だてが本書で紹介されている「支援ツール」である。

 ところで,近年,ノーマライゼーションの浸透とともに障害児者の「自立」に対する考え方も変わってきている。「障害がどのようなものであれ,適切な環境と援助があれば,人としての可能性は無限に広がり得る」(岡田,1997)という言葉が象徴するように,現在の自立観は,本人の自助努力を求めるだけでなく,一定の環境的配慮と何らかの補助的支援や他者の援助を前提としている。つまり,「技術を駆使した自助具を活用するにしてもしないにしても,他人の援助を受けるにしても受けないにしても,自分の能力に合った生活を自分で選択し,実践すること」(磯部,1984)である。最近では一般にも「バリアフリー」としてこのような考え方が浸透し,社会設備の整備や補助機器の開発など様々な配慮がなされつつあるが,そのほとんどは聴覚・視覚障害者や老齢者を含めた肢体不自由者のためのものである。障害児者の中でもっとも人数が多い知的障害児者のためのバリアフリーについて語られることは少ない。また,知的障害児へのバリアフリーがもっとも進んでいなくてはならない知的障害養護学校でさえ,他の種別の特殊教育諸学校に比べ,これこそ知的障害児のためのバリアフリーだと認められる具体的な環境的配慮や補助的手だてが見当たらないことが多い。

 本書では,副題に『知的障害のバリアフリーへの挑戦』とあるように,現在の障害児者の自立観に基づいて,「子どもが分かって動ける」ための環境的配慮や補助的手だてが豊かな発想を基に具体的に紹介されている。したがって,本書で示された様々な配慮や指導上のアイディアは,最新の研究成果と実践によって裏付けられた,子どもの生きる力を高め,日常生活や地域生活を豊かにするための具体的な手だてである。また,それらは,学校での指導成果を家庭や地域生活や卒業後の社会生活に移行するための必須のプログラムであり移行手段である。

 ところで,富山大学教育学部附属養護学校では,昨年11月に一般家庭に近い施設・設備を備えた日常生活訓練施設『ゆうゆう館』が開設された。この施設は,本書で紹介されている,これまでの実践と研究的取り組みによって培われた知的障害児者のためのバリアフリーのアイディアを取り入れ,学校の授業を通してはぐくまれた生きるための力をここでの施設・設備を生かして,より確実に日常生活に移行し定着させることを目的としたものである。この施設を基にさらにパワーアップした今後の実践的成果を期待していただきたい。

 最後に,それぞれの事例には,そこで用いられた中心となる考え方や手だてについて最新の知見に基づいた解説が付けられている。これをヒントに読者の皆さんがさらに様々な実践的アイディアを生み出し,それをまたご披露くださることを期待している。


   上越教育大学教授 /藤原 義博


<引用文献>

岡田喜篤(1997)『重度・重複障害児者の自立支援』−自立支援に必要な諸要因発達障害研究,19(3),198-207.

磯部真教(1984)「自立生活への道−全身性障害者の挑戦」(仲村優一・板山賢治編)全国社会福祉協議会,29.

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