教育オピニオン
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すべての子どもが楽しめる学級づくり「ボディパーカッション教育」
九州女子短期大学特任教授山田 俊之
2016/9/15 掲載

学級づくりから始まった「ボディパーカッション教育」

 現在、教育現場では若い先生が急激に増えている。これから5〜6年で、全国各地の教職員の約30〜40%近くの先生が入れ替わると言われている。
 また、教師として真面目に取り組んでいるがクラスをうまく運営できず悩んで、深刻な場合は病気休暇や退職に追い込まれる若い先生も驚くほど増えている。
 理由として考えられる事は様々あると考えられるが、私の教職経験、全国各地の教師対象研修会後の懇親等で直接聞いた現状から、次のような理由が考えられる。 

1.担任として学級づくりの具体的方法がわからない
2.子ども同士の人間関係や先生同士の人間関係が難しい
3.発達障害の子どもたちの対応がわからない
4.保護者対応やクレーム対応が上手くいかない

 ボディパーカッション教育も、「1.学級づくりの方法」や「3.発達障害の子どもの対応」の悩みの中から生まれた。「ボディパーカッション教育」は手拍子、足踏み、ひざやおなか等を叩き、友達同士でリズムアンサンブルを作り出し仲間意識を高める。また、児童生徒の表現能力やコミュニケーション能力も高めることができる教育方法である。
 1986年、小学校4年生を担任していた当時、あるキレる男の子をきっかけに学級づくりの一環として、クラス全体で体を叩いてリズムアンサンブルを行ったのが始まりだった。「ボディパーカッション」という名称は、その時名付けた造語であり、誕生した。

「A男が暴れています! 先生早くきて下さい。」

 クラスの女の子が金切り声を上げ、「A男が暴れています! 先生早くきて下さい!」叫んで職員室に入ってきた。小学校4年生の担任になって朝の職員朝礼の時、毎日のようにクラスの子ども達が呼びにきていた。慌てて階段を駆け上がって2階の教室まで全速力でいく。誰か怪我をしていないだろうか、教室の扉を開けるまでは不安で一杯になる。ドアを開けて教室を見渡すと、A男が教室のほぼ中央に立っており、その回りは誰もいない、A男を中心に同心円を描くように遠巻きにみんなが見ている。一人の女の子が教室の隅で泣いており、A男は肩で息をしてまだ興奮状態が続いている。
 「どうした!」と私が聞くと、A男は一点を見つめたまま目に涙を溜めて何も答えない。周りの子ども達にどうしたのか聞いてみると、A男がいつものように急に怒りだして、自分の机や椅子を蹴って倒したりし始めたようだった。少し興奮状態から落ち着くのをみて、A男の肩を抱くようにして「A男、どうしたんだ」と聞いた。A男が「B子ちゃんが消しゴムを貸してくれなかった。」とぽつりと言った。教室の隅で泣いているB子ちゃんに聞いてみると「A男の言ったことがよく聞こえなかった。」と答えた。 
 ある時は、児童が私を慌てて呼びにきたので、急いで教室に行ってみるとA男がいない。どこにいるのだろうと教室を見回すとなんとテレビの上にいる。当時は、画面18インチで木製の頑丈なテレビが教室前方の左側にあり、A男がその上に乗って、押しピンをみんなの方に向かって投げていた。それから、A男のことを何とかしたいと思うようになってきた。

A男の所属感、仲間意識、自尊感情を育てることが学級づくり

 当時は勉強が苦手で運動も苦手な子どもはどこで自分の存在価値を見つけるのだろうと教師として悩んでおり、A男がまさにこれに当てはまる生徒だった。給食準備中の放送で音楽が聞こえてきた。音楽の時間に興味を示さなかったA男が曲に合わせて、手で楽しそうにリズムを取っている。その時、手拍子などを使ってA男も参加できる授業が出来ないかと考えた。
 A男は授業中、注意散漫でなかなか集中して物事を持続できない。すぐに立ち歩きをしようとする。かんしゃくを起こす。今であれば、発達障害の診断を受けることになるだろう。しかし、当時は「ADHD、アスペルガー、LD」などの言葉すら存在していなかった。“すぐにキレる問題児”であった。
 早速、その年の夏休みに手拍子を使ったリズム活動を主体に教材作りを始めた。子どもにとって一番辛いことはクラスの仲間から認めてもらえず、疎外感を味わうことだ。当時、A男がクラスの一員として、心が落ち着き、学級での所属感や仲間意識が持て、自尊感情が高まる良い方法はないかかと考えていた。そして出来上がった自主教材が、ボディパーカッションを取り入れた『山ちゃんの楽しいリズムスクール』である。
 A男が集中できれば他のみんなもできるはず。A男が楽しければみんなも楽しい。A男のクラスで「ボディパーカッション教育」を始めて約半年が経った。この間にA男は落ち着きを取り戻し、他の教科の授業に対しても参加する姿勢を見せてくれる様になった。それは、「ボディパーカッション教育」によって自分が参加できる場が生まれ、まわりの子ども達がA男を認め、A男の自尊感情が高まったからだと感じている。
 米国・社会学者マズローの「欲求の5段階説」に当てはめると、2段階「安全の欲求」⇒「A男の落ち着き」、3段階「所属の欲求」⇒「A男の所属感・仲間意識の高まり」、4段階「承認の欲求」⇒「自尊感情の高まり」になると考えた。特別活動の基本理念にも沿っていると思っている。学級づくりはこのような段階的指導が重要ではないだろうか。

学級づくりのための「ボディパーカッション教育」を体験

 ボディパーカッション教育の具体的な方法論、学級づくりについては、拙著『ボディパーカッション de クラスづくり』『特別支援教育 de ボディパーカッション』をご参照いただけると幸いである。
 同時に、ボディパーカッション教育は実際に体験しないと、その本当の楽しさは伝わらない。最近は、講座や研修会に参加された方々が「こんなに楽しい活動とは思わなかった。」「実際体験してみないとこの楽しさは伝わらない!」とよく言われる。
 より多くの先生方に本の内容を実際に体験していただけるよう、下記のような研究会を発足した。機会があれば是非参加して、ボディパーカッション教育を実際に体験していただきたい。

【学級づくりのための「ボディパーカッション教育研究会」IN東京】
 のご案内

「いつでも手軽にできて、笑顔があふれるボディパーカッション。このボディパーカッション教育方法を使って、子ども達が信頼しあい、安心して参加できる学級を作りませんか。」
1「学級活動・学校行事」を通した児童生徒の望ましい人間関係を目指します。
2 発達障害の児童生徒も安心して参加できる学級を目指します。
3 保護者の信頼を得られる学級づくりを目指します。
第1回 2016年9月10日(土)14時〜17時 会場:東京・成城学園初等学校
第2回 2016年10月16日(日)14時〜17時 会場:東京・成城学園初等学校 
・対 象 全国の教育に携わる方々、教職関係を目指す大学生
・参加費 毎回1,000円(配布資料代、事務局経費)学生は無料(学生証提示)
・内 容 教師として学級づくりがうまくできない等、さまざまな悩みを抱えている先生方へ、少しでも解決できる方法としてボディパーカッション教育を提案したいと思っています。詳しくは、明治図書HP研究会情報をご覧ください。

山田 俊之やまだ としゆき

九州女子短期大学特任教授、九州大学非常勤講師(教職課程「特別活動指導法」)
九州大学大学院人間環境学府後期博士課程教育システム専攻満期退学。
1986年小学校4年生担任の時、学級活動で手拍子、ひざ打ち、おなかを叩くなどの身体活動を、コミュニケーション能力を高める表現教材として開発・考案し「ボディパーカッション」と子ども達と一緒に名付け教育活動を展開する。
その後、全国の教育関係者を対象にボディパーカッション講座を行い、受講した教育、福祉、音楽教育関係者が3万人を超える。
現在、JHP「学校を作る会」、文部科学省(教科調査官)、カンボジア教育省の共同プロジェクトに参加しカンボジア教育支援を行っている。
演奏活動として、N響第一コンサートマスター篠崎史紀氏と共同企画で、「NHK交響楽団とボディパーカッション演奏会」(2001,2004,2006)を開催し、編曲、指揮を務める。
第44回NHK障害福祉賞最優秀、第60回読売教育賞(特別支援教育部門)最優秀
ボディパーカッション教材「花火」が小学校音楽科教科書、「手拍子の花束」が特別支援教育用教科書(文部科学省編集)に採用される。
【主な著書】『ボディパーカッション 入門』(音楽之友社)『ボディパーカッション de クラスづくり』『特別支援教育 de ボディパーカッション』(明治図書)他多数。

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