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PISA成績上位の秘訣とは? シンガポールの教育施策
教育zine編集部中川
2016/12/31 掲載

 今月6日、2015年に行われたOECD 生徒の学習到達度調査(PISA)の結果が公表されました。
 PISAとは、OECDを中心に15歳児を対象に行う国際的な学力調査で、「科学的リテラシー」「読解力」「数学的リテラシー」の3分野を調査します。3年に1度実施し、2015年の調査では72か国・54万人を対象に行われました。日本は、この調査が始まった2000年は好成績を収めたものの、2003年・2006年と連続で結果が奮わず、学力低下やゆとり教育の是非が叫ばれることとなりました。
 
日本は再び読解力が低下!?
 それでは、気になる今回の日本の結果はどのようなものだったのでしょう。前回の2012年調査と比べて、「科学的リテラシー」はOECD加盟国35か国中1位→1位、「読解力」が1位→6位、「数学的リテラシー」が2位→1位という結果でした。全般的に好成績でしたが、読解力の下落には有意な差が見られ、各メディアで「読解力低下」が報じられました。しかし、今回の調査では初めて全面的にコンピュータ使用型調査に移行したため、文部科学省はその影響もあると述べています。また読解力向上に向け、語彙力の強化や、コンピュータ上の文章の読解や情報活用に関する指導を充実させることなどを掲げています。

シンガポールの教育施策
 日本の結果についてはこれまでよく報じられていますが、ここでは今回トップの成績を収めたシンガポールに注目してみたいと思います。シンガポールは2009年から調査に参加し、毎回どの分野も5位以内と、安定して好成績を収めており、今回は3分野すべてで全参加国(72か国・地域)中1位という結果でした。その背景には、どんな取り組みがあるのでしょうか。
 元々小国で資源も限られるシンガポールでは、国の発展のためには人材の育成が不可欠とし、早くから教育に力を注いでいました。その中でも特徴的なのが、2010年に教育省によって定められた「21 世紀型コンピテンシーと生徒のアウトカムに関するフレームワーク」という学力観で、以下のような図によって示されています。

 中央に位置するのが「コアバリュー」で、尊敬・責任・誠実・支援と共感・強靭さと調和といった個人の気質を示し、すべての学びの基本になるとしています。2つ目の円が「社会的・情緒的コンピテンシー」で、自身の管理・社会への関心・関係性の管理・責任ある意思決定・自己認識から構成されるとしています。一番外側の円が「21世紀型スキル」で、市民リテラシー・国際感覚及び異文化スキル・情報及びコミュニケーションスキル・批判的かつ革新的な思考を示しています。そしてその円の外にあるのが、「目指す人材像」で、自信のある個人・自己学習者・活動的な貢献者・良識ある市民になることを目標として掲げています。
 やや複雑に思えますが、目標とすべき人物像、そしてそれを目指すにはどういったスキルが必要か、そのためにはどういった価値観を大事にするかを一目で示しています。

 こうした目標を掲げるのは多くの国でも同様ですが、特筆すべきはそれを実現する教育システムです。シンガポールでは「包括的な教育」をキーに、国の管理の下、上記の学力観がカリキュラム、学力テスト、教員養成システム等に一貫して反映されています。例えばカリキュラムには、理科では「質問を基本としたアプローチ」を取り、生徒自身が実験や推測を深めることが定められています。また数学では「問題解決のために数学を用いること」を重視し、中には授業中に空港に出向き、外貨両替の計算やタクシー乗り場の列に何人並ぶことができるかを考えさせる授業を行う教師もいるそうです。
 加えて、教科学習以外に、「Applied Learning Program(ALP)」と呼ばれ、各学校が企画する、複数教科の知識を結び付けて学ばせる活動も行われており、普段学んでいることを実践的に,より現実に近い場面で活用する場が設けられています。これらの取り組みは、「義務教育修了段階の15 歳児が持っている知識や技能を、実生活の様々な場面でどれだけ活用できるかを見る」というPISAの目的に適うものではないでしょうか。
 教員養成システムも特徴的です。大学の学部教育の一部に組み込まれている日本と異なり、教員を目指すには、大学・短大卒業後、国が管理する教員養成プログラムを受講する必要があります。国が管理することで、上記の学力観を教員志望の学生にも確実に浸透させるとともに、教員の質を一定に保つことが可能と言えるでしょう。プログラム受講の間は学生に給与も支払われるというのですから、教員への投資が大きいことも分かります。

 総じて、国として目指すべき目標があり、それを実現するためのシステムが確立している、その結果、自然とPISAの結果も伴っているというような印象を受けます。

 日本が考えるべきこととは
 シンガポールの例はあくまで一例で、それぞれの国に合った考えや制度があり、これらを真似れば全てが解決するわけではありません。しかしながら、目標とともにそれが実現できる具体的な教育システムを構築すること、PISAの順位に一喜一憂するのではなく、構築したシステムの効果検証の場としてPISAを用いることは、どの国においても大事なのではと思わされます。

 日本では先日、中央教育審議会から新学習指導要領の答申が発表されたばかりです。これからの日本ではどういった人物を育成していくのか、そしてそのためにはどういった能力をはぐくみどのような制度を設けていくのか、注視していきたいと思います。

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