教師なら必ずマスターしたい《指導技術集》
「指導技術」を意識するかしないかで、ここまで変わる!教師なら絶対に身につけておきたい知識や技能を、具体的なエピソードをまじえて紹介。
マスターしたい指導技術集(7)
授業におけるありがちな失敗
京都文教大学准教授大前 暁政
2013/10/31 掲載
  • マスターしたい指導技術集
  • 教師力・仕事術

 授業経験の少ない人が、小学校で授業をすることがあります。
 例えば、新卒教師であったり、教育学部の学生であったりします。
 時には、大学の研究者が、小学生相手に授業をすることもあります。

 仕事柄、授業経験の乏しい人の授業を見る機会が多くなりました。
 
 授業経験のほとんどない人の授業には、ある共通する「ダメな点」があります。
 その「ダメな点」の最たるものは、次です。

プレゼン授業になっている。

 要するに、教師が一方的に説明して終わるわけです。
 「講義型の授業」とでも呼べるしろものです。

 どうして授業の初心者は、プレゼン授業になるのでしょうか。
 様々な理由がありますが、最たる原因は次の三つです。

@思考場面がない。
A説明が長い。
B子どもの実態に合った指導になっていない。

 この三つは、どれも授業にとっては、致命的です。
 しかしながら、これらの共通点は、反面教師として役に立ちます。
 すなわち、このような点がなくなるように注意すれば、授業はずいぶんと良くなるのです。

まずは、「思考場面がない」ということを取り出して考えていきます。

 思考場面がないというのは、子どもに考えさせる場面がないことを意味します。
 思考場面は、例えば、発問や指示で、引き起こすことができます。

 授業の初心者も、いちおう、発問らしきものはしています。
 ところが、それが発問と呼べるレベルにまで達していないのです。
 知っていないと答えられないことを尋ねたり、ただの質問だったりといったものです。
 それに、助走問題をまず出して、だんだん難しい「主発問」に移るといったような原則も、まったく使えていません。
 おそらく、「助走発問から主発問へ」という概念をもっていないので、できないのだろうと思います。単発で発問らしき質問をして、次に進むといった感じの授業になってしまっています。

次に説明が長いこと。

 もちろん、重要な知識は教師が説明することも必要です。ですが、小学生相手に30秒以上説明すると、途中から聞いていないことが多いです。
 写真や絵を提示すれば、説明を省くことができます。 教師が説明するところを子どもに発表させれば、説明を省くことができます。
 説明する代わりに、作業させることで、理解させることだってできます。
「説明」ではなく、「発問→指示→誉める」の繰り返しで、理解させることができます。
 説明というのは、省くことができるのです。
 初心者には、このような「説明を省くことができる」といった概念がないのだと思います。

最後に、子どもの実態に合った指導になっていないこと。

 これはもう授業では、最大級にダメな点です。 
 まずは、発達段階を無視していること。
 そして、レディネスを無視していること。
 さらに、子どもが今どういう理解をしているのかを無視していること。
 
 子どもの理解のことなどほうっておいて、次々と授業を展開するのが、初心者に共通する点です。
 一番まずいのは次の点です。
 今どういう理解を子どもがしているのかを確認していない。 授業では、「子どもはどういう理解をしたと、自分で思っているのか」を、その都度確認しなくてはなりません。
 ノートや発表で確認する場合もあるでしょうし、レベルが高くなると「子どもの表情」でも確認はできます。
 「わからないところや、疑問はないかな」と尋ねるのもよいでしょう。

 初心者がいつまで経っても授業が下手な原因は、「概念がないから」です。
 「授業とは思考場面を用意すべきである」という概念がないから、そもそも思考場面を用意しようとしません。
 思考場面は、発問や指示によって引き起こせるといった概念がないから、いつまでも発問や指示を上達させようとしません。
 助走問題のあとで、主発問をすると、子どもが一生懸命考えるといった概念がないから、できないし、努力もできないのです。

 戦前の師範学校で、大変よい教育方法がありました。
 それは、授業の「原理・原則」をまず知識として学生に教え、その知識を今度は実地授業で、技能として身につけるという授業です。
 つまり、まず、授業の原理原則を、教える側の教師も生徒も、共通理解をしておきます。
 次に、生徒に、その原理原則を知識として教えます。
 最後に、実習で、技能として身につけるまで練習させます。
 今から、120年前の師範学校の授業です。
 100年以上前なのに、こんなに効果的で、新鮮な授業は他にありません。
 授業の原理・原則を、概念として知ろうとしないと、いつまで経っても授業の腕は上がらないのです。

大前 暁政おおまえ あきまさ

昭和52年生まれ。岡山県の公立小学校教諭を経て、京都文教大学の准教授(理科教育)として赴任。理科の授業研究が認められ「ソニー子ども科学教育プログラム」に入賞。著書に、『子どもを自立へ導く学級経営ピラミッド』『プロ教師の「折れない心」の秘密〜悩める教師への50のアドバイス〜』『プロ教師直伝! 授業成功のゴールデンルール』『プロ教師の「子どもを伸ばす」極意―学級&授業づくりマスターBOOK―』『スペシャリスト直伝!板書づくり成功の極意』『スペシャリスト直伝!理科授業成功の極意』(以上、明治図書)、『必ず成功する!授業づくりスタートダッシュ』(学陽書房)、『NHKおじゃる丸 クイズでおじゃる 目指せ小学校クイズ王』(執筆協力、NHK出版)などがある。
著者HP:『大前暁政の教育』

(構成:及川)
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