著者インタビュー
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アクティブ・ラーニングの本質を読み解く
早稲田大学教育・総合科学学術院教授藤井 千春
2016/6/22 掲載

藤井 千春ふじい ちはる

早稲田大学教育・総合科学学術院教授 博士(教育学)。
1958年千葉県生まれ。同志社大学文学部文化学科哲学及び倫理学専攻卒業、筑波大学大学院博士課程教育学研究科修了。大阪府立大学総合科学部助手、茨城大学教育学部助教授などを歴任。専門はジョン・デューイの哲学と教育学。全国各地の小中学校の校内研究に参加して問題解決学習の授業実践を支援している。

―本書では、今、教育界で大きなキーワードとなっている「アクティブ・ラーニング」について、ご解説をいただいています。まず初めに、本書の中でも言及いただいていますが、「アクティブ・ラーニング」をどのように捉えればよいか教えてください。

 アクティブ・ラーニングを全く新しい学習活動の形態と考える必要はないということです。つまり、学習活動を特定の形式にあてはめる指導方法ではないということです。これまで小学校で行われてきた問題解決(的な)学習は、アクティブ・ラーニングであったといえます。その価値に自覚的に、さらに効果があるように取り組むことが必要です。しかし、逆に、単に子どもたちに活動させればよい、グループ活動させればよいのではない点に注意しなければなりません。

―先生は、本書の中で、アクティブ・ラーニングの授業実践に取り組むための3つの要件を示していらっしゃいます。この3つの要件について、あらためて教えてください。

 アクティブ・ラーニングの学習活動として備えるべき3つの要件について、本著では「探究的な学びであること」「協同的な学びであること」「反省的な学びであること」を挙げました。
 このごろ今後の学習活動の在り方について、「主体的に学ぶ・対話的に学ぶ・深く学ぶ」というようにもいわれています。本著で示した3つの要件は、まさにこれに対応します。「探究的な学びであること」とは、自ら課題を設定して自ら課題の達成に向けて問題解決に取り組む学びです。「協同的な学びであること」とは、他者とのコミュニケーションを通じて、お互いの知識や技能などを互恵的に交換しつつ課題を達成していく学びです。「反省的な学びであること」とは、自らの学びを振り返ってその価値を明らかにし、次の学習活動に向けて意欲と自信を高めていく学びです。

―第2章では、「探究的な学び」「協同的な学び」「反省的な学び」について、事例に基づきながらご解説をいただいています。このような学びを行うために、教師にはどのような支援やアプローチが求められるのでしょうか。

 網羅的に知識を並べ立てようとする学習活動ではなく、「主体的に学ぶ・対話的に学ぶ・深く学ぶ」という学習活動が、子どもにとって密度の濃い経験として成り立つような指導・支援が求められます。次の学習指導要領は、「資質・能力」を育成することをめざすものとなります。「資質・能力」はその能力が必要とされる密度の濃い経験を通じて育成されます。小学2年生の生活科の「まちたんけん」でいえば、まちについての多様な知識を得るような学習ではなく、その子どもが興味をもったお店屋さんが1件であったとしても、そのご主人と密度の濃いかかわり合いを通じて、町で「いい大人」とかかわり合って生活している自分という意識が育つような学習経験が大切なのです。

―第3章では、校内研究の在り方について述べられています。今後、校内研究はどのように変わっていけばよいのでしょうか。

 教師たちも「主体的に学ぶ・対話的に学ぶ・深く学ぶ」ような研究が必要です。そのために研究授業では、教師の指導の仕方ではなく、子どもの学習への取り組み方を観察し、その子の「よさ・成長・課題」を見つけるようにします。協議会ではそれぞれが見つけたその子の「よさ・成長・課題」に基づいて、次にどのような指導・支援を行うとそれらがさらに伸びるかについて話し合うようにします。そのように子ども中心・未来志向の校内研究に変えることが必要です。

―最後に、読者の方にメッセージをお願いします。

 教師に向かって「正答」を答えるような授業をしていては、「主体的に学ぶ・対話的に学ぶ・深く学ぶ」ための必要な能力は育ちません。大切なことは、「学ぶ」こと「育つ」こと「生きる」ことなどについて、教師がしっかりとした哲学をもつことです。それらについての教師が自信をもつことによって、他者と共に未来の社会を創造していくことのできる、いわば「生きる力」のある人間を育てることができるのです。本著を教師が自らの哲学を形成するための糧としてください。

(構成:茅野)
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