赤坂真二直伝!主体的・協働的な学びを引き出す教師のリーダーシップ
これから求められる主体的・協働的な学びにおいて教師の役割・とるべきリーダーシップとは
赤坂真二直伝!教師のリーダーシップ(12)
主体的・対話的で深い学びを実体化する教師
上越教育大学教授赤坂 真二
2017/5/20 掲載
  • 赤坂真二直伝!教師のリーダーシップ
  • 学級経営

1 「主体的・対話的で深い学び」の構造

 「アクティブ・ラーニング」については、小中学校において「実践されていた」とか「いや、実践されていなかった」との議論もありましたが、結論から言えば、「実践していた教師もいた」ということではないでしょうか。初等教育になじみの薄いこの言葉を、現実の授業に落とし込むための視点が「主体的な学び」、「対話的な学び」、「深い学び」の三つなのです。「主体的・対話的で深い学び」とは、「アクティブ・ラーニング」を言い換えたものであって、定義が変わったわけではないことを押さえておきたいと思います。
 改めて定義に帰ると、アクティブ・ラーニングは

教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称

のことです。つまり、「主体的・対話的で深い学び」とは子どもたちの能動性を保証した学習であり、それに支えられた学びになります。能動的であるということはどういうことであるかというと、「自ら進んで他へ働きかける」様を言います。
 能動的であるということは、それが即ち、主体的で対話的だと言えます。しかし、定義によれば、単に能動的であればいいということではなく、それをすることによって汎用的能力、つまり、資質・能力を身に付けることをねらっているので、深い学びという表現になっています。ということは、子どもたちの能動性をエネルギーにして深い学びに到達する学習がアクティブ・ラーニングだと捉えることができます。逆に言えば、能動性のない深い学びでは、それはねらいとするところではないと言えるでしょう。つまり、子どもたちが教科等の見方・考え方に基づいた問題解決をしても、それでは資質・能力を身に付けることができないということです。普通に考えれば、教科等で学んだ力を使って問題解決をするのですから、能動性というエネルギーがないとそれはかなり難しい話ではないでしょうか。資質・能力を捉えるときに忘れてはならないこと,それはキャリア形成に方向づけられているということです。教師のきめの細かいお膳立てや指示、時には強制力で問題解決をしていても、それが子どもたちの将来を支える生きる力になるとは考えられません。

2 子どもたちをアクティブにする

 それでは、子どもたちの能動性を高めるにはどうしたらいいでしょうか。能動性の育成に多くの教師が頭を抱えるのは、それが「教える」ものではないからです。「教える」という行為で、もっとも想起しやすいのが直接的な教示です。このときに、教師は能動的になっていますが、同時に子どもたちは受動的になっています。日本の子どもたちが、知識・技能の習得に優れていても学習意欲が低いのは、このような極めて単純な構造があるからです。能動性は直接的な教示によって育つものではありません。引き出すものです。能動性と受動性は、コインの裏表のような関係で、同時に見ることができないのです。教育活動は、「教師が決めたら、子どもたちは決めない」、そして、「教師がやったら子どもたちはやらない」という単純な原理で展開されています。「自分たちでやりなさい」「他と関わりなさい」と言って、自らの意志でそうする子はほとんどいないでしょう。たとえ体は言うことを聞いていても、子どもたちの意志を司っているのは教師です。直接的な教示行為をした瞬間に、子どもたちの能動性は奪われているのです。
 能動性を抑えるも高めるも、それは指導法の問題ではなく、リーダーシップの問題です。リーダーシップは、

集団の目標達成に向けてなされる集団の諸活動に影響を与える過程である

と定義されます(山口裕幸『チームワークの心理学 よりよい集団づくりを目指して』サイエンス社、2008より)。
 簡単に言えば、リーダーシップとは影響力のことです。
 新年度になって校長先生が変わって、学校の雰囲気が変わったという学校も多いことでしょう。仕事をしやすい雰囲気をつくる校長先生もいれば、その逆の方もいます。それは、リーダーシップの問題なのです。子どもたちを能動的にする教師は、能動性を高めるリーダーシップを発揮していることでしょう。では、能動性を高めるリーダーシップとはどのようなものなのでしょうか。主体性については、教師の直接的介入は効果がないということは多くの方がイメージできることでしょう。したがって、本稿では「対話的な学び」を例にして、具体的に述べたいと思います。

3 対話の実現を阻む壁

 対話が可能なクラスには、対等性が求められます。対等性のない関係においては基本的に対話は成り立ちません。最初の壁は、教師と子どもの関係です。教師と子どもの関係性において、対等になったら子どもは言うことを聞かなくなる、という指摘もあります。それを教師の指導性とか権威の確立という言葉で表現することがありますが、基本的にはそれは教師だけの力で実現することはできません。それらが可能になるのは、子どもがそれを承認したときです。つまり、原理的には子どもにそれを認めてもらって教師としての仕事ができるわけです。だから、指導性や権威は人としての対等性の上に成り立ちます。教師が指示をする、それを子どもが聞く、というのは役割の違いです。人として対等であることを肌感覚で理解できる教師が、子ども同士の対等性を保証することができるのです。子どもの上に立ちたい人は、子ども同士の間にも上下関係をつくることになるでしょう。
 対話可能なクラスの二つ目の壁は、子ども同士の対等性です。この壁は結構高いと思います。子どもは圧倒的に、非対等性の関係性のなかで暮らしています。親子関係は、親が相当に意識しないと上下関係になります。民主的な親子関係をつくっている親子もありますが、ここはある程度仕方ないと思います。子どもは無力な存在としてこの世に誕生し、親のケアによって成長するわけですから。だからこそ、対等性を教える装置としての学校があるわけです。子どもたちは、学ばないと対等な関係をつくることができないのです。放っておくと上下関係をつくります。それに慣れていたり、それとは別の関係性を知らなかったりするからです。対等性に関する価値や態度やスキルを学ぶ必要があります。
 現在の教室において、「クラスメートになること」をしっかりと学ばないと子ども同士はそれを体現することはできないでしょう。クラスメートになるには、二重の対等性が必要となります。人としての対等性は勿論ですが、もう一つ、役割の対等性が求められます。これは子どもたちの問題というよりも、教師の問題です。子ども同士の役割関係の対等性は、これも、学ばないとわからないものが多いです。教師との関係性、クラスメートの関係性において対等性を学んだ子どもたちは、外のコミュニティと対等な関係、つまり対話が可能な関係をつくることができるでしょう。そうした身の回りからの積み上げをしていかないと、いくら総合的学習で施設のお年寄りに優しい言動をかけても、うちにいるお年寄りに厳しい態度で接してしまう事例を量産するだろうと思います。もちろん、施設のお年寄りを思いやることを通して、家のお年寄りへの優しさの必要性に気付くこともあるだろうと思います。しかし、それは事例としては少ないことでしょう。地域の人との対話の前に、身近なコミュニティとの対話を、肌感覚まで落とし込んで体験することが大事だと思います。
 最後の壁は、先人、偉人の業績、知見、つまり教材(教科書)との対話の問題です。対話は対等性に基づく営みということは、教科書の内容とも対等に付き合う力が必要です。つまり、教科書を相対化するくらいの能力です。国語の教材の最後の段落を、私ならこう書き換えるとか、算数の解法について、やはり、私ならこうやるけどと主張できる力です。これも教師が言うことが絶対だという雰囲気のなかで教育をしていると、教科書に書いてあることを絶対視してしまう思考停止状態を授業中に創り出すことでしょう。教科書と対話する子どもの育成も、やはり普段の教師のリーダーシップが影響するだろうと考えられます。
 こうした壁に向き合うことなく指導法を工夫したところで、そこで展開されることは、教師の指示に従った受動的な学習ではないでしょうか。

図1

4 教師が能動的学び手になっているか

 長々と私がここまで述べてきたことの本質は、「教師の学びがそうなっているか」という問題提起です。指導があると「○○先生のご指導にあるように」とか「自治体の指導によれば」というような発言を、協議会などで聞くことがあります。今まではそれでよかったかもしれませんが、これからはそれではダメなんだと思います。今ある方針、カリキュラム、つまり「定番」に対して、オルタナティブを主張できるくらいの力がないと、子どもたちを深い学びに導くことは無理でしょう。教師の想定に関係なく、子どもたちは、環境さえ整えばそれを超えた深い学びをすることでしょう。しかし、教師がそれを理解できなかったら、子どもたちの折角の学びを逸脱や誤りとすら捉えてしまうことでしょう。
 「主体的・対話的で深い学び」という文言は,これまで「指導力のある」教師が実現していた授業の姿を言語化したものです。次期学習指導要領は、それを、一部の教師ではなく全ての教師が実践することを求めているのです。これを指導法の改善レベルで捉えると、恐らく悉くうまくいかないことでしょう。教師が本気で自らのリーダーシップに向き合わねばならない時がきているようです。日々、自らの所作、振る舞いが子どもたちの能動性を高めるものになっているかを問うていく必要がありそうです。

赤坂 真二あかさか しんじ

1965年新潟県生まれ。上越教育大学教職大学院教授。学校心理士。「現場の教師を勇気づけたい」と願い、研究会の助言や講演を実施して全国行脚。19年間の小学校勤務では、アドラー心理学的アプローチの学級経営に取り組み、子どものやる気と自信を高める学級づくりについて実証的な研究を進めてきた。2008年4月から、より多くの子どもたちがやる気と元気を持てるようにと、情熱と意欲あふれる教員を育てるために現職に就任する。
主な著書に、『職員室の関係づくりサバイバル うまくやるコツ20選』『保護者を味方にする教師の心得』『スペシャリスト直伝! 主体性とやる気を引き出す学級づくりの極意』『クラスがまとまる! 協働力を高める活動づくり』『教室がアクティブになる学級システム』『アクティブ・ラーニングで学び合う授業づくり』『スペシャリスト直伝!成功する自治的集団を育てる学級づくりの極意』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり』『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ』『やる気を引き出す全員参加の授業づくり 協働を生む教師のリーダーシップ 』『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得』『気になる子を伸ばす指導 成功する教師の考え方とワザ』『思春期の子どもとつながる学級集団づくり』『いじめに強いクラスづくり 予防と治療マニュアル』『スペシャリスト直伝!学級を最高のチームにする極意』『一人残らず笑顔にする学級開き 小学校〜中学校の完全シナリオ』『最高のチームを育てる学級目標 作成マニュアル&活用アイデア』『クラス会議入門』(以上、明治図書)などがある。

(構成:及川)

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