- はじめに /羽仁 協子
- 第一部 環境美
- (A 室内)
- 環境が人間に与える影響
- 教育からみた環境
- 環境美の出発点
- 物や場の機能
- 動きと物・空間
- 家庭のお手本としての園の環境
- 山梨県富士吉田市の保育園の美的環境作り
- 壁面は保育の大切な力
- 壁面の配慮
- 美的な観点
- 壁面の機能の種類
- 安定と変化
- (B 戸外環境)
- 第二部 子どもの発達と遊び
- 1 みる学問
- みる遊び―みていじる遊び
- ―生後4〜5か月まで―
- ―生後6〜9か月頃まで―
- ―お誕生すぎまで―
- ―その後3歳を過ぎるまで―
- ―外遊びの中で―
- 2 口の学問
- ―子どもに見せる大人の口先の遊び―
- 3 きく学問―きく遊び
- ―子どもが出す音・きく音―
- ―大人が出す音・きかせる音―
- 4 空間関係
- ―空間関係の発達―
- ―空間関係の探索遊び―
- ―平衡感覚―
- 5 自分の体・自分を知る学問―
- ―循環反応の遊びの実際―
- ―自分の体の部分・自分の体のりんかくを知る―
- ・乳児期の発達目標
- 6 立つまでの経過とその問題点 /細山 公子
- 7 大人といっしょにする学問
- (1) 遊ばせ遊び・わらべうた・うた
- (2) パントマイム
- (3) 仲間・模倣・ことばの発達
- (4) 環境の学問
- ■口絵写真ページのために
はじめに
みなさんに愛読,活用していただいた「テーマ遊びの本」は1978年にかかれました。この中でも,子どもひとりひとりの遊びが大切であることは強調され,その助け方についても方法論的なものが含まれています。
それから10年たった今日,世の中も大きく変わり,私たちの実践も進歩したものになっています。
この新しい「乳児の遊びの本」の基本には,3歳未満の子どもの成長は,育児と遊びの中でなされ,遊びの中には,その年齢なりに必要な,発育のための諸学問,ないしは学習も含まれているという考え方があります。もうひとつには,遊びを助けることも,学習を助けることも,子どもの全人格の能動化の方向にそって行われるという考え方です。
子どもの全人格の能動化のために,1.環境の美的なあり方,2.子どもの感覚器官,身体機能を中心とした発達の様相,3.多様な遊びの目的にかなった空間の作り方と遊具の選択,4.遊びの方向づけ・接し方についての保母の知識と意識――これら四つの分野が一体となって効果をあらわし,個々の子どもの遊びを発展させ,豊かにします。 1.と3.は遊びをよくする客観的条件であり,2.と4.は遊びを作り出す主観的条件であるといえます。
ひとりひとりの子どもの遊び,ひとつひとつの遊びの展開に心をくだき,こだわることも大切ですが,“木を見て森を見ない”欠点におちいってはなりません。保育室の“床”だけに目をやるのでなく(どう遊んでいるか,どんなおもちゃがあるか,保母がどう動いているか……),壁にも目や心を配り,親と話すだけでなく,受け入れ室の作り方,ふんい気にも,それ相応の工夫,努力を投入しなければなりません。
保育園は,育ちにとって不利な環境の中で育つ子ども,現代の社会的風潮の中で家庭作りの楽しさを身につけていない世代の親たちの対応で,身も心もその忙しさは10年前の少なくとも2倍になっているといえます。もし,私たちが,個々の子どもや親や,遊びや遊び方にバラバラにしか立ち向かえない時,保育という専門職は,きわめて灰色で,問題から問題へと追いまくられていく,無限に人手と時間をくっていく展望のないものとなりがちです。
子どもにも,100%恵まれた素質と環境の中で育つ“バラ色”の子どもがいないように,私たちも,子どもだちとともに,悪条件を克服し,克服する中で自分たちの能力を発達させ,考えを進歩させ,ますます多くのことに気づき,早く,上手に,仕事をこなし,課題を解決できなければなりません。
遊びはつねに,創造性のゆりかごとしてほめたたえられてきました。まず,子どもの遊びを豊かにすることを妨げるどんな困難にも打ちかつほどの私たち自身の創造性を信じることなくして,子どもの発達や遊びについて語ることは,今日のような子育て受難の時代にあって,保育者のぜいたくなお遊びにすぎません。
この新しい本では,以前の「テーマ遊びの本」に比して,保育者による個々の実践例が少なくなっているかもしません。しかし,ここで強調する保母の創造性は,けっして未来の願望ではなく,この本の中に紹介されているすべての具体的な案,遊具の例,遊び方の例は,どれをとっても,現実に職場で働いている保母たちによって生み出されたものばかりです。
保母にとって大切な創造性を身につけさせたり,講習会で教えたりする制度もありませんし,指導者も指導方法もありません。これは,子どもが親や保母からしかよい遊び方を学べないのと同じです。どんな職場も,仕事を愛し,子どもの価値を何よりも高く評価し,同僚の能力をひき出しあえる人々の集まりであることによって,子どもにとっても大人にとっても,創造性のゆりかご,遊びの城でありうると思います。
1989年10月 /羽仁 協子
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- 明治図書