- まえがき
- 第1章 異年齢児保育とは?
- 関係性保育
- 乳児における異年齢児保育
- 幼児における異年齢児保育
- 同年齢クラス編成の問題点
- 脳科学からの異年齢の意味
- 今後の課題
- 第2章 異年齢児保育のアイデアと支援のポイント
- ○あそび○
- ■環境に慣れる
- 1 コーナーあそび
- 2 園内ウォークラリー
- ■ごっこあそび
- 3 お店屋さんごっこ
- 4 買い物ごっこ
- 5 病院ごっこ
- 6 郵便ごっこ
- 7 宝さがしごっこ
- ■水あそび
- 8 プールあそび@
- 9 プールあそびA
- 10 プカプカ舟あそび
- 11 海行き
- ■季節あそび
- 12 春さがしビンゴゲーム
- 13 全身ドロドロ泥んこあそび
- 14 泥んこあそびアラカルト
- 15 焼き芋作り
- ■用具を使ったあそび
- 16 運動あそび
- 17 合同ゲーム(競争)
- 18 知育あそびアラカルト
- 19 器具を使った運動あそび
- ○製作活動○
- 20 こいのぼり
- 21 母の日のプレゼント
- 22 レインコートの部屋飾り
- 23 ステンシルで運動会プログラム
- 24 秋の自然物に親しむ
- 25 クリスマスツリー
- 26 ちぎり絵で「雪だるま」
- 27 節分のオニのお面
- 28 1・2歳児の大きな木
- 29 スケッチ
- ○行 事○
- 30 夏祭り
- 31 運動会@
- 32 運動会A(団技)
- 33 運動会B
- 34 お正月を祝う
- 35 表現会
- 36 発表会
- 37 お楽しみ会(合奏)
- ○生 活○
- 38 乳児クラスの異年齢保育
- 39 自ら気づける環境作り
- 40 魅力ある園庭環境
- 41 みんなで散歩の日
- 42 きゅうしょく
- 43 心身の疲れを癒す(睡眠)
- 44 2,3,4,5歳児の移行期
- 45 お手伝い保育
- ○食 育○
- 46 畑活動
- 47 ケーキ作り
- 48 栄養ボード
- 49 みんなでクッキング
- 50 野菜作り
まえがき
何年か前に,ミュンヘンで行われた保育世界大会に参加しました。その時のテーマが,『幼児期インクルージョン』というものでした。統合されるのではなく,すべての子どもを排除しない,個別のニーズにこたえる学校・社会を作る思想がこの「インクルージョン」です。インクルージョン(inclusion)は英語で,包み込み▽包括▽包摂――などと訳され,最初は,子どもを障害児と健常児を区別しない,子どもを線引きせず,すべて「包み込む」という発想でした。それは,ユネスコが1994年にスペイン・サラマンカで開催した「特別なニーズ教育に関する世界会議」でインクルージョンが世界的に認知されたからです。会議で採択された「サラマンカ宣言」は,特別な教育ニーズを持つ子どもは,そのニーズに見合った教育ができる普通学校にアクセスすべきだとし,「インクルーシブな方向性を持つ学校は,万人のための教育を達成する最も効果的な手段」としました。これは統合教育からインクルージョンへ障害児教育を変化させようというものでした。その後,国連子どもの権利委員会も2006年6月,インクルージョンの推進を求める勧告を日本政府に出しました。
それが,今,世界では,インクルーシブ教育は障害児だけのものではなく,すべての子どものためのものになっています。子どもの世界は,障害があるかどうかだけではなく,様々な点において多様であり,その多様に対してのケアが求められているのです。貧困によって,性によって,中でも個性の成長や人格の発達を犠牲にして教科の成績を優先する現在のカリキュラムによって,今の子どもたちは,軽視され,除外され,差別されています。しかも,生活と遊びを中心に様々な体験を通して発達を援助されなければならない乳幼児期においても,その学校教育をモデルとして構築されているのです。それを,すべての子どもたちのニーズにこたえられるように改革し,再構築することが今,求められています。
すべての子どもたちが,あらゆる個々の違いを超えて,自らの選択と自己決定の機会を持つことができることが必要なのです。それは年齢,レッテルに関わらず,子どもたちの言うべきことに耳を傾け,尊重することを意味します。現在,世界の乳幼児教育を含め,教育界はこのインクルージョン体制づくりに向けて急速に動きつつあります。しかし,この「すべての子どもたち」という概念は,国によって若干違いがあります。アメリカ合衆国では,黒人の公民権問題が発端で白人と黒人の統合を目指すこと,差別をなくすことから障害児と非障害児との統合教育が始まったといわれます。少子化の中で移民を大量に受け入れつつある欧州では,多民族・多文化国家として,他国籍の子どもたちに対して,また世界共通な課題として,貧困によって差別を受けている子どもたちに対して包括していこうということが,公共政策をすすめるうえでのキーワードになっています。
そのような動きの中で,日本はもともと「おなじ」であることへの固執,優劣へのこだわりが強いといわれています。その代表的なものが,生年月日で子ども集団を形成し,その集団に対して同じことを教えるのが平等だと思っていることがあります。年齢は,子どもたちにとって外見から見える「ちがい」です。しかし,その外見的な違いに合わせて集団を構成することが,内面的な「ちがい」を無視していることになってしまっているのです。そして,生年月日ごとに子どもを常に分けて教育することは,個々の違いに対して「おなじ」ことを強要していることになっているのかもしれません。そのもとで教育されてきた子どもたちは,学校教育の中で,いじめや不登校,引きこもりなど,社会から疎外・排除されてきてしまうのです。異年齢子ども集団での保育を考えることは,あらためてソーシャル・インクルージョンをキーワードに,生きやすい社会をつくっていくことにつながるのかもしれません。私たちは,「おなじ」と「ちがい」に社会的なバランスを与え,その力をいかして人間的なつながりのある多様な社会を目指すことが重要だと考えています。
/藤森 平司
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- 明治図書
- 一人っ子の子どもが多く、異年齢での活動の必要性を感じますが、正直怖いのが現状です。どこに視点を定めるべきか、どこにレベルを合わせるべきか。この本を読んで、気持ちがかるくなりました。とても自然な流れで異年齢活動を行う。保育士としての配慮などが細かく書かれており、自分の立場が明確になりました。ありがとうございました。2008/5/18保育ママ