モラルジレンマ授業のすすめ2
モラルジレンマ資料と授業展開 中学校編

モラルジレンマ授業のすすめ2モラルジレンマ資料と授業展開 中学校編

好評30刷

コールバーグ理論に基づき,ジレンマ資料を使う道徳授業の改革を中学1―2―3年の実践資料と展開例を示すことによりすぐ役立つ指針とした。


紙版価格: 1,672円(税込)

送料・代引手数料無料

電子書籍版: なし

ISBN:
4-18-867709-0
ジャンル:
道徳
刊行:
30刷
対象:
中学校
仕様:
B5判 88頁
状態:
在庫あり
出荷:
2024年4月22日

目次

もくじの詳細表示

はじめに
T ジレンマ資料を使うに当たって留意したいこと
(1) 学習環境
(2) 小学校低学年の授業
(3) 小学校中学年以降中学校の授業
(4) 授業の一般的なモデル
1.授業モデル
2.教師の発問
(5) ジレンマ資料について
(6) 利用の留意点とジレンマ資料の内訳
U 取り上げた資料とその出典
1 ジレンマ資料
1年生
@ぼくには言えない
A二つの誕生会
Bぜったい,ひ・み・つ
Cこの子のために
D最後のチケット
Eアルメニア大地震『奇跡の生還』
F勇気ある大学生
Gテレビゲームはダメ!
H「観光」か「規則」か
Iいいじゃない,それくらい!
Jあなたならどうする?
2年生
@手術中止
Aだれの責任ですか
Bどうして認められないの
C優子のジレンマ
D修学旅行の思い出
E銀の燭台
Fヘルガの葛藤
Gほんとうの優しさとは
H最終決定
I班を作ろう
J文通
3年生
@尊厳死
Aママ,酸素切って
B正しいのは俺たちだ
C出場辞退!
D真実を知る者として
E「あゆみの会」存続問題
F正男さんの悩み
G困ってしまった王様
Hドラフト制度
I消えたハーモニー
2 ジレンマ資料の出典
V 授業の展開事例
1年生
授業事例 1 ぼくには言えない
授業事例 2 この子のために
授業事例 3 勇気ある大学生
2年生
授業事例 1 だれの責任ですか
授業事例 2 どうして認められないの
授業事例 3 優子のジレンマ
授業事例 4 銀の燭台
授業事例 5 ヘルガの葛藤
授業事例 6 ほんとうの優しさとは
3年生
授業事例 1 尊厳死
授業事例 2 正しいのは俺たちだ
授業事例 3 出場辞退!
授業事例 4 正男さんの悩み
授業事例 5 困ってしまった王様
付録 中学校学習指導要領

はじめに

 ローレンス・コールバーグが1958年に学位論文で,彼の道徳性認知発達理論をはじめて明らかにして以来,その理論的,実証的研究が,肯定的であれ,否定的であれ,多くの心理学者,教育学者を巻き込んで精力的に展開されてきた。我が国でも17年後の1975年に,神保信一氏と岩佐信道氏によってコールバーグ理論が紹介されている。それが論文,『コールバーグの道徳性の発達に関する6段階説と道徳教育との関連について,明治学院論叢』である。これを契機としたように,我が国の心理学や教育学等の各分野から続々と基礎研究や理論研究がなされたのである。たとえば,『山岸明子,1976,道徳判断の発達,教育心理学研究,24,97-106.』や『内藤俊史,1977,コールバーグの道徳性発達理論,教育心理学研究,15,60-67.』がある。1983年には道徳性心理学に関する研究会設立への呼びかけが大西文行氏を中心になされ,1985年に発足,『日本道徳性心理学研究』第1巻が翌年に発行された。

 1985年はコールバーグ博士の来日があり,記念すべき年である。これを期して教育界からも大きな期待と関心がよせられ,コールバーグ理論を紹介する啓蒙書が次々と出版されたのである。たとえば,佐野安仁氏他の共著になる『道徳教育の基礎(1985年),ミネルヴァ書房』や永野重史氏編になる『道徳性の発達と教育(1985年)』と『道徳性の形成(1987年),いずれも新曜社』をはじめとして,藤田昌士氏の『道徳教育その歴史・現状・課題(1987年),エイデル研究所』や岩佐信道氏の『道徳性の発達と道徳教育(1987年),広池学園出版部』等がある。また,月刊誌の『道徳教育』1月号(明治図書,1986年)においても,特集「コールバーグ理論と道徳授業」が組まれている。

 1987年には急逝されたコールバーグ博士の遺志を継いで,道徳教育の国際会議がモラロジー研究所で開催されたが,これは我が国の道徳教育界においては画期的なことであった。コールバーグ理論はここにおいて,世界の道徳教育の潮流の中でも中心的役割をはたす理論として,その重要性と偉大性が改めて認識されたのである。なおこの国際会議の第2回大会はAME (Association for Moral Education)主催で1990年11月にアメリカ(インジアナ州)のノートルダム大学創立150周年記念事業の一つとして行なわれる。そこでのテーマは「国際社会における価値,権利,責任:新しい千年のための道徳教育」である。私も招喚されて出席する一人であり,参加を楽しみにしている。

 このように,コールバーグ理論への理解と理論を授業に取り入れたいという願望が1980年ごろから徐々に高まってきたのである。しかし,一方では具体的な授業の方途になるとむしろ分かっていない,分からないことだらけという状態でもあった。われわれの研究もこのような時期(1982年ごろ)に希望の光を求めて暗闇の中から出発したのである。ジレンマ授業は兵庫教育大学附属小学校4年2組徳永学級から始まった。当然予想されたことではあるが,授業を進めて行くと,いろいろな障害がつぎつぎと現れ,その度に,それらを一つひとつ乗り越えて行かなくてはならなかった。授業者の問題,道徳性発達の評価に関わる問題,ジレンマ資料の問題,オープンエンドの解釈上の問題,モラル・ディスカッションに関わる問題,1主題2時間授業の実施に関わる問題,授業評価の問題,など書き出すと切りがない。

 その中でもっとも難問であったのが道徳的なジレンマ資料を探してくることであった。資料がないと授業そのものが成立しない。道徳的な認知的葛藤を引き起こすジレンマ資料はこの授業の要である。ジレンマの解決が道徳性を高めるという考えは,コールバーグ理論の中核だからである。しかし,副読本の中に認知的葛藤を引き起こすモラルジレンマを探すことは無理な注文であった。理論を検証し,子どもの道徳性をより高い段階に発達させるためには,道徳的価値に関わる適切なジレンマを子どものために用意しなくてはならないのである。どうしても納得のいくモラルジレンマを自作する必要があった。そのために,われわれは明日の授業を気にしながら,何度となく徹夜し,また自作したジレンマを幾度となく没にしたことであろうか。

 その結果,自作のモラルジレンマ資料は研究の継続とともに少しずつ蓄積され,改良され,われわれの共有財産となった。すでに,これらのいくつかについては,われわれのモラルジレンマ授業に関心のある先生方のために,「中学生を対象としたモラルジレンマ教材と道徳の授業モデル」(荒木,野口,兵庫教育大学研究紀要7,1987年),「道徳教育はこうすればおもしろい―コールバーグ理論とその実践」(荒木編,北大路書房,1988年),「モラルジレンマ資料を用いた小・中学生における道徳の授業実践―ジレンマ資料とその構造,および授業のための指導案―」(学校教育学研究1,荒木他,兵庫教育大学学校教育センター,1989年)において発表している。

 今春,幸いにして明治図書から『ジレンマ資料による道徳授業改革―コールバーグ理論からの提案』を出版する機会に恵まれた。教育理論は実践に結実して,その価値が明らかにされるのであって,机上の空論であってはならない。そのためには,まず活用できるモラルジレンマが手元にあることが不可欠であろう。コールバーグ理論に関心のある現場の先生方に具体的にジレンマ授業に取り組んで頂くためには,ジレンマ資料は勿論のこと,授業を計画し,実施し,評価する指針があると大いに助けとなろう。そこで,本書では,ジレンマ資料を教材としてすぐ活用できるようにするとともに,色々な授業の展開例を添付することで,読者が具体的に授業を設計する上で参考となるように配慮した。このような企画が中学校の道徳教育の充実に,いささかなりとも貢献できることを願っている。また,資料は実際に使われてみて,問題点が洗い出される。資料をよりよいものにして行くために,みなさまの暖かい御叱正をお願いする次第である。

 最後に,本書の企画を計画し,熱心に推進して下さった編集部長の江部満氏,編集長の樋口雅子氏にたいへんお世話になった。心からの感謝の気持ちを申し上げたい。


  1990年4月4日   編著者 /荒木 紀幸

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