- まえがき
- 一 「海のいのち」の教材分析
- 1 この作品をどう読んだか
- 子どもの実態と「海のいのち」/作品の構造(視点・筋・構成・場面)/表現の特質/主題(表現内容)/思想(認識内容)/典型をめざす読み/美と真実
- 2 この教材でどんな力を育てたいか
- 比較(類比・対比)する力/相関(連鎖・連環)的な見方・考え方/関連づけてみる力
- 3 授業をどのように組み立てるか(授業の構想)
- 教授=学習過程(全一七時間)/授業の構想
- 二 「海のいのち」の授業の実際(六年)
- 1 〈はじめの感想〉
- 2 《たしかめよみ》の授業
- 一場面の授業――太一とおとうとクエの関係をつかませる。
- 二場面の授業――おとうを追って与吉じいさに弟子入りする太一の思いの強さと与吉じいさの教えの意味を理解させる。
- 三場面の授業――太一の成長した姿をイメージさせながら、村一番の漁師のイメージと意味を考えさせる。
- 四場面の授業――たくましく成長した太一の姿と、なおもおとうの仇としてのクエを追い求める太一の姿をイメージさせる。
- 五場面の授業――クエを討ちたいけど討たない太一の葛藤を共体験し、クエとおとうを海のいのちだと関連づけた意味を考えさせる。
- 六場面の授業――人と海(自然)との共生関係がお互いの幸福につながることを理解させる。
- 《たしかめよみ》を振り返って
- 3 《まとめよみ》の授業
- 題名「海のいのち」を考える/食物連鎖をとらえる/一つのいのちであると同時に全体のいのちということ/矛盾するおもしろさ――文芸の美/かけがえのないいのち
- 4 〈おわりの感想〉
- 5 〈はじめの感想〉と〈おわりの感想〉を比較し、授業を振り返る
- 6 授業を終えて
- 三 「海のいのち」の授業をめぐって(座談会)
- 1 おとうの死をどうとらえるか
- 2 「海に帰る」とは
- 3 「一即一切」「一切即一」
- 4 典型化について
- 5 美―「海のいのち」におけるドラマ
- 6 だき合わせ発問とは
- 7 朗読はイメージ化、意味づけの後で
- 8 他教科との関連をどう作っていくか
まえがき
最近の教育現場は、多くの教師たちが実感しているとおり、昏迷する文教政策によって、戦後、最低最悪の状態にあります。このままでは、子どもたちの花咲く可能性も芽生えのうちに枯渇せざるを得ない危機にあります。
この現状を打開する唯一の道は、子どもたちに「真の学力」を育てる教育を確立する以外にありません。
私ども文芸教育研究協議会(文芸研)は、創設以来、半世紀にわたる歴史のなかで、子どもたちを〈自己と自己をとりまく世界を変革する主体〉に育てあげるために〈のぞましい人間観・世界観の育成〉をめざして、ひたすら研究と実践を地道につみかさねてきました。
〈ものの見方・考え方〉(認識方法)の関連・系統指導の原理に立って、文芸の授業、作文の指導、読書の指導においては、西郷文芸学の理論と方法をふまえ、また、説明文の指導においては、説得の論法をふまえて、〈ゆたかな、ふかい認識・表現の力〉を育ててきました。
本シリーズ『文芸研の授業』は、私ども文芸研の過去半世紀の歴史の到達点を示す企画といえましょう。本シリーズの各巻とも、これまでの文芸研の全国大会に提出されたレポートを中心にまとめたもので、会内外のきびしい批判検討を経たものであります。
全国大会のレポートは、すべて、各サークルの月例研究会において討議をかさねたものを、年二回の全国規模の二日間にわたる合宿研究会に提出し、厳正、綿密な検討を受けたものを大会分科会に提出します。勿論、分科会においては全国各地より参集された教師のみなさんによって、あらゆる角度から批判と助言を受けます。これらの成果をふまえ次の年度のレポートはさらに一層の研鑚をかさね、かくして一つの教材が多くの仲間たちによってすくなくとも十数年の長期の批判・検討を経たものになります。
本シリーズの各巻の執筆を担当した者は、以上の成果を充分に踏まえて、まとめております。したがって、本シリーズのすべての巻は、執筆者一個人の業績というよりも集団的な所産というべきものであります。
たとえ、すぐれたベテラン教師の教材研究・授業実践といえども個人の力量には限界があります。私どもは、仲間・集団の具体的な力の結集の上に一個人の限界をこえる成果を生み出すことをめざしています。
その意味において、本巻を手にとられた読者諸氏にもぜひきびしい、かつあたたかいご批判とご助言をお寄せいただきたいと願っております。
本シリーズは、文芸、説明文、作文、読書の領域はもちろん総合学習やその他の領域にもわたる実践がまとめられ刊行の予定です。
なお、本シリーズのどの巻も、概念・用語はすべて統一されております。一つの基本的な思想・主張・理論に基づいた実践である以上当然のことでありますが、読者にとっては、どの巻から読みすすめられても、概念・用語などの不統一でとまどわれることはあり得ないと信じます。すべての巻が相互にひびき合い、それぞれの成果を相乗的にせりあげるものになるはずです。
巻末には、執筆者とサークル員、監修の西郷との対談あるいは座談会の形式でいくつかの問題点をひきだし、解説を加えることにしました。参考になれば幸いです。
本シリーズでも、これまでと同様、企画から刊行にいたるまで、編集担当の庄司進氏の献身的な協力をいただきました。紙面を借りて厚くお礼を申し上げます。
二〇〇三年七月 文芸教育研究協議会会長 /西郷 竹彦
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- 明治図書
- 研究授業を行うのに、教材研究に活用しました。自分の読みと違うところもあり、教材を深く読み取ることができました。卒業前の子どもたちとしっかり考えたかったので、とても役に立ちました。2016/3/550代・小学校教員