- 1 向山洋一全集全一〇〇巻刊行へのまえがき
- /向山 洋一
- 2 具体的な上達方法を示してくれたのは、TOSSだけだった
- /佐々木 真吾
- T 研究論文の可否を判別する視点とは 小さな差を次々と与えていくマット運動
- 1 先行研究の優れた整理である
- ◆年間を見通した壁倒立指導の手立て
- 2 「研究論文」の自覚を!
- ◆倒立前転の指導〜達成率九一・四パーセント! 倒立前転成功への補助三つの技
- 3 少林寺拳法と法則化
- ◆段差を活用した側方倒立回転の指導法
- 4 もっと深みが、もっと証拠が必要だ
- ◆ボールのように丸くなったら回れない〜変化のある繰り返しと個別評定で回転加速を身につける──マット運動──
- 5 研究論文は、先行研究との差異を明確に
- ◆マットを使って基礎感覚と基礎技能を高めれば台上前転は誰でもできる
- 6 立派な追試報告である
- ◆後転完成への三つのステップ〜伴一孝実践の追試
- U ボール運動の極意―研究論文審査から見えてくる実践の奥深さ
- 1 中心の主張を明確に
- ◆苦手な男子も女子もみんながシュートの喜びを味わえるサッカー──ハードルサッカーの指導──
- 2 もっと深くしつこく追究すること
- ◆苦手な子の動きが激変するサッカーの授業システム──四年サッカー型ゲーム──
- 3 「実践」の「量」を多く
- ◆インサイドキックを上達させる指示
- 4 もっと、厳密に吟味すべきである
- ◆男子も女子も楽しめるサッカー
- 5 できない子のゲームへの参加
- ◆クラスで一番運動が苦手な子が安心して参加できるためのルール設定──ならびっこキックベースボール──
- 6 優れた実践は、底部に宿る
- ◆ソフトバレーボールのスパイク練習法──ボールを投げ入れる練習方法で──
- 7 仮説と実践との密着を濃く
- ◆ボールゲームにつながる鬼遊び──ボールゲームへの系統性を考える──
- 8 ていねいだがダイナミックさに欠ける
- ◆シュートの技能を指導する授業と指導しない授業では、どのくらい技能差が出るか調査する
- 9 研究は、テーマを具体的にしぼれ
- ◆基礎技能を身につけて試合を行うバスケットボールの授業
- 10 ていねいだがつまらない(と思う)
- ◆視点の固定化でシュートの成功率を高めるバスケットボールの指導
- 11 研究は先行研究を踏まえて
- ◆シュートにこだわり、バスケットボールを楽しくする
- 12 「はじめに」などと書くな
- ◆みんなで楽しく、力いっぱい投げるボール遊び──モンスターキング──
- 13 条件が違うこととの比較を!
- ◆一石二鳥! 壁当てで「投げる力」「受け取る力」をつける
- 14 楽しい授業を!
- ◆「局面の限定」を意識しなければ子どもの力は引き出せない
- 15 研究論文は実証的に
- ◆授業からクラスの運動遊び文化を育てる
- 16 工夫して、子どもの動きを変化させる
- ◆「あれども見えず」を見えるようにする分析カードの威力
- 17 法則化シリーズ「追試論文」を参考に
- ◆みんな楽しく、並びっこティーボール
- 18 メチャブツケ(体育館ルール)
- ◆体育館騒然! コートのないドッジボール(高学年)
- あとがき
- /伴 一孝・椿原 正和・松藤 司
1 向山洋一全集全一〇〇巻刊行へのまえがき
/向山 洋一
向山洋一全集全一〇〇巻が刊行されることになった。
これは、日本の教育界で初めてのことであり、他の分野でもほとんど耳にしない出来事である。
私が、小学校で三十二年間実践したことのすべて、千葉大学、玉川大学で十年余にわたって教えたこと、NHKクイズ面白ゼミナール、進研ゼミ、セシールゼミ、光村、旺文社、正進社、PHP、サンマーク出版、主婦の友社などで発刊した教材群(その多くは、日本一のシェアをとった)などが入っている。
すべての子どもの学力を保障するために、とりわけ発達障がいの子の学力、境界知能の子の学力を保障するために、慶応大学など多くの専門医と協同研究をしてきた成果でもある。
教育技術の法則化運動は、結成して一年で日本一の大きな研究団体となり、二十一世紀にそれをひきついだTOSSは、アクセス一億、一ケ月で七十七ヶ国からのアクセスがあるなど、ギネスものの無料のポータルサイトとなって、多くの教師、父母の方々に情報を提供するようになった。
TOSS学生サークルも全国六十大学に広がり、TOSS保護者の支援サークルも生まれている。
総務省、観光庁、郵便事業会社と全面的に協力した社会貢献活動もすすめてきた。例えば、「調べ学習」として、全国一八一〇自治体すべての「観光読本」(カラー版)を自費で作り、八〇〇余の知事、市、町村長からのメッセージをいただいている。
このような大きな教育運動の中で、多くの方々と出会い仕事を共にしてきた。波多野里望先生、椎川忍総務省局長はじめ、幾多の方々の応援に支えられてきた。
また、こうした活動を普及していく多くの編集者とも出会ってきた。
とりわけ、お世話になったのが、向山洋一全集全一〇〇巻のほぼ全部を創ってくれた江部・樋口編集長である。多くの方々に心から御礼の意を表したい。
この一〇〇巻が完成する時、二〇一一年三月一一日、一〇〇〇年に一度といわれる巨大地震が日本をおそった。
東北地方太平洋岸が壊滅的な被害をうけた。
向山洋一全集全一〇〇巻と共に、この東日本大震災のことも、この全集に含めておきたい。
どこよりもはやく、東日本復興の企画会議を招集し、今回百数十人から寄せられた「復興企画」の中から寄稿をお願いしたものである。
「TOSSの活動、願い、実行力」を具体的に示すものとして、後世に長く伝えられていくことと思う。
2 具体的な上達方法を示してくれたのは、TOSSだけだった
/佐々木 真吾
新卒一年目、向山洋一氏の『教師修業十年』に出会い、一晩で読破する。
その中でも、次の文章が強烈に印象に残った。
彼を受け持って二カ月、学級通信五十号の中に、僕は次のような文を書いた。
「この二カ月有余、このクラスでは、たくさんの人間が変わった。よく耳にもする。〈子どもが変わりました〉と。
誰が一番変わり、誰が一番成長したのだろうか? これだけは自信を持って答えられる。
一番変わり、一番成長したのはぼくだ。教師自身だ。(後略:佐々木)
子どもを教育していく中で、教師自身が成長するという考え方に出会った衝撃。
子どもと真っ向から勝負する向山氏の教師としての姿勢への衝撃。
向山氏の一言、一言から感じられるエネルギーに魅了された。
これから長く続く教師生活の指針となる文章であった。
それは、これまで大学で読んできた難しい言葉ばかりで中身のよく分からない文章、理想的なことは書かれているが、実際にどうしたら良いか分からない文章とは、一線を画すものだった。
そして、直感的に「ウソや綺麗ごとがない」と感じた。
どうして経験も浅く、子どもの理解も浅かった私がそのように感じたのかは分からない。
だが、それから数年経っても、向山氏の文章は新鮮であり、本物の内容であると感じるのだから、直感は正しかったのだ。
私は、すぐに『教師修業十年』を周りの先生方に勧めた。
「絶対、読むべきです」「向山洋一というすごい教師がいます」
今から考えると、一年目の教師がベテランの先生たちに「この先生はすごい」と本を薦めているのだから、失礼というか生意気というか、恥ずかしくなるのだが、向山氏の文章には、それほどのエネルギーがあった。
それからはTOSSの実践を追試し、向山氏の書籍を買い求める日々だった。
下宿先にインターネットをつないでいなかった私は、TOSSデーやセミナーがあることも知らず、教室で実践を続けていた。
中でも、「五色百人一首」との出会いが大きな財産となった。
百人一首をしたこともなかった私にとって、学級で実践することはハードルが高かった。
しかし、エネルギー溢れる三年生を担任し、何か熱中することをさせたいという気持ちが強くなり、始めることにした。
最初は、自分で札を作ろうとした。
読み札と取り札の違いも分からなかった私は、大量に読み札を印刷して画用紙に貼り付けていた。
何日もかかった後で、読み札と取り札が違うことを先生方に教えてもらい挫折した。
そして、研究所から20セット購入。
五色百人一首の本を頼りに始めたのだが、これが子どもたちを夢中にさせた。
読み方も知らず、見よう見まねもできず、読み方を想像しながら始めたのだが、必死さが伝わったのか、子どもたちは文句も言わず、毎日百人一首に熱中した。
保護者からも「百人一首、とてもよいですね」「すごくいいです。何で学校全体でやらないんですかね」と支持された。
帰り支度の時間には、暗唱テストを受ける子どもたちが集まる毎日だった。
「きりぎりす〜」と私が言うと、「なくやしもよのさむしろに〜」と子どもたちが続く。
勉強ができる子も、できない子もできない子も、みんな熱中できたのが五色百人一首であった。
インターネットもつなぎ、TOSSランドを検索し、授業の準備をするようになった。
有益な情報がネットで手に入ることが信じられない思いであった。
TOSSランドで検索した授業も子どもたちに大人気で、授業する私も楽しかった。
三年目の春、区内の研修でTOSSの先生と出会う。
中央事務局の千葉雄二氏である。
サークルに誘っていただき、参加するようになった。
初めてのサークル参加で、年下の先生が電子ボードを使って模擬授業をしていた。
後から聞くと、フラッシュで作った自作のサイトだと言う。
頭をガツーンとやられるような衝撃を受けた。
「これは最先端の場所だ」「必死についていかなければ!」と感じた。
サークルでは、書籍での知識を具体的・実際的に学ぶことができた。
本を読んで「できる」と思っていたことが、「できるつもり」になっただけで、できていないことや、「知ること」と「できること」には隔たりがあるということを知った。
何度も練習して、模擬授業を受け、コメントをもらう。
「どうやったら授業が上手くなるのか」「先輩たちはどうやって、授業の腕を上げてきたのか」
大学や職場では、なかなか知り得ないことをサークルの先生方は惜しげもなく教えてくれた。
授業や学級経営がうまくいかない時には、話を聞いてもらえた。
それもサークルの後の懇親会で、相談にのってもらっていた時である。
いつも楽しい授業を見せてくれる、笑顔の素敵な先生が「私たちだって未熟だから、必死に学ぶんだよ」とにこやかに話していた。
「こんなに熱心で謙虚な先生方がいる所なら、学ぶことも多いはずだ」と、サークルで必死にやってみようと決意した。
サークルの先輩や仲間がいると、努力することが楽しかった。
ずっと授業のことを話していたし、話せる仲間がいることが嬉しかった。
サークルで毎月のように見られる、提案性のある授業、子どもが書いた数十枚の評論文など。
「いつかあんな授業がしたい」と、憧れを抱く場所でもあった。
私がTOSSに魅了されたのは、憧れの先生、目標となる先生がいて、上達方法が具体的に示されていたからである。具体的な教育技術、子ども集団の動かし方、教師修業の方法など、全て現場の子どもたちに通用するものだったからである。
TOSSや向山氏との出会いが、私に「教師」という仕事の素晴らしさを教えてくれた。
-
- 明治図書