- まえがき
- 序章(寄稿) 育成すべき資質・能力を明確にしたカリキュラム・デザイン
- 文部科学省教科調査官 /水戸部 修治
- 1 変化の激しい社会を生きる子どもたち
- 2 資質・能力を明確化した研究の意義
- 3 これからの教育研究,そして授業改善
- 第1章 21世紀を生き抜くための豊かな学び
- 1 附属浜松小学校教育研究の目指すもの−未来を拓き,生きる子ども
- 2 「豊かな学び」とは
- 3 「豊かな学び」を支える3つの資質
- 4 「豊かな学び」を支える4つの力
- 第2章 CAPDサイクルとカリキュラム創造
- 1 CAPDサイクルと学びのプラン
- 2 3つの領域の学びのプランの創造
- 第3章 「文化価値の再構成」を目指す教科領域
- 1 3つの資質と学習意欲
- 2 「豊かな学び」を生み出す単元デザイン
- 3 「豊かな学び」を生み出す授業デザイン
- 4 各教科の特質を生かした豊かな学び
- 国語科
- 「言語感覚」を磨き,「論理的思考力」や「想像力」を高める国語科授業
- 実践事例 1年「楽しく読もう」(おおきなかぶ)
- 実践事例 5年「比べて読もう」(なまえつけてよ)
- 社会科
- 「社会のしくみや特色に対する見方や考え方」を広げる社会科授業
- 実践事例 3年「店のひみつをさぐろう」(店ではたらく人)
- 算数科
- 「数量や図形についての感覚」を養ったり「数学的な考え方」の楽しさを味わったりする算数科授業
- 実践事例 4年「がい数ちょうさたい」(がい数)
- 実践事例 5年「つくろう図形パズル」(合同な図形)
- 理科
- 「科学的な見方や考え方」を養い,学びを日常生活に生かすことのできる理科授業
- 実践事例 4年「空気や水をおしちぢめたら」
- 音楽科
- 「音楽に対する感性」を養い,思いをもって表現する音楽科の授業
- 実践事例 3年「拍の流れにのろう」(ゆかいな木きん)
- 図画工作科
- 「色や形,構成にかかわる感覚」を磨き,柔らかな感性を育てる図画工作科授業
- 実践事例 2年「線と,音と,気持ちと〜クレーの天使から〜」
- 家庭科
- 「よりよい家庭生活のための見方や考え方」を広げる家庭科授業
- 実践事例 6年「いためておいしく!」
- 体育科
- 「運動がもつ楽しさ」を体得し,運動に親しむ態度を育む体育科授業
- 実践事例 2年「どっちが早い?」(キックベースボール)
- 第4章 「生き方の形成」を目指す総合領域
- 1 総合で目指す学び
- 2 総合領域の中の生活科
- 3 総合領域における豊かな学び
- 生活科
- 繰り返し身近な対象とかかわり,「対象や自分自身への気づき」を深める生活科授業
- 実践事例 1年「おおきくなあれ わたしのあさがお」
- 総合
- 「新たな価値感」や「自己のよさや可能性」を広げ,地域や社会とのかかわり方や自己の生き方を探る総合の授業
- 実践事例 6年「GOOD JOB!〜ステージT働くことについて考えよう〜」
- 第5章 「社会性の形成」を目指す生活創造領域
- 1 3つの資質と4つの付けたい力
- 2 生活創造で高めるコミュニケーション能力,人間関係調整能力,役割取得能力
- 3 生活創造の内容
- 4 生活創造年間プランの創造
- 5 年間X期に分けた生活創造年間プランの見直し
- コラム
- 「今日の授業は保健の先生と一緒に勉強します」
- 「授業を通して見える子どもの姿」
- あとがき
- 研究のあゆみ
- 研究同人
まえがき
「教育は,子どもの未来を創造する」というフレーズは,もはや使い古された過去のものなのかもしれません。しかしながら,このことを現実化するための探求心は,少なくとも教育に携わる者にとって常に心の中に留め置く必要があると思います。そうした思いを胸にしつつ,「子どもの未来の創造」を持続的に探究してきた私たちの成果について,読者の皆様と議論をするためのテクストを出版するに至ったことは,何にも替えがたい喜びです。
本校のテーマである「未来を拓き,生きる子どもを育てるカリキュラム」設定の背景には,ある程度予想される社会的な問題に対して,応急手当として活用しうる幅広い知識や技術の獲得を目指した,いわゆる「知識の量」の増加とその獲得を重視したこれまでの教育への反省から,予測不能で常に変化を続ける社会に柔軟に対応しうる新たな知識の創出,すなわち「知識や価値を創造する資質や能力」こそが,今後の教育で培われるべきであるという前提があります。
そのためには,未来に向け,自分をしっかりと見つめ,主体的に生きていくとともに,事象とふれ合ったり,かかわり合ったりしながら,未来を切り拓く資質や能力を備えた子どもを育てることが必要となってくるでしょう。さらには,他者と協調しながらも自律的な社会生活を送っていくことができる実践的な力,またどのような場面あるいは状況においても自分で課題を見つけ,自ら考え,解決していく資質や能力が求められるようになると考えます。
以上の想定の中で,本校においては,具体的に育てる「資質や能力」を抽出するとともに,その「資質や能力」を発揮せざるを得ない状況での実践から,子どもたちは,学習内容を日常生活に生かしたり,他の場面で活用したりするなど,「豊かな学び」をする子どもの姿を見せてくれるようになったことは,大きな成果として特筆できるでしょう。
体験とそこから生まれる追究の姿を見つめたカリキュラムとその在り方の探求は,本校の研究において通底する考え方と言えます。その中でもこの5年間は,「未来を拓き,生きる子ども」を育むために,まず子どもに豊かな学びを保証するためのプラン創造から始めました。その後,@先のプランの一つである「生活創造の学びのプラン」の創造と単元や授業における評価の方法論についての検証,A子どもが学びを活発に行い,それが連続的に繰り返されることで,学びを豊かにしていくカリキュラムの創造と未来の社会を生き抜くための子どもを育てるという目標のもと,教科・総合における子どもの姿やカリキュラムの在り方を再考した上で実践,というように展開させてきました。その結果,教科の学びにおける文化価値の再構成を目指した課題設定,見通しの共有,学びを確かにするための振り返りの方策の必要性が明らかにされました。
詳細の内容は本書の各章に譲りますが,ここに至るまで,常に研究・創造したカリキュラムの成果は,子どもの変容という事実に照らして考察・検証してきました。またこの間の成果は,当校において毎年開催している教育研究発表会の場において公開発表することで,多くの参加者の方々から様々な評価を得ることができたと自負しております。さらに今回はこうした「場」を公刊物とすることによって,より多くの方々から多方面にわたるご意見がいただけるものと確信しております。
以上のことから,本研究の成果について本書には,子どもたちの学び合いの姿を中心に,子どもたちが「学び」を豊かにしていくプロセスやその条件が示されています。こうした成果が,教育実践研究の今後の進展の一助となることができれば,これに勝る喜びはありません。
最後になりましたが,本校の教職員と共に研究を進め,貴重な助言をいただきました多くの先生方に心よりお礼を申し上げます。
平成28年5月 校長 /新保 淳
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- 明治図書