- まえがき
- 第一章 教師として独り立ちするためにしてきたこと
- 一 「書く」教師
- 二 「読む」「聴く」「対話する」「楽しむ」教師
- 三 「つながる」「越境する」「交流する」教師
- 四 「町医者」としての教師
- 第二章 「書く」教師
- エピソード 1 「山下達郎『クリスマス・イブ』の秘密」〜最初の原稿
- エピソード 2 本の原稿に穴をあける〜「言葉遊び」の授業
- エピソード 3 『教師のためのパソコン・ワープロ通信入門』〜最初の書籍執筆
- エピソード 4 児童文学評論を書く〜『日本児童文学』
- エピソード 5 大学時代から書きつづける〜「個人通信」一三〇〇号
- エピソード 6 新卒時代から書きつづける〜日刊の学級通信
- エピソード 7 職員へ配付する自己研修通信
- エピソード 8 講座資料をつくること
- エピソード 9 「学びのしかけプロジェクト」メールマガジンの編集
- エピソード 10 毎日更新するブログ
- エピソード 11 「共著」へのこだわり
- エピソード 12 登山ガイド執筆から学んだ俯瞰する力
- 第三章 「読む」教師
- エピソード 13 村上春樹『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』
- エピソード 14 加藤多一『白いエプロン白いヤギ』
- エピソード 15 福井達雨『嫌われ・恐がられ・いやがられて』
- エピソード 16 大村はま『授業を創る』
- エピソード 17 上條晴夫『見たこと作文でふしぎ発見』
- エピソード 18 教室に置きたい本二冊〜『小さな巨人の肖像』『わたしの愛する孤独』
- エピソード 19 『最高のクラスのつくり方』埼玉県狭山市立堀兼小学校6年1組、岩瀬直樹・荻上由紀子
- エピソード 20 斉藤道雄『悩む力 べてるの家の人々』
- エピソード 21 シャーロット・ゾロトフ『いつかはきっと SOMEDAY』
- 第四章 「聴く」教師
- エピソード 22 オリジナルコンフィデンス誌の週間一位
- エピソード 23 コンサートに足を運ぶ
- エピソード 24 プリンセスプリンセスM”
- エピソード 25 嘉門達夫鼻から牛乳”
- エピソード 26 JUDY AND MARYのこと
- エピソード 27 矢井田瞳の孤独
- エピソード 28 Mr. childrenからBump of Chickenへ
- エピソード 29 キャリアを捨てる勇気〜大江千里
- エピソード 30 若き日のウラディミール・アシュケナージ
- エピソード 31 協奏曲と弦楽四重奏曲と
- エピソード 32 君が代のすべて
- 第五章 「対話する」教師
- エピソード 33 野鳥観察クラブ
- エピソード 34 衝撃の新卒時代〜校歌の伴奏づくり、キャッシュカード持参の修学旅行
- エピソード 35 大規模校への転勤〜陸上競技大会、修学旅行、不登校生徒
- エピソード 36 ディベートで研究授業
- エピソード 37 上手な叱られ方
- エピソード 38 頑張りすぎないこと、休むこと
- エピソード 39 職員室を「対話」の場所に
- エピソード 40 校長不在の職場で〜帯広三条高吹奏楽部、中高一貫教育、特別支援教育コーディネーター
- エピソード 41 学期ごとの個人面談実施
- エピソード 42 「教えやすさ」と「学びやすさ」
- エピソード 43 育児休暇取得からの学び
- 第六章 「楽しむ」教師
- エピソード 44 ハードロックバンドのヴォーカル
- エピソード 45 石川塾
- エピソード 46 生徒会顧問として〜ジャージファッションショーなど
- エピソード 47 折れない折り鶴
- エピソード 48 美術館ツアー
- エピソード 49 部活動顧問として〜「卓球部」「吹奏楽部」「パソコン部」
- エピソード 50 メディアリテラシー〜NHKで全国放送
- エピソード 51 フィールドワーク〜好奇心の持ち方
- エピソード 52 預言者と呼ばれた総合的な学習の時間
- エピソード 53 教職員全員でワックスがけ
- エピソード 54 写真家小寺卓矢さんとの協同作業
- エピソード 55 全員で創る舞台、全員で創る教室展示
- エピソード 56 教室レイアウト、絵本の読みあい
- エピソード 57 自己選択・自己調整、勉強法のデザイン
- エピソード 58 誕生日休暇
- 第七章 「つながる」教師
- エピソード 59 教育サークルのこと
- エピソード 60 保育所での読み聞かせから広がる縁
- エピソード 61 大学の実地指導講師体験
- エピソード 62 「授業づくりネットワーク」のこと
- エピソード 63 「Weフォーラム」「D―net」のこと
- エピソード 64 「研究集団ことのは」「でき学セミナー」「教師力BRUSH-UPセミナー」のこと
- エピソード 65 「十勝国語サークル」のこと
- エピソード 66 「補食問題」からインクルージョンを考える
- 第八章 「越境する」教師
- エピソード 67 「北海道国語教育研究大会」での授業・提言
- エピソード 68 「北海道子どもの本のつどい」の楽しみ
- エピソード 69 学校で映画会
- エピソード 70 地域サークルに参加する〜「木札百人一首」「ミニバレー」
- エピソード 71 突哨山のカタクリ保全運動、登山学習
- エピソード 72 「合唱団キレンジャク」の事務局仕事
- エピソード 73 映画自主興行の楽しみ〜「無法松の一生」「旭川映画村」「どんぐりの家」
- エピソード 74 学校図書館に人を置くことを巡るトラブル
- エピソード 75 画家盛本学史さんとの出会い
- 第九章 「交流する」教師
- エピソード 76 持ち上がれないかも……学級公開の転機
- エピソード 77 自主公開研修会の実施
- エピソード 78 研修旅費の執行は自己プロデュース
- エピソード 79 新しい形の研修会づくり〜教室レイアウトを見せ合う研修
- エピソード 80 校内サークルづくり、校内研修づくり
- エピソード 81 田舎教師として生きること
- 第一〇章 提案!「町医者」理論
- 一 町医者に救われた私
- 二 「名人モデル」の行き詰まり
- 三 今こそ「町医者」を目指そう
- あとがき
まえがき
数年前に、今求められる教師力とは何かということで、原稿を書いてほしいという依頼がありました。その時私が書いたことは、教師力とは「指導力」と「感化力」の総和であるという説明でした。今考えると、この説明は、さすがに大雑把過ぎるようです。そもそも「教師力」とは何でしょう? 中教審の答申などを読むと、「教職に対する強い情熱」「教育の専門家としての確かな力量」「総合的な人間力」というあたりになるのでしょうか。しかし、その中身は、見る角度や考え方によって大きく変わるものだと考えます。例えば、教師と生徒との関わりという視点からいけば、教師力は観察力、指導力、訴求力などの総和になるでしょうか。教室マネージメントの発想でいけば、段取り力、協同力、発信力、説明力、スルー力など……。教師として成長していくために、ということなら、模倣力、対話力、省察力などでしょうか。他にも、想像する力と創造する力、考える力、続ける力、つながる力、リセットする力、もうたくさんの力の集積が、教師に求められる力と言えるでしょう。初任のころ知りあった仲良しの先生は、ひどい荒れの中にいましたが、初任研で、教師に必要な力とはなんだと思いますか、と指導主事に聞かれて「逃げ足」と答えていました。一瞬主事はいやな顔をしましたが、初任者からは思わず笑い声がもれました。あれはまぎれもない共感の笑いでした。いずれにしても、これほどたくさんの力を、身のうちに持っていると言い切れる教師はほとんどいないでしょう。
いまや教師は何でもかんでもできることを求められています。でも、私達は教壇を離れれば(いや教壇に立っている時も)スーパーマンでもなんでもない普通の人なわけです。実際には少しずつの得意をみんなで持ち寄りながら、協同で教育活動を進めていけることが、一番大切な教師力と言えるでしょうか。
本書では、私の二〇数年の教師生活を支えてきた方法や発想を、エピソードをもとに紹介していこうと考えました。そこから、私が身につけてきた(身につけられなかった)様々なことがどのように形成されていったか、イメージをふくらませていただけるといいなあと考えています。教師に限らず、学び方は一人ひとり様々です。ですから、誰かの学び方をモデルにして後追いすることが、クリエイティブな行為であるとは思えません。
かつて、藤岡信勝さんは授業記録を「再現可能性」「伝達可能性」という二つの言葉で説明しました。八十年代以降の指導技術論は重要でしたが、追試できる「再現性」を重視するあまり、実践(生き方)の魅力を伝えるという意味での「伝達可能性」を軽視してしまったと、私は考えています。同様に、教師の学び方についても、技術主義を前提に、それを身につけるための努力主義と根性主義、そして修業主義、それらにつながる自己責任主義が横溢してしまいました。本来教師の学び方も育ち方も多様です。また、多様でなければ豊かな学校教育は生まれてこないものと考えます。教師の学び方をデフォルメしたモデルを示して、再現しやすさを追究するのではなく、細部はよくわからないけれど、おもしろそう、楽しそうだと思えるエピソードを、今こそ先輩教師は丁寧に語っていく必要があるだろうと、そう考えました。そのために用意した柱は「書く」「読む」「聴く」「対話する」「楽しむ」「つながる」「越境する」「交流する」です。
私は用意周到に学びを積み上げてきたのでもなく、新卒の頃から華々しい輝きを示したわけでもない、普通の教師です。そんな私が、どんな道筋を辿ってきたか柱立てをし、いくつかのエピソード紹介をしていくなんて何だか恥ずかしいです。でも、日々に苦しむ先生方が、自分の「学び方」を考えたり振り返ったりすることに役立つかも知れない、そんな風に思って、この本の執筆を引き受けました。
平成二五年二月 /石川 晋
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- 明治図書
- すぐに役立つわけではないけれど、ゆっくりと染み込む内容。2017/11/330代・小学校教員
- 石川先生の実践の基底にある考えやおもいが書かれていた。2016/6/1020代社会科教員