- はじめに
- T章 生徒指導への構えと重点
- 1 生徒指導への構え
- 2 生徒指導を進める際の重点
- U章 生徒指導への取り組みの基礎・基本
- §1 児童と学級集団の理解〈児童理解〉
- 1 観察法によって
- 2 面接法によって
- 3 質問紙調査法によって
- 4 保護者からの情報収集
- 5 前担任からの情報収集
- §2 児童と学級集団の理解〈学級集団の理解〉
- 1 観察法による学級集団の理解
- 2 質問紙法による学級集団の理解
- 3 多様な教師からの情報収集による学級集団の理解
- §3 集団づくり,学級づくり
- 1 基本的な生活習慣づくり
- 2 学習規律づくりの指導
- 3 集団規律づくり
- 4 人間関係づくり
- §4 授業で行う生徒指導
- 1 教科学習での生徒指導
- 2 道徳での生徒指導
- 3 総合的な学習の時間での生徒指導
- 4 学級会での生徒指導
- 5 学級活動(2)での生徒指導
- 6 児童会活動での生徒指導
- 7 学校行事での生徒指導
- §5 問題行動の早期発見・早期解消―こんなときどうする
- 1 けんかの対応
- 2 いじめ問題の対応
- 3 暴力問題への対応
- 4 不登校への対応
- 5 携帯等をめぐる問題への対応
- 6 虐待への対応
- 7 万引きへの対応
- 8 金銭トラブルへの対応
- 9 特別な支援を要する子ども達を取り巻く問題への対応
- 10 性的なトラブルへの対応
- 11 家出への対応
- V章 生徒指導の知っておきたいミニマム
- §1 校内での組織的な対応
- 1 学年・学年主任とともに
- 2 生徒指導部とともに
- 3 管理職とともに
- §2 家庭との連携
- 1 家庭訪問
- 2 学級だより・学級懇談会
- 3 個別面談
- §3 地域との連携
- 1 近隣の幼稚園,保育所,小学校,中学校などとの連携
- 2 警察との連携
- 3 児童相談所との連携
- 4 民生委員との連携
- 5 スクールカウンセラーとの連携
- 6 学童保育との連携
はじめに
都市化や少子化,情報化が進展する中で,社会全体で様々な課題が生じ,規範意識や倫理観の低下によると考えられる児童の問題行動が多発するなど,学校の状況はますます深刻になりつつあります。このような状況を踏まえて文部科学省は,生徒指導の理論・考え方や実際の指導方法等について,教員間や学校間で共通理解を図り,組織的・体系的な生徒指導ができるようにすることをねらい,平成22年3月に「生徒指導提要」を作成,公表しました。
学習指導要領に規定されているように,生徒指導は,一人一人の児童生徒の人格を尊重し,個性の伸長を図りながら,社会的資質や行動力を高めるために指導,援助をするものです。また,学校が教育目標を達成するための重要な機能の一つであり,児童生徒の人格の形成を図る上で,大きな役割を担っています。
だからこそ,時代の変化にも対応しながら,学校の段階に応じた生徒指導を進めていくことが求められているのです。とりわけ,学級担任制をとっている小学校段階においては,学級担任の役割が極めて重要であり,生徒指導を効果的に進めるための「学級経営の充実」を図ることが欠かせません。たとえば,学級担任には,児童の実態を正しく把握するとともに,学校・学級経営を踏まえて調和のとれた目標を設定し,実態に即した効果的な指導の方向及び内容を見定める必要があります。それを学級経営案としてまとめ,学級の経営の全体的な構想を立てるとともに,一人一人に即して適切にかかわるなど,その指導に計画的に取り組むことが求められるのです。
生徒指導を行う上で最も重要なことは,なんといっても学級の子ども達一人一人の実態を把握することです。子ども達はそれぞれ違った能力や適性,興味をもっています。学級担任は日常的にきめ細やかに観察を行い,面接など適切な方法を用いて児童理解のための資料を集め,子ども達一人一人を客観的かつ総合的に理解することが必要です。日ごろから,子ども達の気持ちを理解しようとしたり,愛情をもって接したりすることが,子ども達との信頼関係を築く上でも極めて重要になってきます。また,学級を一人一人の子どもにとって所属感がもてる場,やりがいのある場としてつくり上げていくことも大切なことです。
その基盤として必要なのが,子ども達の規範意識の育成や集団の規律の確立です。具体的には,相手の身になって考えたり,相手のよさを見付けようと努めたりすることができる学級,お互いに協力し合い,自分の力を学級全体のために役立てようとする学級,支持的風土がある学級などをつくっていくことが大切です。このような学級の中で,適切に自己決定の場を与え,その時その時で何が正しいのかを自ら判断させ,責任をもって学習や生活ができるような力を育てていくのです。集団の一員として,一人一人の子どもが安心して自分の力を発揮できるように,心が安定する集団や人間関係を築き,安全や人権が脅かされることがないよう,毅然とした態度で正面から子ども達に向き合うことも必要なことです。
教科等の学習場面においては,個に応じて適切な指導ができるように指導方法の改善を図り,子ども達がつまずきやすい内容をはじめ基礎的・基本的な知識・技能を確実に身に付けられるようにすることが求められます。その際「分かる喜び」を味わうことにより,学習意欲を高めることが重要です。また,家庭学習も含めた学習習慣の確立とともに,観察・実験やレポートの作成など知識・技能の活用を図る学習活動の充実や,勤労観・職業観を育てるためのキャリア教育などを通じて,学ぶ意義を実感できるようにすることも大切なことです。
このような生徒指導は,全教職員が共通理解を図り,学校全体として進めなければなりません。校長や副校長,教頭の指導の下,学級担任は学年の教師や生徒指導主任,さらには養護教諭や栄養教諭,学校栄養職員など他の教職員とも連携を図りながら学級経営を進めることが大切です。充実した学級経営を進めるに当たっては,家庭と地域社会との連携を密にすることも欠かせません。特に保護者との間では,学級通信や保護者会,家庭訪問などによる相互の交流を通して,児童理解,児童に対する指導の在り方について共通理解が図れるようにしておく必要があるのです。
文部科学省が作成した生徒指導提要には,様々な視点から多岐にわたる内容が示されました。本書は,これらの中から,特に小学校学級担任が行わなければならない生徒指導に視点を当て,優先的に取り組むべき内容に厳選し,子ども達の健全な育成のために何をすべきか,各種の問題行動の早期発見,早期解消のための土壌づくりや様々なトラブルの未然防止のために何をすべきか,実際に問題が生じた際の適切な初期対応をどのようにしたらよいかなどの具体についてまとめています。
小学校学級担任として,様々な問題の解決や未然防止のために,また子ども達の健やかな成長の基礎・基本に徹するために,本書を活用いただければ幸いです。
おわりに,本書の刊行についてご尽力いただいた明治図書の安藤征宏氏に心から感謝申しあげます。また,ご執筆にご協力くださった方々に厚くお礼申しあげます。
平成23年4月 /杉田 洋
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- 明治図書